出勤困難とひきこもり
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出勤困難とひきこもり

2020年11月05日(木)10:21 PM

 

 

 

 

職場では、ひきこもりという言葉は今のところあまり一般的ではありません。「若年社員のひきこもり」(野村俊明・若年社員の引きこもり・日本産業精神保健学会編・中山書店・1998年)という論文もあるものの、これらは、思春期の社会的ひきこもりが問題となっているのを意識してつけたタイトルといえます。典型的な社会的ひきこもりは、就職段階以前に発症することが多く、産業現場で経験される事例は少ないということもあります。むしろ産業現場では、出勤拒否や出社拒否という言葉をよく耳にします。

 

 

 

「登校拒否」は「不登校」と言い換えられるようになって久しいですが、「出勤拒否・出社拒否」を「不出勤・不出社」と言い換える動きは現在のところほとんどありません。これは、同じ社会参加であっても、教育を受けることと働くことでは社会的な意味合いが異なることや、「登校拒否」と「出社拒否」とでは、それらの現象に対する社会の受け入れや対応が異なっていたことによるものと思われます。

 

 

 

また、後述するように、出勤拒否の一つに、悪びれることのない平然とした態度が目立つような、健康管理スタッフ泣かせのタイプがあり、その印象が強いせいもあるかもしれません。とはいえ、多くの出勤拒否は不登校同様、行かなければいけないと思いながら出勤できない状態にあるのであり、「出勤困難」と呼ぶほうがより適切でしょう。

 

 

 

 

出勤困難    ~職場不適応症の概念~

 

 

 

 

職場不適応症の概念

 

 

 

 

職場においては、ひきこもり類似の状態像は、主として職場不適応という観点から語られてきました。出勤困難というのは、職場不適応によく見られる表現型のひとつと考えられます。「職場不適応症」という概念は、小沼十寸穂氏「精神医学と職場~その現状と問題点~・臨床精神医学・1976年」の提唱に始まります。小沼氏は、職場不適応が深化して臨床的に捉えられる症状を呈するに至ったケースを職場不適応症と呼び、職場不適応から職場不適応症を区別しました。

 

 

 

すなわち、職場不適応を社会病理現象としてでなく、職場不適応症という病気として捉えて初めて臨床の俎上にのせることができたという点が、学校精神保健における不登校研究の黎明期に思いをめぐらせると、非常に興味深いです。小沼氏は、職場不適応症を、労働負荷・職場環境などの職場の要因と、体質・素質や私生活環境などの個人の要因との関数として発症するとしました。すなわち、職場要因と個人要因とが絡み合って職場不適応症を起こすということです。この概念には、精神疾患や身体疾患による二次的なものも含まれています。

 

 

 

夏目誠氏「職場不適応症について~受診状況調査、発症要因と治療を中心として~・産業医学・1982年」は狭義の職場不適応症を、職場環境の変化などの職場要因に対して、就職動機や生活環境などを含む個人の適応力の不足のために、就業に対する不安、焦燥、恐怖感とともに、部分的、選択的うつ状態を呈し、受診するに至った者と定義しており、神経症やうつ病、統合失調症などの精神疾患、および身体障害に起因する二次的な職場不適応は含めないとしています。

 

 

 

 

ストレスモデルの考え方

 

 

 

 

いずれにしても、出勤困難という現象を、職場不適応として、すなわち、職場要因と個人要因との相互作用の結果として位置付けている点が大きな特徴です。これにはストレス理論の影響が大きいです。仕事のストレッサー(ストレスの源)が、個人にストレス反応を惹起し、悪くすれば疾病に至ります。仕事の量や質による負荷や職場の人間関係の軋轢がストレッサーとなって、働く人に疲労や不眠やイライラ感といったストレス反応を起こし、それが高じると、例えばうつ病のような病気になってしまうという図式です。

 

 

 

典型的なストレスモデルに、アメリカの国立職業安全保健研究所の職業性ストレスモデルがあります。ストレスモデルは、今や職域における精神保健を語る上で欠かせません。職域におけるこうしたストレスモデル全盛の背景には、仕事のストレッサーと疾病との関連が、狭心症や心筋梗塞やうつ病などの疾病の頻度の差としてすでに実証的に証明されているという裏付けがあります。

 

 

 

仕事のストレッサーが増大すると、心筋梗塞やうつ病のリスクが高まるという研究が報告されています。すなわち、仕事のストレッサーが健康に影響を及ぼしているのが明らかになっているのです。このように、仕事のストレッサーが原因となって、ストレス反応という結果が起こるといった因果モデルで説明する点が、産業保健の大きな特徴となっています。

 

 

