引きこもる社会人たち 3
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引きこもる社会人たち 3

2013年12月25日(水)5:20 PM

引きこもる社会人たち(7)

 

大手企業の技術職に勤める30代前半の佐藤さん(仮名)も、直属の上司との関係が原因で引きこもりになりま

 

した。佐藤さんにとっては、上司から与えられる課題は難しすぎた、と言います。しかし、上司に相談しても

 

、自分の仕事で忙しくて、取り合ってもらえません。佐藤さんはしだいに不眠症に悩まされるようになります。

 

会社の玄関をくぐろうとすると、急に動悸がしてきて気持ちが悪くなり、玄関をくぐることができなくなって、

 

家にそのまま引き返すようになりました。理由を聞くと、「あの上司の顔だけは見たくない」と言います。そし

 

て、しだいに出勤できなくなってしまいました。そのきっかけは、会議の席で、上司にかなりきつく詰問された

 

ことでした。佐藤さんは、「今まで何も教えてくれなかったのに、同僚の皆の前でそこまで言うのか」と、涙が

 

止まらなくなったと言います。会社では、一般的に二週間以上出勤してこない社員がいれば、懲罰の対象になり

 

ます。こうしたご時世ですから、、人事担当者も放っておくわけにはいきません。欠勤を続ける本人や、家族に

 

連絡を取って、本人を健康管理室や、医務室に連れて行こうとします。しかし、医師に診てもらっても、病気に

 

は見えません。結局、佐藤さんは「適応障害」と診断されました。医師の治療によって、不眠などの症状は改善

 

されました。それでも、なかなか出勤使用とはしませんでした。上司は「そんなにいやなら、他の部署に異動さ

 

せよう」と提案しました。しかし、佐藤さんは、その上司のいる「会社そのものに拒否感」を持ってしまったと

 

言います。「人前で辱められたことを我慢せずに、涙が止まらなくらる反応をしたのは、自然なことです。いま

 

までは、個人を殺して耐えて適応していくのが会社員として当たり前でした。ただ、彼は折り合いをつける道を

 

取らなかった。そうしているうちに、休職期限が過ぎて、会社から消滅していく人たちも少なくありません」と

 

産業カウンセラーは会社側の対応の限界を明かします。会社の玄関に入れなくなる症状は、登校拒否がそのまま

 

移ってきたような図式です。ただ、会社を辞めていった彼らがその後、どうなったのか。追跡されることはあり

 

ません。「大人の引きこもりが数多く潜在化しているのでは」といわれるゆえんです。

 

ひきこもる社会人たち(8)

 

大手企業に勤める30代後半の関口さん(仮名)も、会社の玄関をくぐれなくなって、休職した。専業主婦の妻

 

がいるのに、ここ最近は、引きこもりの生活をしています。関口さんは、支店から本社に転勤してきました。し

 

かし、本社の周りの雰囲気は、皆がパソコンに向かっていて、音もなくシンとしています。誰も雑談せずに、そ

 

れぞれ自分の仕事に向かっているからです。関口さんには、アットホームで気軽に話のできた、支店時代とちが

 

って、 そのよそよそしさが耐えられなかったと言います。「3年間、本社でがんばれば、昇進できるか

 

ら・・・」とも言われていました。しかし、朝、出社すると、そんな職場の雰囲気に、体が、ふるえるようにな

 

りました。そのうち、玄関にさえ入れなくなって、突然、無断欠勤が始まってしまいました。「原因を調べてい

 

くと、雰囲気や場所に反応していることは、意外に多いんです。事故や事件に遭った場所を通ると、昔の体験が

 

よみがえるトラウマににていますよね。だから、会社に近づいてきて、建物が見えただけで、おびえてしまい、

 

体が動かなくなるのです」と産業かカウンセラーは説明します。蛇ににらまれたカエルのようなものです。学校

 

で試験中、トイレに行きたくなる過敏性大腸症候群にもにているかもしれません。それでも、関口さんは当初、

 

