家庭の事情~中学三年男子生徒のケース~
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家庭の事情~中学三年男子生徒のケース~

2016年11月12日(土)11:08 PM

KMIMG_9368_TP_V1父親が息子に刺されたという事件が回ってきました。警察が関わった事件のうち、十四歳未満の子供の事件は児童相談所に通告されます。

 

 

 

 

大半が万引き、窃盗(自転車泥棒が多い)などです。ですから、児童通告書に『父親をナイフで刺し、驚いた母親が通報・・・・』と書かれているのを読んで、こちらも正直驚きました。

 

 

 

 

手順どおり、本人と保護者を呼びました。どんな少年が来るのか、好奇心も働いていました。

 

 

 

 

やってきたのは、母親と中学三年のA君でした。すぐに面接と心理テストを行いました。意外で印象的だったのは、彼が非常に多弁だったことです。

 

 

 

 

こういう場合、何となく少年は寡黙で話さないような感じが普通なのですが、この少年の場合は、母親の話を聞かずとも、彼の話で家庭の状況はほぼ把握することができました。

 

 

 

 

事件は母親とA君の住む賃貸アパートの一室で起こりました。父親は現在、ある地方都市で単身生活をしています。

 

 

 

 

その父親が帰宅している時のことでした。幸い怪我は大したことはなく、はずみで起きたことのようでした。

 

 

 

 

家庭事情のあらましは以下のようなものです。父親はなかなかの野心家で、事業を手広く展開していました。

 

 

 

 

つい先日までは、現在母子の住むアパートから十分ほどのところにある大きな一戸建て住宅で暮らしていました。

 

 

 

 

ところが会社の業績が悪化し、負債を背負うことになりそうになった段階で、父親は財産保全のため形だけの離婚をしたそうです。

 

 

 

 

会社は倒産してしまいました。しかし父親は、別れた母親と子供たちの名義にしてある資金を元に、別の場所で新たな事業の準備をしているところだそうです。

 

 

 

 

それにこんな事情やA君の事件のことは、東京の大学に行かせている長男には知らせていません。

 

 

 

 

大した問題ではないという父親の判断なのでしょう。兄は知らないまま今までどおり十分な仕送りを受けて、学生生活を楽しんでいます。

 

 

 

 

姉は事情は知っているのですが、ずっと以前に家を出ています。父親とはいっさい話さず、母親とだけ音信があります。

 

 

 

 

「僕はこんな生活は絶対嫌だし、お母さんが何も言わないで辛抱している事にも腹が立つ」A君はそう言いました。

 

 

 

 

ひと言で言えば、父親の作ってきた家庭に意義ありと言ったのでした。遠方の地方都市から父親が新幹線で面接にやって来て、両親とA君がそろいました。

 

 

 

 

しかしわたしが予定していたような面接は始まりませんでした。いきなり父親が、「こんな事を言うと失礼かもしれませんが、お宅らはどんな資格でこういう仕事をしておられるのですか?

 

 

 

 

われわれのほうには、あなた方にはわからん苦労があれこれありましてね。

 

 

 

 

他人の家庭の事なんて、お宅らにいくら考えていただいても、わたしが一番よくわかっていますから、何もうかがうことはありませんよ。

 

 

 

 

息子のことだってそうです。わたしは親なんですから。今度の件も、女房が慌てて電話したりするからこんな事になってしまいましたが、親子喧嘩なんてどこの家にもある事ですよ。

 

 

 

 

心配などしていませんし、何も問題ありません。警察で話は済んだと思っていたのに、いったい何を申し上げないといけないんですか?」

 

 

 

 

こんなふうに極めて挑発的でした。面接担当者も戸惑っていました。わたしは「確かに親子喧嘩はどこの家にもあるけれど、刺される父親はめったにいない」と思わずつぶやきました。

 

 

 

 

一番反応したのはA君でした。前回来たとき、自分の思っていることを十分に話した彼は、この面接に期待している感じでした。

 

 

 

 

何かを両親と話し合いたかったようです。しかしこの父親の様子を見たとたん、明らかに失望していました。姿勢が崩れ、話す気持ちが完全に失せてしまったようでした。

 

 

 

 

後は父親の独演会になり、A君も母親も押し黙ったまま、終了時間になってしまいました。

 

 

 

 

A君は父親だけではなく、こんな状況を甘受している母親にも、絶望の目しか見せませんでした。

 

 

 

 

そして二度と誰も来ることはありませんでした。A君がナイフを手にした時の状況は、面接のときと同じだったようです。

 

 

 

 

突然父親が帰宅して、自分の考えた段取りをどんどん勝手に進めていきます。母親は愚痴くらいしか言うことができません。

 

 

 

 

一方的に母親は批判されていました。その時です、A君がナイフを手にしたのは・・・。

 

 

 

 

もともとA君はカッとなりやすいたちでも、暴力的な少年でもありませんでした。

 

 

 

 

経済的なことだけが優先されて、どうにもならなくなっていた家族関係の袋小路に、突破口を開けようとしたのだと思います。

 

 

 

 

よくよくの事だったのです。しかし結局、怪我がたいしたことがなかったように、思い切って開いた突破口も、父親の手で簡単にふさがれてしまいました。

 

 

 

 

事件が繰り返されたわけではありません。そこだけを考えれば、済んだことなのかもしれません。

 

 

 

 

しかし、A君が求めたことは何も実現してやれなかったという思いが強く残りました。

 

 

 

 

いまさら何を言ってもしかたないのですが、あの時、何かを失ったのはA君だけではなく、父親も息子とつながれるチャンスを逃してしまったのだと思います。

 

 



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