親の期待と自分自身への期待
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親の期待と自分自身への期待

2016年11月20日(日)9:24 PM

IMARIB20160807065718_TP_V1親の過剰な期待が子供をだめにする、こういう慣用句があります。よく使われますし、当たっていないわけではないので、たいていの人はうなずきます。

 

 

 

 

しかしそれなら、期待しない親が良い親かというと、そういうわけでもありません。

 

 

 

 

ある程度わが子に期待するのは、当たり前の親心です。過剰な部分が問題なのであって、這えば立て、立てば歩めの親心は当然です。

 

 

 

 

もしそんな気持ちがなく、期待もしていないのであれば、それはただの傍観者、無関心です。

 

 

 

 

善かれ悪しかれ、期待があって当然のところではじめて程度の問題が出てくるのでしょう。

 

 

 

 

期待にもいろいろありますが、大別すると二方向に分けられるでしょう。親や家族あるいは世間など外からの期待と、もう一つは自分自身への期待です。

 

 

 

 

期待に関わって出てくる子供の問題は、あたかもこの二つが絡み合って作り出す人間模様のようです。

 

 

 

 

ここで取り上げるのは、そんな期待とそこから逃れられない心の話です。

 

 

 

 

小学六年生のA子さんが母親に連れられて相談に来たのは今年の六月の初旬のことでした。

 

 

 

 

突然の来訪でしたが、たまたま空いていたわたしが本人と会うことになりました。

 

 

 

 

A子さんは小柄ですが、少々大人びた印象を持たせる子どもでした。事前情報がほとんどなかったので、まず本人の話から聞くことにしました。

 

 

 

 

「学校で集団リンチがありました。やられたのはわたしじゃないけど、すごかった!」

 

 

 

 

「担任の先生はえこひいきをします。その子の言うことだけは、すぐ聞きます」

 

 

 

 

「うちの親戚のおばさんは障害者なんですけど、すごい勝手な人です。家族でもしないようなことを、堂々とします。正直、厚かましいです」

 

 

 

 

つぎつぎと話が出てきますが、そのつながりがまったく見えてきません。でも、A子さんがいろんなことを思っていることだけは分かりました。

 

 

 

 

そして同時に、あまり心穏やかに暮らしてはいないということも・・・。

 

 

 

 

そこで、「他の人のことはだいぶ分かったから、今度はあなたのことを話してくれますか?」そう問いかけてみました。

 

 

 

 

しかし自分については問題意識があまりないのか、あるいは伏せておきたいのか、さっきほど話がはずみません。

 

 

 

 

「時々いじめられるのが嫌・・・・」と言うくらいです。知能検査をしてみますと、ずいぶんアンバランスがあることがわかりました。

 

 

 

 

知識を問う問題はかなり答えられているのに、手先を使って実際に行う問題はさっぱりできません。

 

 

 

 

さらに検査中の大きな特徴は、分からない、出来ないと絶対に言わないことです。

 

 

 

 

普通、人は分かることには答えますし、分からないことは答えられません。だから分かりませんとか知りませんと言います。

 

 

 

 

ところがA子さんは必ず答えるのです。でたらめな答えでもです。そして出来ましたと言います。

 

 

 

 

ふざけた様子は微塵も見られません。これはおかしな感じでした。A子さんが自分の答えをどう思っているのか不思議でした。

 

 

 

 

ひょっとすると自分の答えていることを分かっていないのかとも思いました。

 

 

 

 

中座して、母親と会っている担当者と話しました。すると、今日ここに来たのは大学病院に行った帰りだとのことでした。

 

 

 

 

A子さんの視力が急に落ちて、家の中を手探りで歩くような状態になってしまいました。

 

 

 

 

驚いた両親は近所の眼科に連れて行ったのですが、原因が分からないので大学病院を紹介されました。

 

 

 

 

ところがそこでも眼科的に病気は見当たらない、心理的なものだろうから相談に行くようにと、ここを紹介されたといいます。

 

 

 

 

わたしはこのA子さんの状態をすぐに心理的なものだと決めつけてよいものかどうか非常に迷いました。

 

 

 

 

とりあえず、A子さんの特徴と症状とをつなぐものを心理検査を通して考えてみることにしました。

 

 

 

 

後日取り寄せたA子さんに関する資料には、「学業成績は下、一年生の最初から学力は低い。

 

 

 

 

しかしまじめに取り組んでいて、宿題を忘れることはない」と書いてありました。

 

 

 

 

火曜、金曜は学習塾、月曜はソロバン、水曜、土曜はピアノ教室に通っているとあり、そこでもトラブルがあるようなのです。

 

 

 

 

