親の「不機嫌」という暴力
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親の「不機嫌」という暴力

2016年09月19日(月)10:01 AM

「僕は友達がどんなに近くにいても心の中では遠くにいたように思います。声をかけたくても言葉を選び、頭はぐしゃぐしゃになり、のどは渇き、気軽に親しみを込めて肩にふれようと思うと、全身が震えてくるんです。

 

 

 

 

それはみんなに誤解されないかという不安からでした。話したり、触れたりすると相手の心を刺激しますよね。そうすると僕の気持ちにお構いなく、言葉や行為がひとり歩きしていくように思えるんです。

 

 

 

 

それがすごく怖いんです。だから絶対誤解されないという保証がないと不安でつき合えないんです。でも、そんなことを言っていたら、友達なんかできない、ということも十分すぎるほどわかっているんです。

 

 

 

 

誤解されることを恐れずにとは思いますが、勇気がでないんです。これまで何回も勇気を出してみたんですが、結局ぎこちなく、疲れてしまいました。それからです、僕が一人でいることを選んでしまったのは。自分で選んでいることですが、やっぱり寂しいですね。

 

 

 

 

最近では声が、自分のものではないように思うこともあります」心の奥底では触れ合いたいのに、触れ合えないで苦しんでいるB君(21歳)は、誤解されないかという不安と他人から自分への誘い、ふれあいが「ひどく気になっていろいろと考え込み、多くはマイナスの方向に思ってしまいがち」である自分をもてあましています。

 

 

 

 

両親から「やさしくてひょうきんな子」だと思われていたB君は、「争いごとが起きて不愉快にならないように、いつもまわりに気を使い、自分に視線を集めることでその場をとりつくろってしまうような、とんでもなく惨めな人間になる生い立ちがあった」と相談室でわたしに話してくれました。

 

 

 

 

「高校教員の父は、これでも学校で生徒に授業をしている先生かと思うほど無口な人でした。テレビはNHK,雑誌は文藝春秋とやたらそのことに誇りを持ってこだわっていました。

 

 

 

 

堅物と母は言っていましたが、中学生になった僕には、人間として問題のある人と思えるような、わけのわからない人でした。父は突然に機嫌が悪くなる人で、夜でもいきなり車でどこかへ行ってしまったり、一週間も口をきかないこともありました。

 

 

 

 

僕が小学校の一、二年生のときだったと思いますが、冬の夜、両親、祖父母(母方)、妹の家族全員で鍋をしていたんです。みんなで好き勝手に鍋をつついて平和でした。しばらくして母が祖父母の取り皿を受け取り、野菜を入れ肉をのせると差し出したんです。

 

 

 

 

そうすると祖母が母に向かって「お母さんも食べなさいよ」と言って鍋の中から肉を取り出して差し出したんです。すると父は急に席を立って部屋に入ったきり出てこないんです。僕は何か気持ち悪くなったのかな、と思っていたんですが、心配した母は部屋から出てくると頭をかしげながら目で祖父母と僕たちに、また何かしゃくにさわったみたいと合図しました。

 

 

 

 

父は自分の価値観が絶対的で、少しでも外れると不愉快さを行動に出していたと思います。この日のことが気になっていた僕は中学生になったとき、父の気持ちを母に聞いて驚きました。

 

 

 

 

父は「まず主の自分を一番に立てるべきで、妻が祖父を優先したのはおかしい、祖母は娘(母)ばかりを大切にして自分を婿いびりしている」と思ったというわけです。

 

 

 

 

父はどこかがひねくれていると感じましたが、そのとき僕自身の中にもそんな見方をしてしまう傾向があることにも気づきました。僕や母は、いつ父の機嫌が悪くなるかわからないので、緊張の毎日で、父におびえていました。

 

 

 

 

それは不機嫌という父の暴力でした。父は僕の名前を呼んでくれたりしたことはありませんでしたが、僕も中学生になるとお父さんと話しかけることにくたびれていました。

 

 

 

 

勉強を教えてくれるときの父はとてもやさしい人でしたが、それは父というよりも先生という距離をもって感じるものでした。だから少し甘えていくと「あとは自分で考えなさい」とどこかへ行ってしまうんです。

 

 

 

 

それからまた戻ってくると、今度は脇に近寄ってきて手を取るようにして教えてくれるんですが、疲れて居眠りすると、まじめに努力しろと教科書やノートを全部片づけてしまうんです。

 

 

 

 

この極端さにはついていけませんよね。僕は疲れているだけでまじめなんです。それからですね、誤解を与えてトラブルを起こさないようにするために、僕は慎重に慎重を重ねるぎこちない人間になっていったと思います。

 

 

 

 

そしていつもまわりのことを気にしている自分自身が弱虫のようですごくいやでした。でも父にはまだできないのかと怒鳴るよりも、がんばっているな、あとどのくらいかな?とささやいてほしかったんです」

 

 

 

 

顔を赤らめ、おどおど話すB君にわたしは尋ねてみました。「いまB君は話しながら、僕が君のことを誤解しているんじゃないのか、と心配していないかい」

 