 

 

職場不適応症のタイプ分類

 

 

 

 

職場不適応症の類型にはいくつかありますが、代表的な事例を紹介しましょう。夏目氏は、職場不適応症の150例を中核群・ドロップアウト群・専門職不適応群・一過性反応群・その他群の5群に分類しました。そのうちそれぞれ約3割を占めた中核群とドロップアウト群について、私の自験例をもとに説明を加えます。

 

 

 

 

「事例1」  20代後半の男性

 

 

 

 

土木会社勤務。道路工事の安全確認作業に従事。毎回変わる工事現場に常に勤務開始1時間以上前に到着し、交通状況など綿密な安全確認を行っていた。生真面目な仕事ぶりが認められ、現場の安全責任者に昇進した。しかし元の同僚である部下には遠慮もあって厳しく命令できず、部下のずさんな安全確認がもとで軽い接触事故が起きた。強い責任を感じ、以降、現場に出向くと強い不安と動悸を生じ、ついに出勤できなくなった。

 

 

 

 

「事例2」   30代後半の男性

 

 

 

 

司法書士。独身で母親と同居。叔父の経営する法律事務所で働きながら、司法試験に12回落ち続けている。仕事場そこそここなしていたが、煩雑な仕事で顧客相手にミスをして叔父に叱られて以来、仕事に身が入らず休みがちになる。叔父はワンマンで、先輩はベテラン揃いで、職場に自分の居場所がない、疲れたと訴え、無断欠席が目立つようになる。しかし出勤した日はそれなりに仕事をして、悪びれた様子はない。

 

 

 

事例1は中核群の、事例2はドロップアウト群の例です。中核群では、几帳面で融通の利かない性格傾向の人が、昇進や配置転換などの職場要因を機に発症しやすいです。一方ドロップアウト群は、未熟で自己中心的な性格の人が、今まで庇護を受けていた上司や同僚の援助を得られない職場状況になった時に陥りやすいです。なお、夏目氏は、同研究での職場不適応症の性差について、職員数比を考慮しても3倍程度男性に多いとしています。

 

 

 

 

出勤困難と、不登校・ひきこもりの関連性

 

 

 

 

その多くが思春期に始まる不登校やひきこもりと、若年社員の出勤困難とにはどのような関係があるのでしょうか。出勤困難は、不登校やひきこもりの遅発型なのか、軽症型なのか、あるいはまったく無関係なのでしょうか。これらの関連性についてはほとんど先行研究がありません。

 

 

 

生理学の立場から概日リズム睡眠障害(例えば睡眠相後退型といって、就寝時刻が毎晩どんどん遅くなり、朝起きられなくなり、出勤や登校ができなくなるタイプがある)と診断できる一群に関しては、不登校から出勤困難への連続的な移行が考えられますが、これは狭義の出勤困難には当たりません。学生時代にスチューデントアパシーなども含めた不適応を経験している事例は、入社後数年を経て生じたそれより根が深い経験により、職場から早々にドロップアウトしてしまうことがあるようです。

 

 

 

一方、佐々木時雄氏「いわゆる無断欠席者の類型化に関する研究・日本災害医学会会誌・1992年」は、アブセンティィズムの人は、学生時代にはむしろ遅刻することなく皆勤に近いと述べています。佐々木氏はいわゆる無断欠勤のことをアブセンティィズムと呼んでいますが、これは出勤困難とほぼ重なる概念と考えられます。

 

 

 

これらの知見からは、出勤困難の中にも、就職早々に発現し、不登校との連続性・関連性が推察されるタイプと、就職数年後に出現して、学生時代の行動とは不連続なタイプとが混在している可能性が示唆されます。仮にこの両タイプが存在するとしても、この両者と、例えば夏目氏のいう中核群・ドロップアウト群との関連はいまだ不明です。いずれにしても、これらの関連性を検証するには、断続的な研究が待たれます。夏目氏は、不登校も出勤困難も、「場」に対する個人の適応障害として一括りしています。これは、職場不適応症の概念を不登校にも当てはめたものと考えられます。

 

 

 

 

出勤困難の診断

 

 

 

 

出勤困難と社会的ひきこもりの診断の比較

 

 

 

 

診断によって、出勤困難と社会的ひきこもりの異同を検討してみましょう。前述のように、出勤困難は職場不適応として位置づけられてきました。狭義の職場不適応症は、その定義から、おおむねDSMーIV(アメリカ精神医学会による診断分類の第4版)の「適応障害」に分類されると考えられます。

 

 

 

