子供の甘やかしとひきこもり
母性的養育の必要性を訴える時に、多くの親たちが真っ先に想起することは、「あまりにも親がつきっきりで養育すると、子供の自立性が芽生えないのではないか」というしつけの問題だと思います。
そして、「しつけ」=「甘やかさないこと」だと考えている親がほとんどのようです。「子供を甘やかすのは良くない」私たちの多くは、そのような信念のもとに子供を育てるべきであると思ってはいないでしょうか。「(ひきこもり)の子供を持つ親は、子供を甘やかしすぎたのだ。だから子供が自立した大人に育たないのである」子供のひきこもりに悩む親に対する、そんな意見がよく聞かれます。
はたして、最近急激な増加傾向にあるといわれるひきこもりの背景には、親による子供の甘やかしが問題としてあるのでしょうか。近年、女性が社会に進出するようになり、忙しくなってきたせいもあって、子供の養育に手間ひまをかける母親が減ってきたと言われています。
赤ん坊が泣いていることに気がつかなかったり、気づいてもベビーベッドに寝かせたまま抱き上げてあやすこともせずに、ただおむつだけを取り替えたり、哺乳瓶を口にあてがったりするだけで、赤ん坊とのスキンシップをとることの少ない母親が増えているようです。
赤ん坊の独立心が育つようにという理由のもとに、泣いているのにあえて構わずに放っておく親もいるくらいです。母と子のスキンシップがなければ、子供の人間性がうまく育たなくなることは専門家の間でもよく言われることです。
健康の赤ん坊は生後六、七か月を過ぎると、母親が自分のもとを離れると泣いたり、駄々をこねたりします。ボウルビィは、このような赤ん坊の特定の人物に対する情緒的な結びつきをアタッチメント(愛着)と呼びました。モンタージュが体外妊娠期間と呼んだように、この時期の赤ん坊は母親に完全に依存した存在です。
実は幼児がアタッチメントの対象とするのは、母親だけではありません。他の家族でも、保育士でもよいのですが、「お腹が空いた」「オムツを替えて欲しい」などといった自分の欲求に対して、敏感に適切に反応し、タイミングよく応えてくれる人と愛着関係を結びたがっています。
また、この愛着関係は、その後の人生における人間関係の原型にもなります。赤ん坊にとって母親は外の世界そのものであり、母親を通して外の世界を認識していきます。スキンシップや、笑いかける、話しかける、あやすなどの行為を通じて、幼児は外の世界が一貫していて安全であることを知っていきます。
エリクソンが言うように、基本的信頼感を幼児が体得するためには、この時期に外の世界に対する安心感を身につけなければなりません。ですから、この時期における母親の幼児へのあらゆる施しは、決して甘やかすことを意味するものではありません。幼児は明らかに母親の世話を必要としているからです。
ここで、私たちが注目しなければならないことがあります。それは、「赤ん坊を甘やかすことと、甘えを満たすことは別の次元の問題である」ということです。しかも、「甘えたい」という意思も発達していない生後一年未満の赤ん坊に、自立することを目的に干渉しないというのはまったくの誤解です。
さて、幼児が「甘えたい」という欲求を抱くようになるのは、一歳から二歳にかけてです。「甘えの構造」(弘文堂刊)の著者である土居健郎氏によれば、幼児が母親と自分は別の存在である、ということを知覚した後、母親を求めることが「甘え」であるといいます。
つまり、甘えとは母親との分離における葛藤と不安なのです。この時期の幼児は、自分で好きなところに歩いて行くことができますし、かなりしっかりしてきたように思われるかもしれません。しかし、母親との分離に対する不安はまだ強く、依存対象として愛情を強烈に求めています。
このころになってもまだ、子供はスキンシップや、抱き抱えてあげること(ホールディング)を必要としているのです。もし、その感情が満たされないと、見捨てられたことによる不安感のため、子供に深い心理的障害を残すことになります。この時期における養育者の交代すら、子供を不安にさせ、その後の人生において悪影響を及ぼしてしまいます。
ですから、この甘えの感情を母親は受け入れてあげることが大切です。このプロセスは、子供を甘やかしているのではなく、子供の「甘えを満たしてやっている」のです。そして、このプロセスを経ることで、子供は将来、他人への思いやりや優しさといった人間らしさを身につけていくことができるのです。
十分に甘えの感情を受けとめてもらえた子供は、三歳前後になると自然に自立していくようになります。このくらいの時期になると、言葉もかなりはっきりしてきますし、自我も形成されてきて、母親からの分離にも耐えられるようになってきます。
子供の頭の中に母親のイメージが形成され、母親と離れていてもそのイメージは失われずにいつまでも子供の心に残り続けるようになります。これを「対象恒常性」といいますが、対象恒常性が形成されることで、子供は母親の物理的な不在にも耐えられるようになり、自主的に集団に参加していくことができるようになります。
子供を甘やかすということの意味は、子供が自分でもできるようなことを、親の過保護、過干渉によって、親が果たしてしまうことを言います。
生後三歳以降で、もうすでに自立していかなければならない時期に、親が自立を助けてやらず、その力を取り上げるような行為こそが甘やかすということなのです。
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