一見、A子さんは平気そうに見えるのですが、心の中はたいへんだろうと思いました。

 

 

 

 

まじめにがんばっているのに結果が出ないのはとても辛いものです。

 

 

 

 

がんばればなんとかなる、努力は報われる、これは理想です。しかし現実はなかなかそうはいきません。

 

 

 

 

A子さんはとてもがんばっているのにほとんど報われていません。さらに母親からの聞き取りによりますと、クラスでは「A子菌」と呼ばれたりして、ひとり浮いているようです。

 

 

 

 

ところが変に明るくて、「わたしには婚約者がいる」と言ってみたり、「私立中学を受験するからがんばらなくっちゃ」と言ったりするのだそうです。

 

 

 

 

それに視力が問題になっているにもかかわらず、クラスでは座席を前の方に替えてもらったりもしていません。

 

 

 

 

担任教師にそういう希望は伝えていないのです。めがねをかけていないのにもかかわらずです。

 

 

 

 

A子さんの祖父母は、一代で事業を興した地域でも有名な方でした。ぜひとも跡継ぎをと思ったのですが、授かったのは女の子一人でしたので、最初から養子を迎えるつもりだったそうです。

 

 

 

 

母親もそのように育てられてきましたから、特に疑問や不満もなく、親が選んだ現在の夫と結婚しました。

 

 

 

 

そしてすぐに女の子が生まれました。それがA子さんです。父親は九州の山村の農家の末っ子として生まれました。

 

 

 

 

高校を卒業すると就職で関西に来て、二、三、転職した後、消防署に勤めだして落ち着きました。

 

 

 

 

そこで祖父母に見初められたのです。末っ子だから養子に迎えるのに問題はないし、まじめな性格は職場の上司も保証していました。

 

 

 

 

ただ一家は誰も気にしていないと言ったのですが、父親がひとり気にしていたのが学歴でした。

 

 

 

 

母親は地元の有名な学校を、四年制大学まで卒業していました。父親は子供が生まれたとき、父親似で出来が悪いとは言われたくないと思ったそうです。

 

 

 

 

幼児期からかなり猛烈な教育パパで、四、五歳の頃は、つきっきりで勉強を教えたようです。

 

 

 

 

A子さんへの期待は自分自身の名誉を賭けた取り組みでもあったのです。しかし結果は思うように出ませんでした。

 

 

 

 

母親の卒業した私立小学校への入学はなりませんでした。それから六年、今度は妹が難関に挑戦する、ちょうどそんな時期でした。

 

 

 

 

妹のほうはとてもよくできる子だそうで、現在は英才教育の幼稚園に通っていて、受験準備に一家が懸命になっています。

 

 

 

 

見ることに関して症状を出しているA子さんの、「視力」と「ものの見方」について考えてみました。

 

 

 

 

心理検査の場面でA子さんの視力はまったく問題がありませんでした。もし、眼などの器官障害で起きていることなら、時と場所、相手を選んで症状が出ることはないでしょう。

 

 

 

 

そういう意味でも、現在の症状は何らかの心理的要因によるものだといっていいと思いました。

 

 

 

 

それよりも、いいかげんな答えにも出来たと言ってしまう事のほうが問題でした。

 

 

 

 

検査場面でA子さんが一度もできないと言わなかった意味を考えてみました。そして、能力としてできないと自覚する代わりに、眼が見えないからできないと思いたいのではないか、そんな仮説を考えました。

 

 

 

 

できましたと言うことでしか終われないA子さん、時には力足らずになることもある現実を、認めてやれない家庭教育、この親子で作り上げた期待から解放されるには、物理的条件が欠けていることになるのが一番でしょう。

 

 

 

 

見えないんだもの、仕方がない、そういうことではないかと思いました。しかし相談は、この後あまりうまく運びませんでした。

 

 

 

 

わたしたちの言葉に両親は、養育態度批判を感じてしまったようなのです。

 

 

 

 

二週間後、お話しする用意がありますからと連絡しても、家業多忙を理由に来てくれませんでした。

 

 

 

 

それともう一つ、A子さんの視力は回復に向かっているとのことでした。それを聞いて、何も無理に来所を勧めることもないなと思いました。

 

 

 

 

そこで、「視力が回復してきて本当に良かったですね。何かご両親で対策でも立てられたのですか?」と聞きました。

 

 

 

 

すると母親は、「A子がいろいろなことをしたがるので好きにさせていましたが、今度のようなことになったので、もう習い事は全部止めさせたんです。

 

 

 

 

塾もソロバンもピアノも。おかげで毎日ボーッとしながらゲーム三昧です」親は、誰も傷つかない解決方法を知っていたのかもしれません。

 

 



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