しかしながら、実際には「パーソナリティ障害」として診断される事例も少なくありません。「パーソナリティ障害」はしばしばストレスによって悪化しますので、「パーソナリティ障害」に分類した場合、通常は「適応障害」の診断名を追加することはありません。佐々木時雄氏「いわゆる無断欠席者の類型化に関する研究・日本災害医学会会誌・1992年」は前述のアブセンティィズムを呈した入院および外来での症例47名を当時のDSMーIIIーR(アメリカ精神医学会による診断分類の第3版修正版)に照らして、「回避性パーソナリティ障害」70%、「分裂病型パーソナリティ障害」23%と分類しています。

 

 

 

館直彦氏「出勤恐怖、出勤拒否に見られる自己愛の精神病理の一考察・大阪府立公衆衛生研究所報・1990年」は、出勤拒否の2例について、自己破壊的で自己愛的なひきこもり状態を呈する「自己愛性パーソナリティ障害」の一類型として力動的な考察を加えています。津久井要氏「職場不適応・予防医学・2000年」は、出社困難20時例の65%が「回避性パーソナリティ障害」に、35%が「自己愛性パーソナリティ障害」に該当したとしています。以上の知見は、近藤直司氏「非精神病性ひきこもりの現在・臨床精神医学・1997年」による、非分裂病性ひきこもり18例の診断の結果や、斎藤環氏「社会的ひきこもり・PHP新書・1998年」らの調査による、全国の精神科医が社会的ひきこもりに該当すると考えた診断名と、かなり似た傾向を示しています。

 

 

 

うつ病とアパシーの中間態としての出勤拒否

 

 

 

 

なお、出勤困難の症状としては、選択的・部分的抑制が特徴的です。抑制(制止)症状が仕事のみに限局してあらわれ、趣味その他生活全般の活動には影響がなく元気に打ち込んでいます。行動の抑制が仕事場面にだけ限られ、日曜の夜や月曜になると具合が悪くなるなど場面選択的・部分的であるという点に特徴があります。この特徴を持った病態としては、「逃避型抑うつ」と「退却神経症」があげられます。

 

 

 

広瀬徹也氏「出勤拒否・臨床精神医学・1996年」は、出勤困難という状態の理解に、うつ状態とアパシーという二つの方向性を提示しています。つまり、うつ病とアパシーとをまったくの別物として考えるのではなく、双方を左右両極として、両者を結ぶ直線上のうつ病に近いほうに「逃避型抑うつ」を、アパシーに近いほうに「退却神経症」を置き、連続的に移行するスペクトラム上の中間態として、出勤困難を位置づけると理解しやすいと述べています。すなわち、出勤困難事例というのは、うつ病とアパシーを結ぶ直線の上のどこかに位置していて、時によって「逃避型抑うつ」や「退却神経症」に近い症状を呈するというのです。

 

 

 

 

まとめ

 

 

 

 

出勤困難について、文献をひもときながら概念や診断について、ひきこもりや不登校と比較検討しました。出勤困難は、職場不適応(症)の一つの表現型と考えられ、職場要因と個人要因との相互作用の結果として位置づけられてきました。この点は、社会病理現象として捉えられてきた社会的ひきこもりや不登校とは切り口が異なっています。しかし、診断については、「回避性パーソナリティ障害」「自己愛性パーソナリティ障害」およびそれらの人格傾向が多くの事例に見られるなど、社会的ひきこもりと共通する要素も多かったです。

 

 

 

社会的ひきこもりと出勤困難との関連、例えば、社会的ひきこもりだった人は、就職すると出勤困難になりやすいのかどうかといった注目すべき問題については、縦断的な見地から比較検討した調査研究はまったくといっていいほどありませんでした。今後の大きな課題と考えられます。

 

 

 

 

ひきこもりと他の精神疾患や症候群との関係

 

 

 

 

以前は、社会からのひきこもりは、統合失調症などの精神病に伴うものが多かったです。しかし、近年、精神病とは言えないのに社会から撤退する、非精神病性ひきこもりが目立っています。広い意味でのひきこもりに至る道程は多岐にわたり、また、背景に精神疾患を有する場合もあります。個々のひきこもり状態が、精神病に伴う二次的なものかどうかなどの分析や判断を行うことによって、正しい対応が可能になります。

 

 

 

疾病や症候群と社会的ひきこもりとの関係は一様ではありません。まず、精神病圏にある統合失調症やうつ病については、これらが疾患単位として確立されています。したがって、できれば鑑別して適正な治療を行うことが望ましいです。神経症圏以下の疾患との鑑別は必ずしも容易ではなく、それぞれの境界に明確な線引きを行うことはできません。疾患概念も重なり合うと考えてかまいません。

 

 

 

