父母交替
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父母交替

2016年11月15日(火)8:34 PM

elly20160628400123_TP_V1カウンセリングの訓練や面接の中でもたまに使ってみる方法に、ロールプレイがあります。

 

 

 

 

割り当てられた役どころに従って振るまってみる、そんな方法です。普段、家族の中でお父さんはいつでもお父さんです。

 

 

 

 

お母さんはいつもお母さんです。これは変わりようのない家族の事実です。

 

 

 

 

ロールプレイでは、その役割を降りたり交替してみたりします。いつもの自分ではない誰かになって、誰かの視点から家族の問題を眺めたりするのです。

 

 

 

 

他の人の視点で事態を経験してみると、思いがけないことに気がついたりします。

 

 

 

 

わたしは楽しい面接を見たことがあります。夫婦で話し合いの最中でした。二人ともよく話す人たちでしたが、あまり相手の言っていることに耳を傾ける気はないようでした。

 

 

 

 

「あんたの言うことはわかっている」

 

 

 

 

「いつでもそうなんだから!」

 

 

 

 

「またそれだ、それじゃ話にならないだろう」

 

 

 

 

心持ちあごを突き出して甲高い声で叫ぶように話す妻に対して、斜に構えた夫が反応します。

 

 

 

 

おそらく何年も繰り返されてきたやり取りなのでしょう。それがまた、ここでも再現されているようでした。

 

 

 

 

S君は中学二年生です。両親の訴えは何だかはっきりしない心配でした。学校も休みがちでしたが、完全に不登校状態なわけではありません。

 

 

 

 

夕方から遊ぶ友達もいて、孤立しているわけでもありません。小遣いを使いすぎるのが心配だと父親は言います。

 

 

 

 

両親はともに野心的な人で、それぞれ小さいながらも自営の仕事を持っていました。

 

 

 

 

ちょうどこの面接の時期には、母親の下着訪問販売代理店業が波に乗り始めていました。

 

 

 

 

一方、父親のパソコン関係の教室は、思惑のわりには伸び悩み状態でした。

 

 

 

 

上等そうなコートを羽織ってバッグを膝に置いた母親と、タバコとライターを片時も離さないでカチャカチャ音をたてている父親、さてどんな展開になるのだろうと思って見ていました。

 

 

 

 

すでに何度か、S君もいっしょの面接が行われていたので、双方リラックスムードで、言いたいことを言い合っているようでした。

 

 

 

 

しばらく夫婦間の応酬があった後、わたしが、一つプランがあるのですがと話し始めました。

 

 

 

 

「お二人はお互いのことをよく知っておられる。それは話し合いの様子や、口論を聞いていてよくわかります。

 

 

 

 

だから今日、ひとつ提案してみたいことがあります。ぜひ実行してもらいたいのですがいいですか?」

 

 

 

 

一体何をさせられるのだろうかと戸惑いを見せながらも、好奇心もあるようで、簡単に同意しました。

 

 

 

 

わたしは自ら立ち上がると、「お二人とも立ってください」と言いました。何が始まるのか不安を見せつつ、両親も立ち上がりました。

 

 

 

 

「今、お二人の座っておられた場所を交替していただきます」なんだ、場所を替わるだけか、二人はそう思ったかもしれません。

 

 

 

 

「ただし、お父さん、お母さんの席はそのままそこにあります。その役割のところに、お二人が交替して座ってください」

 

 

 

 

何だか分からなくなりました。つまりお父さんには、今までお母さんが座っていた場所に母親として座ってもらいたい、お母さんには、今まで父親のいたところに父親として座ってもらいたいということです。

 

 

 

 

怪訝なおももちながらも、両親は言われたように席を交替しかけました。そこでわたしはお母さんのコートとハンドバックは新しいお母さんに、お父さんのタバコとライターは新しいお父さんに渡してくださいと指示しました。

 

 

 

 

それぞれ相手から受け取った小道具を持って着席しました。父親はおもしろがるかのようにコートを着ました。

 

 

 

 

すると母親が、「伸びるじゃないの!」と言いました。

 

 

 

 

「いつも相手のことはよく見えておられてご存知ですよね。相手の言い方やしぐさ、批判の仕方も熟知しておられるでしょう。

 

 

 

 

それではいつものようにS君の問題についてお二人で話し合ってみてください。ただし今の自分の役割のほうで」

 

 

 

 

奇妙なことが始まりました。最初は戸惑いや照れくささもあって話は弾みませんでした。

 

 

 

 

しかし、母親の演じる父親像に、「俺はそんなふうではない!」と文句を言ったところから会話はしだいに盛り上がっていきました。

 

 

 

 

両親ともお互いの真似は非常に上手いものでした。見ていたわたしは思わず噴き出してしまったほどです。

 

 

 

 

コートを着て、バッグを持って足を組んだ父親は、すっかり母親の気分と口調でした。

 

 

 

 

母親の、タバコとライターを打ち合わせながら多少いらついた様子で斜に構えて語る父親の真似も絶妙でした。

 

 

 

 

そしてふと我にかえると、自分はそんなにひどくはない!と笑いながらお互いを批評しています。

 

 

 

 

それに対しては、わたしが半ばジョークのように、「ピッピッ!」と口笛で、役割に戻るように警告を発していました。

 

 

 

 

この経験がこの夫婦に何をもたらしたかを厳密に語ることはできません。ただ言えるのは、二人が新たな視点をひとつずつ自分の中に加えることができたようだということです。

 

 



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