出勤時間になると、家を出ていました。彼の妻も、会社に行っているものとばかり思っていたそうです。しか

 

し、会社の玄関の前まで来ると、どうしても入ることができません。結局、公園などで時間をつぶして帰宅時間

 

が来ると、家に帰っていました。気づいたときには、もう後戻りできない状況になっていたようです。「やは

 

り、会社に行くと、交流があることが支えになっていることも大きい。そうした職場のファミリーのような人間

 

関係が、日本の企業を支えてきたと思う。しかし、終身雇用のシステムが崩壊して、今は皆、自分の課題で精一

 

杯になっている。上司も自分の成果を出さなければならず、全く余裕がないように見える。成果主義の流れが、

 

これまでの個々のつながりを寸断し、他人を気遣うサポート体制も崩れてしまったんです。」これまでの会社員

 

なら、個人をころし、上司や会社の理不尽にも耐え、適応していくことが当たり前だと信じてきた。しかし、こ

 

うした会社を拒否する身体症状は、一つの主張なのでしょうか。

 

ひきこもる社会人たち(9)

 

朝、どうしても起きられない。頭の回転も鈍くなっていると訴えるのは、大手企業で研究職に就く加藤さん(仮

 

名)。すでに会社に入社して10年になる中堅社員です。そんな年にもなって、なぜ、と思うほど、会社を休み

 

出すと、ずるずる出勤できなくなり、しばらく引きこもりの生活が続きます。加藤さんは一人暮らしです。有給

 

休暇も使い切り、会社は実家の母親に連絡しました。すると不思議なことに、母親が駆けつけたとたん、加藤さ

 

んは再び出社し出します。母親が滞在した二ヶ月ほどの間、何事もなかったように出勤を続けました。朝、母親

 

に起こしてもらえたからだと言います。ところが、母親が帰ったとたん、また朝、起きられなくなって休みはじ

 

めました。引きこもりの背景には、家族の影響もあるのでしょうか。会社の健康管理室から、精神科のクリニッ

 

クを紹介してもらい、見てもらったところ、うつと思われる症状がそろっているといいます。また、きっかけ

 

が、週休二日制の会社ということもあって、加藤さんは金曜の夜になると、ネットにはまっていることもわかり

 

ました。金曜の夜、加藤さんはほぼ徹夜をするために、土曜日あたりから睡眠のリズムが狂い出します。土曜日

 

の昼間に一日寝ていて、起きるとまたネットの生活になります。そして、日曜日の昼間も寝てしまうので、月曜

 

日の朝になると、起きられなくなってしまうのです。産業カウンセラーは「原因のネットをやめて、リズムを作

 

ろう」とアドバイスをしました。すると、しばらくの間は出勤できます。しかし、母親がいないと朝おきられな

 

くなるといいます。ただ幸いなことに、加藤さんは仕事ができるため、2~3週間休んでも、会社から何も言わ

 

れませんでした。「母子関係の問題ではないと思う。最近の上司は、部下が休んでいても心配しない。コンピュ

 

ータが職場に導入されるようになり、昔のように後輩を育てるシステムが崩壊してきたのではないか。だから、

 

自分が困ったときに誰も教えてくれず、上司にも相談できないまま、休みに入ってしまう。暗礁に乗り上げたと

 

き、孤立することも引き金になっている」と産業カウンセラーは、最近の職場の余裕のなさが、ひきこもる大人

 

たちを生み出していると見ています。

 

ひきこもる社会人たち(10)

 

中には死に至るケースもある。都内の某企業に勤務していた40代の新井さん(仮名)は、会社を辞めた後、家

 

に引きこもりました。程なく離婚して、妻子と離れ私鉄沿線にある古いアパートで一人暮らしをするようになり

 

ました。しかし、何年か経って、貯蓄も底をついて家賃を滞納するようになりました。心配して、新井さんの部

 

屋をアパートの管理人が訪ねました。電話も通じなかったので、マスターキーで部屋の中に入りました。長年の

 