この中で、ひきこもりと最も近い関係にあるのは不登校です。年齢や学業在籍の有無など状況的な差があるものの、その年齢にふさわしい社会参加ができないという意味では本質的に同様であると言えます。実際、不登校が遷延して、ひきこもり状態に移行することはしばしば見られます。スチューデントアパシーは、同様に主に大学に学籍がある人のひきこもりとして捉えることができます。不登校の初期には、家庭内暴力や腹痛などの身体症状を伴うことが多いです。これは、登校したいのにできないという葛藤が強いためであろうと考えられます。

 

 

 

スチューデントアパシーでは葛藤が目立たず、随伴する症状も不登校の初期ほどではないことが多いです。ひきこもりの経過中に、対人恐怖症状や強迫症状、家庭内暴力、抑うつ気分などの症状が伴うことが多いです。では、これらの多彩な症状を伴うひきこもりの本質的な共通点は何かと考えると、ひきこもること自体が外傷体験となって悪循環するシステムを持つことであるとされます。したがって、仮に他の疾患の症状があっても、それが目立たず、ひきこもりメカニズムが症状の中心をなす場合もあるわけで、辺縁はなお他の精神疾患と隣接していると考えられます。

 

 

 

 

統合失調症との鑑別

 

 

 

 

社会的ひきこもりを統合失調症とできるだけ鑑別することは極めて重要です。その理由を以下にあげてみましょう。統合失調症は疾患概念が確立し、治療上も薬物療法が確立し、正しく診断し治療することによって、予後を良好にできます。逆に治療が遅れると、回復不能の人格荒廃状態にも陥る場合があります。我が国全体で100人に1人近くが罹患し、現在も30万人に及ぶ精神病院入院患者の大半は統合失調症によるものであることを確認する必要があります。

 

 

 

ところが、統合失調症は10代中期から後期に初発することが多く、社会的ひきこもりと発病年齢では区別できません。そして、統合失調症も社会への適応障害として始まることが多いです。また、統合失調症の症状が時代に影響を受けて軽症化しています。これらが、ひきこもりとの鑑別を難しくしています。とはいっても、援助しようと思う人は、ある程度の知識を身につけなければなりません。以下、一般の教育関係者が可能な程度の鑑別の要点について述べたいと思います。鑑別と言うと、少々硬い印象がありますが、援助しようとする人は共感するだけでなく、客観的な視点を併せ持つことによって、正しく有益な対応ができるという意味だと考えてほしいのです。熱心であるほど共感に偏り、客観性を忘れてしまうこともあります。

 

 

 

 

面接時の特徴

 

 

 

 

行動や外観、話し方などが不自然ではないかという点に注目します。具体的には、以下の点に気を付けます。挨拶は自然にできているだろうか、無関心だろうか、服装はどうか、だらしないとか汚れているとか、突飛であるということはないでしょうか。表情はどうだろうか、感情が自然に出ているだろうか、それとも能面のように表情がないか。統合失調症では、生気が少なく小声で抑揚のない喋り方をすることも多いです。孤高な印象や場にそぐわない緊迫感、口数の少なさ、目の動きが少なく視線が固定することはないだろうか、行動の滑らかさを欠いてぎこちなくなっていることはないでしょうか。気持ちが自然に通じたという感じがあるでしょうか。ひきこもりの場合、行動の理由が理解でき、共感することができ、コミュニケーションがとれる感じがあります。統合失調症ではそれが困難なことも多いです。

 

 

 

 

異常な体験

 

 

 

 

統合失調症では幻聴が見られることがあります。「他人から悪口を言われる」「命令される」「自分の行動について評価される」などの内容のことが多いです。外観は自然なのに、聞いてみるとはっきりした幻聴があってびっくりさせられることもあります。幻聴に至らないまでも、音をうるさく感じる、聴覚過敏の状態を示す場合もあります。独り言を伴っていることもあります。

 

 

 

 

経過の点から

 

 

 

 

統合失調症では生活史上に大きな屈曲点が存在することがあります。例えば、真面目な生活を送っていた人が、ある時点を境にして急に勉強に取り組まなくなり、それに引き続いて生活が乱れ始めたなどのことです。また、統合失調症は、急性憎悪とその寛解(回復)を生じながら、徐々に欠陥状態(意欲や感情の低下を伴う慢性状態)へ移行する経過をとることが多いです。急性憎悪とは、幻覚妄想状態、昏迷状態、興奮状態です。

 

 

 

社会的ひきこもりでは理由のない屈曲点がなく、また、基本的に統合失調症に見られるような症状の明らかな波(精神病エピソード)というものは見られないことが多いです。仮に気分の波が見られたとしても、その前に明確な誘因があり、出来事と反応との関係が、普通にあり得るものとして了解できる範囲にとどまります。