 

 

 

「そうなんです。父親のことをこれだけ悪く言うやつは変わり者だ、と思われはしないかと・・・。でもそうして僕の気持ちを聞いてくれると安心しますね。父は物心ついたころには父親がいなかったそうです。

 

 

 

 

だから母が言うには、父親や男性としてのモデルがいなかったせいらしいんですね」「なるほどね。なぞが解けるとB君も気持ちが落ち着くだろうね」

 

 

 

 

「はい、でも、いつも他人に誤解されないかなという不安と、他人が僕にあらわす態度や言葉がなぞになって悩み続けてしまうのもくたびれます。だから、僕なりにこんな性格を変えて友達をつくろうと努力したんですよ。

 

 

 

 

その結果が不登校になって高校中退だから、自分が選んだこととは思っても、父親に、他人の視線ばかり気にするような惨めな人間に育てた責任を取ってほしいと、こんな年齢になってまで言っているんです。

 

 

 

 

父親から見たら意気地なしでも、僕の境遇だって少しは理解してほしいんです」わたしは、いましばらくB君の話に耳を傾けることにしました。

 

 

 

 

「僕は体ばかり大きくても運動神経は鈍かったので、不恰好でした。だから少しからかわれていたこともあり、友達同士が話していると自分の噂をされているようで気になって仕方がありませんでした。

 

 

 

 

そのすっきりしない気持ちを打ち消したくて、話の輪の中に割り込んでいくんです。話の腰を折る、というやつですね。自分でも唐突かな、と思ってはいるんですが、不安なんです。

 

 

 

 

それですぐに、ごめんと謝るんですが、みんなの目は許してくれませんでした。はじめから話の主人公の一人になっていても、その場の雰囲気を壊したりして、口論や争いごとを起こして巻き込まれていくことに自信がなかったので、自分で話しては相手が誤解していないかと確認をとりたくなるんです。

 

 

 

 

たとえば、「僕は君のことを目立ちたがり屋なんて思ってはいないよ」とか、「君は僕の事を強引なやつだと思っているんでしょう」と聞いて、自分の気持ちが正しく伝わっているかを納得したいんですね。それも一つひとつに誤解がなかったかと不安で確認するので、うるさがれてしまい、話しかけてもらえなくなってしまいました。

 

 

 

 

ひどいときには、「おまえは俺のことをそんなふうに思っていたのか」とけんか腰に詰め寄られ、僕の真意とは反対の方向に進んでしまうことも多かったんです。

 

 

 

 

そうすると自分の気持ちを正しく、細かく、もらすことなく全部を伝えようと焦りだすんです。気持ちが焦ると、話し方も焦ってしまい、早口になるんですね。そして途中で割り込まれると返事に困って混乱し、ぶざまになるので防衛しようと、機関銃のようにしゃべっているんです。

 

 

 

 

だから僕の話し好きという噂は、誤解なんです。本当は友達への近づき方がわからず、ひとりでまわりから浮いていることも知っていてしゃべりまくっていたんです」

 

 

 

 

話し続けるB君に牛乳パックを差し出しました。そして、少し落ち着いたようなので、「飲まないの」とわたしは恐る恐る聞いてみました。「いや、そんなことはないんです。アッやっぱり気になりますか。別に嫌いだから飲まないということではないんですが。誤解しないで・・・・・。」

 

 

 

 

「アー、それだね。その説明をする間に飲んで、相手の話を待っていればいいんだよね」「その間がとれず、待てないんですね。それをおかしいとか、変と言われたんです。

 

 

 

 

僕は必死で他の人と同じようにしようとしたんですが。とてもつらかったです。自分の存在が否定され、周囲の目にがんじがらめになって学校に行けなくなったんです。

 

 

 

 

こんな自分を理解して付き合ってくれる友達に会いたくて、定員割れの二次募集で高校に入りました。僕はすぐクラスの全員に向けて心のふれあいを求める旅サークルの友達募集を掲示板に貼って試みたんです。

 

 

 

 

そうしたら恐れていたとおり誤解され、僕はすべてにおいておかしい人間と噂される羽目になったんです。そしてそう思われているクラスにいることは、それを自ら認めてしまうことになると思い中退し、もう保証がないかぎり人と付き合うことをあきらめてしまったんです」

 

 

 

 

B君と二人、相談室を出て外を歩きはじめようとしたときでした。B君と同じように相談に訪れているほかの若者が、B君とすれ違うように入ってきました。B君が声をかけました。

 

 

 

 

「この前はごめんね」「何が?」「アッ、また悪い癖が出ました。まあ、そのうち何とかなるでしょう。僕自身、自覚しているんですから」わたしは笑顔でうなずくと、B君の肩に「誤解」を与えないようにそっと触れました。

 

 

 

 

素直に自分の思いを伝えられず、友達から見捨てられることをずっと恐れてきたB君です。いい子と言われる子どもの中にB君のような喜怒哀楽、あるがままの気持ちをうまくあらわせないで悩んでいる子が多いようにわたしには思えます。

 

 



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