勘で、玄関に靴がなければ、夜逃げだろうと考えていました。でも、最悪の事態が生じていました。新井さんは

 

首つり自殺を図っていました。「部屋の中は汚くて、カップラーメンなどが散乱していて、しっかり生活してい

 

なかったようだ」(管理人)。新井さんが死を選んだ経緯は知るよしもありませんが、会社を辞めた原因につい

 

ては、周囲に「職場の人間関係」と話していたようです。退職後もしばらくの間、新井さんは再就職先を探し回

 

っていたようです。管理人も当初は「仕事、就いた方がいいよ」などと声をかけて、新井さんも「がんばります

 

よ」などと、答えていました。しかし、景気の悪化と40代という年齢が再就職のネックになりました。行き場

 

を失った新井さんは、しだいに無気力になり、ひきこもっていったのでしょうか。この管理人が管轄している物

 

件では、去年から今年にかけて自殺者が二人、夜逃げが一人いました。いずれも、新井さんと同じような40

 

代の男性でした。「同じ一人暮らしでも、お年寄りは、行政のスタッフが様子を見に来るから、それほど問題は

 

ない。危険なのは40~50代で会社を辞めて、再就職先が見つからないような人。仕事に就いても環境が悪く

 

て2,3回転職したりする。そうしているうちにやる気がなくなっちゃうんだろうかねえ」と管理人はため息を

 

つきます。彼らに対する国の救済策は、放置されたままです。そして年間3万人を超える自殺者数を確実に押し

 

上げています。

 

ひきこもる社会人たち(11)

 

会社も家庭もある大人たちがなぜ、家から出られなくなるのでしょうか。神経生物学の観点から、高次神経機能

 

の解析を行っている、東北大学大学院医学系研究科の曽根一郎教授は最近、引きこもり状態の男性を治療しまし

 

た。患者は、有名企業に勤務していた30代の事務職系社員の江口さん(仮名)です。家族は、妻と息子の3人

 

暮らしでした。江口さんは毎朝、妻の運転する車で送られて、会社に通勤していました。ところが、会社の門の

 

手前で、体が動かなくなってしまいます。結局彼は、出社できなくなって引き返すことになって、自宅に戻ると

 

いう日々が連日続くことになりました。すでに江口さんは、有給休暇を使い果たしてしまい、長期間休んでいま

 

した。曽根教授は、会社の産業医から、このように引き継いだといいます。「会社としては、彼が非常に優秀だ

 

ったこともあって我慢していた。完全に完治させた上で復職させたい。ただ、これ以上長引いて復帰できないよ

 

うなら退職させたい。」曽根教授が診たところ、江口さんは鬱病と診断され、会社側の「完全治癒させたい」と

 

いう意向を受けた産業医から、精神刺激のリタリンをはじめ、複数の薬を投与されていました。ですが、曽根教

 

授は、江口さんの症状にあった抗うつ剤一種類だけにしました。すると、江口さんの気分もしだいに上向き始め

 

て、症状も落ち着きを見せました。しかし、江口さんは、なかなか会社に行くことができませんでした。そこ

 

で、比較的弱い精神安定剤の抗不安薬を追加してみました。しばらくすると江口さんは、会社の手前まで行って

 

も、顔がこわばることがなくなりました。その後、少しずつ出社できるようになって、今では普通に勤務してい

 

ます。「会社に行ったら、きちんと仕事をしなければならないと思う反面、きちんと仕事をできる自信がない。

 

そんな葛藤に悩んでいたと思います。うつ病に罹りやすい性格の方は、非常にまじめな方が圧倒的に多い。そ

 

して、完璧主義者も非常に多いのです。」と曽根教授は指摘します。心の病は一般的に、体の治療のように完治

 

してから復職させるよりも、職場環境のなかで治療を進める方がプラスになる場合も多いのです。「座っている

 

だけでもいい。途中で早退してもいい。とにかく会社に行ってみて」という妻の説得で、江口さんは再び、出社

 

できるようになりました。



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