 

 

 

 

思考の障害

 

 

 

 

考え方や考える内容の異常です。統合失調症でよく見られる妄想は、内容は明らかに間違っていること、主張が一方的であること、訂正できないことなどの特徴を持つ思考の障害のひとつです。自分に対して被害的な内容が多く、監視されている、盗聴されているなど、自分の秘密が周囲にわかられているという内容が多いです。また、話し言葉や文章がまとまらず意味が通じないということも統合失調症ではしばしば見られます。特に書かれた文章にまとまりのなさが明確に出ることが多いです。

 

 

 

非精神病性のひきこもりでも、ある種の思考障害がないわけではありません。しばしば、自分のうまくいかない理由を親のせいにするなど、一方的な思考内容が生じることも多々あります。内容の一部が了解可能であるところにしか妄想との差異がない場合もあります。また、段階的な社会復帰より一足跳びの復帰を主張するという特徴や、100%思い通りにならなければ取り組まないという姿勢、葛藤が表面に現れないことなども非精神病性ひきこもりによく見られる思考の特徴です。

 

 

 

 

行動の異常

 

 

 

 

行動の障害として、統合失調症に時に見られるのは緊張病症状群です。動かず喋らない昏迷状態と興奮を交互に示すもので意思の発動がうまくいかない状態であり、その奇妙さによってただちに精神病圏であると判断できます。統合失調症の軽症化により、近年では減少しています。

 

 

 

 

意欲や関心の障害

 

 

 

 

統合失調症の症状のひとつに意欲の低下があります。当事者は漫然と生活し、疲れやすいです。寝てばかりで生産的な活動ができず、変化の少ない生活で安定します。一方、ひきこもりの場合には、ある分野だけは集中力を維持していることも多いです。例えば、新聞やテレビのニュースを熱心に視聴し、知識が豊富で社会問題に対して持論を持つことなどがあります。また、パソコン関係など趣味の分野に専門的知識を持っていて、内面的に豊かな場合がひきこもりでは多いです。なお、意欲の低下については、持続性、状況依存性、可逆性、進行性などの諸点について経時的な観察が必要でしょう。

 

 

 

 

感情の障害

 

 

 

 

また、統合失調症の感情障害として感情鈍麻があります。感情が平板化して、生き生きとした感情の動きや躍動がありません。このような鈍さとある特定の範囲における敏感さ(他人の言葉を異常に気にして傷つくなど)が共存するという場合も多いです。意欲の低下、感情鈍麻、さらに人格変化という状態は、非可逆的とみられ、厳密な意味では神経症圏の疾患や社会的ひきこもりでは見られないものです。

 

 

 

以上の諸点に注目した時、統合失調症を示唆するような異常がいくつも認められるならば、専門医への受診を早く勧めるべきです。さて、統合失調症では、遺伝子が発病にある程度関与しており、それは単純な遺伝様式ではなく多因子が関与する複雑な遺伝と考えられています。ところが一方、ひきこもりの中にも、統合失調症の遺伝負因や生理学的特徴を持つ群が相当数いる可能性があります。

 

 

 

それらは統合失調症の発病はしていませんが、同種の脆弱性(罹患しやすい生物学的特性)をある程度有する例です。例えば、統合失調症と同様な極端に控えめという性質や行動のぎこちなさという特性を持っている場合などです。さらに、ひきこもりと統合失調症を鑑別する上で困難な事情の一つに、統合失調症の軽症化の問題があります。統合失調症は、過去数十年にわたり、著しい幻覚妄想状態や興奮状態を示す緊張型が少なくなり、辺縁的で非特異的な症状しか持たない軽症型が増えています。これは、統合失調症の症状が社会文化的な影響も受けることを示します。なお、ひきこもることによってストレスを回避し、統合失調症の発病を逃れている例(潜在発病例)も相当数あると考えられます。

 

 

 

このような状況の中で、統合失調症とひきこもりを鑑別しようとしても専門家ですら限界があることは確かです。したがって、鑑別が困難な例については「統合失調症近緑ひきこもり」などととりあえずくくっておくのが良いと考えています。そのほうが、明確な統合失調症の症状の出現可能性を視野に入れながら注意深く対応するという意味においても妥当と考えられます。

 

 

 

繰り返しますが、ひきこもりの増加は統合失調症の軽症化と無関係ではありません。共通の根を持つこともあります。この視点を忘れずにいることが、無理な対応や過大な期待から当事者を守ることにつながるのではないかと私は考えています。

 

 

 

 



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