ひきこもりと魂
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ひきこもりと魂

2016年03月23日(水)5:52 PM

何年か前に、新聞のコラムで読んだ記事が印象に残っています。それは、ヨーロッパの登山隊とシェルパたちのやりとりに関する記事でした。

 

 

 

 

ヨーロッパ隊は、彼らのスケジュールにしたがって、どんどん山登りを進めていきました。

 

 

 

 

ある日、シェルパたちが急に動かなくなりました。登山隊の人たちはびっくりし、そして困り果てました。

 

 

 

 

そしてありとあらゆる理由を考え、彼らに問うたのです。「もっと金がほしいのか?」「仕事がきついのか?」等々です。

 

 

 

 

すると彼らは、「あんまり早く登ってきたので、自分たちの魂が追いついてこない。だから待っている」と言ったそうです。

 

 

 

 

ヨーロッパ隊の人たちは彼らが何を言っているのかわからず、戸惑うばかりです。しかし、なだめても脅しても、彼らは一歩も動いてはくれません。

 

 

 

結局、そのまま何日か過ぎていきました。ところがある朝、彼らはさっさとしたくをして進みだしたのです。

 

 

 

驚いた登山隊の人が聞くと、「やっと魂が追いついたから・・・・」と言いました。

 

 

 

 

この話は、ひきこもりの子どもたちの問題を考えていたとき、自然に思い出だされました。

 

 

 

 

敗戦後、わたしたちは、豊かになることが幸せになることであると信じ、「すつうになること」を望み、「ふつう以下になること」を恐れながら生きてきたといってもよいでしょう。

 

 

 

 

そして先達の必死の努力のおかげで、わたしたちの生活は確かに向上し、物質的には豊かな暮らしを得ることができました。

 

 

 

 

ところが、いえ本当は「だからこそ」、そこで横にとり置いておいた心の問題にやっと今、わたしたちが直面する時期が来たのでしょう。

 

 

 

 

井原成男氏は、「物質的豊かさは得たが、心は貧困になったというのが昨今、心について考える際の標語になっているが、心が豊かでない物質の豊かさなどない」と指摘し、「心と物はひとつのものの二つの側面。この豊かな二側面を備えたものをトータルな精神と呼びたい」(2000年度教育心理学会準備委員会シンポジウム・破壊された関係性~その起源と修復の可能性を探る~における発言より)と語っています。

 

 

 

 

井原氏の言葉を借りるならば、ある程度の経済的な豊かさを手に入れたわたしたちは今、トータルな精神を取り戻すために、心の問題をも自分たちの視野にいれて考えるようにと、価値の基準を方向転換することを求められている、といえるのではないでしょうか。

 

 

 

 

それは戦後、日本が間違った道を歩んだからこうなったということではなく、経済的な基盤を得たがゆえに、これまで影になっていたことに視線を向けるときがきたということなのです。

 

 

 

いってみれば、ここにきてわたしたちおとなが落としてきたものが価値を持つようになってきたということなのです。

 

 

 

 

子どもたちは自覚していません。しかし彼らの無意識がそれをキャッチして、不調を呈するというかたちで訴えています。

 

 

 

 

でもおとなたちはまだ、気づいていない・・・・・それがひきこもりをめぐる、今日のあり様ではないか、とわたしは捉えています。

 

 

 

 

それがすなわち、今一度、横においてきた心を取り戻すことであり、心を使って対話する、豊かな関係性を取り戻すということです。

 

 

 

 

子どもたちがひきこもるという自分の全存在を賭けながら「何か欠けているものがある」と訴えていることの意味は、ここにあるのではないでしょうか。

 

 

 

 

そう考えていくと、いったい誰が治療の対象なのでしょうか。いまだひきこもりをめぐっては、その理解も対応策も一つのところに収斂されてはいません。

 

 

 

しかしどちらかというと現在、多発するひきこもりの青年たちによる事件も引き金になり、子どものひきこもりは困った現象、問題行動と捉えられ、おとなたちがどう立ちなおらせていくか、あるいは治していくか、というような路線で語られてきているように思います。

 

 

 

 

彼らを問題視し、どう対応して社会に戻していくか、と考えるのであれば、わたしたちおとなが正しく、彼らが間違っている、だからその彼らをどう正しい道に戻してあげるか、ということになるのでしょう。

 

 

 

 

しかしわたしは、社会のほうが曲がり角に来ていることに気づいていない、大きく言えば、治療が必要なのは社会のほうだろうと考えています。

 

 

 

 

「子どもたちを何とかしてやろう」というのは、おとなのおごりでしかないのではないかと思います。

 

 

 

 

ひきこもりをする子どもたちは、強迫神経症や対人恐怖症、あるいは不安神経症など、さまざまな神経症的症状を持っていることがありますし、長期にわたってくると人格障害のようなむずかしい状態を呈してくる場合もあります。

 

 

 

 

その場合にはもちろん、それらの症状や問題に対する治療的対応が必要です。しかし、それはひきこもりそのものに対する治療でなく、随伴する症状に対する治療です。

 

 

 

 

ひきこもりの悪循環のからくりから抜け出せず、出口なき渦のなかに身を置いてる人に対して、どうしたらそこから脱出できるかを一緒に考えることは、親や支援者、専門家が共同で行うことが重要です。

 

 

 

 

親や支援者、専門家にできることは、その人の人生の真実に深くかかわること、逃げずにその人と一緒にそのひきこもり本人の再生へのチャレンジに伴走していくということであり、「何をどうしたらよくなるか」というハウ・ツーを教えることではありません。

 

 

 

 

そうせざるを得なかった、そのひきこもり本人の生き方への深い理解と共感がまずは必要でしょう。



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