不登校・ひきこもりのカウンセリング事例~私立中学一年生の女子生徒のケース~
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不登校・ひきこもりのカウンセリング事例~私立中学一年生の女子生徒のケース~

2020年10月05日(月)5:12 AM

 

 

 

母)娘は私立中学の一年生です。二学期になってから登校を渋るようになりました。なぜ行きたくないのか、本人に理由を聞いてもはっきり言ってくれません。学校の先生に状況をお聞きしても、「小学校の時の子供たちがそのまま進学しているので、クラスの雰囲気に特に変わったことはありません」とおっしゃいます。

 

 

学校に行かない日はお昼近くまで寝ています。体調も悪くはなさそうなので、親としてもつい腹立たしくなってしまい、「早く学校に行きなさい!」「怠け癖がつくと大変よ!」「自宅で病院をしているのよ!中学生になったのだから少しは世間体を考えなさい!」「あなたが学校に行かなくなったら弟に影響が出るし、祖父や祖母に対してお母さんの立場がなくなるわ。何とかしなさい!」などと、娘に対して言ってしまいました。

 

 

以前はそんなことを言うと反抗していましたが、今はしょんぼりして悲しい顔をしています。そして、幼稚園から帰ってきた弟と一緒に、中学生にもなっておままごと遊びをしています。それを見ると、親としてとても情けなくなります。小学校時代は学年でトップクラスの成績を取っていたのにどうしたのでしょうか?

 

 

私)開業医のお父さんとお母さん、娘さん、弟さんの四人家族ですか?

 

 

母)はい、四人家族です。家は一階が診療所、二階が自宅になっており、母屋に祖父と祖母が住んでいます。診療所も祖父が始めたもので主人は二代目です。今も、祖父は週に二回は診療をしています。私も経理の仕事や雑用をしています。

 

 

私)お母さんも大変ですね。ストレスが大変でしょう。

 

 

母)はい。気苦労が絶えません。色々とありますので・・・・・・・。

 

 

私)そうでしょうね。娘さんのことで今、一番お困りなことは何でしょうか?

 

 

母)どうしたら学校に行けるようになるかということですが、そのためには親が変わらなくてはいけないと思います。けれども、何をどう変えれば良いのかわからないのです。それと、娘の気持ちがどうしたら理解できるかも知りたいです。最近、ちっともわからなくて・・・・・・。

 

 

私)学校に行けなくなって、家の中でどのような生活をしていますか?

 

 

母)寝る時間がだんだん遅くなってきて、朝起きることができなくなってきています。お昼近くまで寝ていて、幼稚園から帰ってきた弟と一緒になって遊んでいます。夜中に自分の部屋でインターネットやテレビを見たりしているみたいです。勉強は、初めのうちはやっていたのですが、今は全くやっていません。

 

 

私)身体症状は何かありますか?

 

 

母)時々頭が重いということですが、主人は心理的なものだろうと言っています。

 

 

私)お母さんに必要以上に甘えてくることはありますか?

 

 

母)学校に行けなくなってしばらくして、私が新聞なんかを読んでいる時に、私の体を突いたりしてちょっかいを出してきます。

 

 

私)そんな時、お母さんは甘えと感じるのですね。対応としてはどうしますか?

 

 

母)最初は子供の嫌がらせかと感じて怒っていたのですが、これが退行ではないかと思えて、ふざけごっこのようなスキンシップをよくしました。そしたらすごく明るくなってきました。

 

 

私)幼稚園に行ってる弟さんと遊ぶ、お母さんと幼稚なおふざけごっこをする、みんな退行現象のひとつですよね。幼児期の年齢に一時的に戻ることを退行と言います。ひきこもりを伴う不登校の子供達に、必ずと言っていいほど多く見られる症状です。その年齢に戻る方が楽だからということもありますが、一次成長の時(0歳から六歳くらいまで)に充分に成し遂げられなかった「発達課題」のやり直しをやっているのですね。この退行は全ての子供に見られるのですが、ひきこもりの子供達はわかりやすい行動の表し方をします。お母さんを生理的に求めているのですから、スキンシップを充分にしてあげてください。

 

 

母)ひきこもりに関わる女性のドキュメンタリー番組を見た祖母から、「そんなに甘やかしたら学校なんか行かない。家の居心地が良すぎるから、いつまでたっても学校に行こうとしないのじゃない」と責められるのですが、どうしたらよいでしょうか?

 

 

私)説教しても責めたててみても、体も心も動けない(身体症状もあるし、学校に行きたくても行けない)のだから難しいでしょうね。最近、ひきこもっている人の家に、親の依頼でしょうが、子供から見れば土足で部屋の中に入っていき、説教し、怒鳴り、親子とも「甘い」と責め、本人の意思を無視して無理やり学校に行かせたり、拉致をするようにして連れ出して共同生活をさせるというやり方をする施設の様子がおもしろおかしくテレビで放送されて、視聴率を上げているようですね。あのようなやり方をする人は、以前はたくさんいました。

 

 

今は「フリースクール」や「フリースペース」という呼び名が多いのですけれども、その頃は、「情緒障害矯正施設」などと当時の支援者たちは言っていました。「情緒障害」ということは、不登校(その当時は登校拒否)は情緒障害の一つと考えていた人が多かったのです。学校に行かないだけで、「情緒障害」は何か変ですね。その背景には、学校に行くことが善で、行かないことは悪という考えがあるから、「矯正」という言葉が出たのでしょうね。子どもの人権を無視したそのような対応で、多くの子供たちは更に心の傷を深め、「拒食症・過食症」や神経症になっていきました。

 

 

そして「なんであんな施設に入れた!」と親に対する不信感が強くなり、親子関係が未だに修復できない家族もあります。そして、そのような施設の責任者の多くは「傷害事件」や「過失致死」」で逮捕され、施設は自然になくなりました。しかし、おもしろおかしくテレビ番組を作って被害を拡大させたテレビ局は何のお咎めもなく、何の反省もなくまたやっているのですね。過去のそのようなやり方では、子供達は一時的に脅されて登校しても、本人の意思がない場合は長続きしないばかりか、再び不登校になった時には、人間不信がさらに強くなってひきこもりの状態が長引いてしまいます。おばあちゃんの気持ちはわかりますが、ご主人を通して「成長させて解決する」ことをわかってもらうことが大切だと思います。

 

 

母)わかりました。

 

 

私)娘さんが幼児の時、お母さんは忙しかったのでしょうか?

 

 

母)その頃は、診療所の建て直しをしていて私も何かと気ぜわしかったです。だから、つい「先回りの子育て」をやっていました。娘の気持ちを充分に考えずに、大人の都合に合わせて子育てをしていたと思います。いつも時間に追われているような生活で、娘にも「こうしなさい!」「ああしなさい!」と言い、娘がうまくできないと「何をグズグズしているの!」「早くしなさい!」といつもせきたてていたと思います。

 

 

私)大人の時間の速度と幼児が暮らす時間の感覚は違います。幼児はひとつひとつ回り道をしながら、同時に自分の感情も分化させながら、情緒を育てています。だから、幼児と時間を共有するときは、「ゆっくり・じっくり」が基本です。退行を起こしている時も基本は同じではないでしょうか。情緒不安定の状態のお子さんも、退行現象を起こし、発達課題のやり直しを終え、様々な確認を終えれば動き始めますよ。

 

 

母)わかりました。もう一度、あの時やれなかったことを今は焦らずにやれば良いのですね。退行はいつ頃終わるのですか?

 

 

私)本人の気持ちが落ち着くまでです。うまく対応できれば、この調子だと二~三か月くらいではないでしょうか。

 

 

母)頑張ります。

 

 

私)頑張ってやるのではなく、楽しんでやれる余裕ができるといいですね。

 

 

三週間後、母親は明るい表情をしてカウンセリングに見えた。

 

 

母)おっしゃる通り、しばらくは学校のことや勉強のことを考えずに「ゆったりとした気持ちと時間で」と思って、娘を受け入れて対応したのです。そしたら、とても安定してきて穏やかになってきました。身体症状もほとんどなくなりました。家のお手伝いもよくするようになってきました。

 

 

私)それは良かったですね。お母さんは、子育てをするには特別な環境にいます。開業医という地域からくる無言のプレッシャー、別世帯だけど祖父母からくる圧力、専業主婦だけをしてはいられない状況など、ストレッサーが非常に多いですよね。そのような避けて通れない事柄に対して必要以上に頑張ろうとして、つい本人の時間尺度に合わせた子育てになってしまい、その結果、子供を急がせたり、無言の圧力をかけてしまったのが、娘さんの不登校の大きな原因かもしれませんね。そのような状況に対しても、お母さんが「ゆったり、周りの事は必要以上に気にせずに」子育てができると良いでしょうね。そのためには、ご主人の理解や協力を得られることが一番大切ですね。

 

 

母)おっしゃることはよくわかります。今までは家業が医院であること、良き妻であること、良き嫁であることを優先していました。子供は自分の分身だから、自然に従うものという気持ちがありました。そして、マニュアル通りに育つものだからと思って、時間も、気持ちも、考えも、大人の都合に合わせていました。

 

 

私)よくわかりますが、ご自分だけを責めてはいけませんよ。

 

 

母)どういうことですか?私の子育てが悪かったために、娘は不登校になったのでしょう?

 

 

私)それは違いますよ。お母さんにかかるストレスが、娘さんにプレッシャーになっていったのですよ。だから、お母さんにかかるストレスが第一要因ですよ。人間はどんな環境でも、ストレスはかかります。お母さんは特にストレスが多くかかりやすい状況で子育てをなさっていますので、お母さん自身が「ゆったりした気持ちで」ストレスを上手に発散していくことが大切ですよ。

 

 

母)わかりました。私も少しは好きなことを、家族に迷惑がかからなければやって良いのですね。

 

 

私)娘さんが退行現象を起こして張り付いている時以外は、自由にやってください。

 

 

母)自分を必要以上に縛り付けていました。肩の力を抜いてリラックスして生活してみます。そうそう、話は変わりますが、今日は娘が「退屈だから勉強をする」と言って、自分でやり始めたのですけれども、勉強をやめさせた方が良いのでしょうか。

 

 

私)本人が自発的にやり始めたことは、反社会的なもの以外は自由にやらせてください。勉強では大人が干渉しないことが大切です。もしわからないところがあって質問してきたら、そのことだけを答えてあげてください。決して「今まで勉強をしていなかったからそんなこともわからなくなるのよ」「学校に行かないからわからないのよ」「こんなこともわからなくてはどうしようもないわね」などの否定することは言ってはいけません。自信がなくなって、自分を否定的に見ている時に追い討ちをかけてはいけません。肯定感情が起きるような言葉をかけてください。

 

 

母)わかりました。

 

 

三週間後、母親は明るい花柄のワンピースを着てカウンセリングに見えた。若返ったように見えた。

 

 

母)先週から学校に行き始めたのです。学校のことや勉強のことは、私もお父さんも一言も言っていないのですけれど。学校のことや勉強のことは、娘の自主性に任せているだけです。娘に言われたことだけをやっています。

 

 

私)そのやり方が一番良い方法ですよ。

 

 

母)でも、学校に行くと疲れるみたいで、帰ってくると何も言わずに、夕食を食べて宿題をしてお風呂に入って寝てしまいます。今後はどのように対応していけば良いのでしょうか。

 

 

私)しばらくは精神的にも肉体的にも大変でしょうから、そっと見守ってあげましょう。そして、娘さんが学校のことを話してきたら、真剣に聞いてあげましょう。たとえ愚痴やぼやきでも共感して聞いてあげてください。判断を求められることだったら、「こうしなさい!」「こうしなければだめよ!」という言い方よりも、「お母さんならこうするわ」「こう思うわ」という言い方にしてください。あくまでも親はアドバイザーに徹する方が良いですよ。そして、最終的な判断は子供自身がする方が良いと思いますよ。

 

 

母)登校している場合はどんな注意が必要でしょうか?

 

 

私)3・3・3が大切だと思います。最初の3は「三日目」の3です。緊張状態で登校し、クラス内の少人数の人に対しても緊張感が抜けずに、疲れて行けなくなるケースです。次の3は「三週間」の3です。三週間もすると周りの人には慣れてくるけれど、クラス全体の雰囲気には馴染めずに、クラスの中に居場所が見つけられずに行けなくなる時です。最後の3は三か月の3です。一生懸命に頑張っていたのだけれども、肉体的にも精神的にも疲れ切って行けなくなった時です。これらが統計的には多いようです。

 

 

ですから、対応する親の方もそれらのことを目安にしたらよいと思いますよ。子供が休みたい日は休ませても良いのですが、連続して二日間が限度で、三日以上になると、なんとなく行く気がなくなってくるようです。そんな時は、「お母さんなら、友達が心配するからちょっとだけ顔を出すけどな・・・・そうした方が次に行く時、行きやすいと思うよ」くらいのアドバイスができるといいですね。

 

 

母)娘は最初の3ぐらいですね。気持ちを充分に受け止めてみます。それと最近、娘に「お母さん少し雰囲気が変わったみたい」「私に強制するというか圧力をかけるというか、そういうのがなくなったから私少し楽になったよ」「どうして雰囲気が変わったの?」と言われたのです。どう答えたら良いのでしょうか?

 

 

私)カウンセリングで変わったならば、「お母さん自身のことでカウンセリングを受けて変わりつつあるのかもしれないわ」とでも言ったらいかがでしょうか。

 

 

母)わかりました。

 

 

娘さんはその後、色々ありましたが、3・3・3を通り過ぎ、順調に登校しています。お母さんは最近、ストレスの発散の仕方を覚えたのと同時に、そんなに全てを一人で抱え込まずに、少しいい加減でも過ごせる生き方の方が自分も楽だし、祖父母を含めて家族も楽に生きられることを感じ始めたようです。



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