ひきこもりの事例~気分変調症の22歳の男性のケース~
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ひきこもりの事例~気分変調症の22歳の男性のケース~

2020年09月25日(金)4:01 AM

 

 

 

中学校時代には生徒会長も務めたことのあるAさんは、明朗かつ協調性のある真面目な性格で、クラスメイトに好かれ、先生にも可愛がられるような模範的な生徒でした。

 

 

そんな彼も高校1年の夏休みに、多感な時期ゆえの好奇心からか、クラスの少し不良っぽいグループと行動を共にするようになりました。タバコもおぼえ、毎晩のように原付バイクを乗り回して遊んでいたそうです。

 

 

ところが、そのうちこうした行動がエスカレートし、仲間が万引きをするようになりました。グループの誰もが本やCD、DVD、飲食物などを万引きしましたが、Aさんだけはどうしても万引き行為をすることができませんでした。

 

 

「お前も万引きしろよ!いい子ぶってるんじゃないよ!」不良仲間はそうAさんに迫りましたが、それでも彼は万引きだけはついにできませんでした。

 

 

彼にはそれだけは越えてはならない一線のような気がしたのです。その日から、グループの仲間のAさんに対する対応が変わり、彼はいじめの対象になってしまいました。

 

 

あからさまに無視されるようになったり、持ち物を盗まれるようになりました。ある時は、Aさんの新品のスクーターが盗まれてしまいました。結局そのことが原因となり、Aさんは学校には行けなくなってしまいました。

 

 

高校2年の時には出席日数が足りなくなり、留年が決定したために、彼は退学を余儀なくされてしまいました。「しばらくの間、ゆっくりしよう」中退して最初のうち、Aさんの心にあったのは不思議と挫折感や絶望感ではなく、これからはしばらくゆっくりできるという安堵感だったそうです。

 

 

「今まであまりにも周囲の目を意識しすぎて、真面目なフリをして生きてきたような気がする。そんなことにもう疲れ切っていたんです」と、本人は語っています。

 

 

地元の仲間や昔の友達と街で出くわすことが嫌だったこともあり、自然と家で過ごすことが増えていきました。母親は昼間パートに出ており、父親も単身赴任で、家にはAさんの行いをうるさく言う人はいませんでした。

 

 

そのため、当初の予定通り、1年ほどは家でのんびりと暮らしていたそうです。しかし、そんなAさんの暮らしぶりを両親は当然快く思ってはいませんでした。

 

 

父親が単身赴任から戻り、両親の苦言が日ごとに激しくなると、「自分は学歴社会からドロップアウトしてしまった」という敗北感と、「これから先、どんなに一生懸命努力しても中卒の人間には無駄なことだ」という虚無感が、彼の心を締め付けるようになっていきました。

 

 

いくつかのアルバイトも1週間と続かずに辞めてしまうことがほとんどで、「自分は何をやっても中途半端で駄目な人間だ」と落ち込んでしまい、かえって家にひきこもるようになりました。

 

 

相談相手や遊ぶ友達や恋人もなく、自分はつくづく孤独なのだと痛感し、何かをする気力も失せてしまい、部屋で寝ていることが多くなっていったそうです。

 

 

そんなAさんにたいして両親は、けっして優しい言葉やいたわりの言葉をかけることはありませんでした。Aさんのお兄さんは成績が優秀で、有名な国立大学の学生だったのですが、両親はそんなお兄さんばかりをべた褒めして可愛がっていました。

 

 

特に厳格だった父親は、Aさんを心配しているからこそなのでしょうが、「中卒でこれから先、どうやって生きていくんだ!」「仕事が続かない奴はダメな人間だ」「仕事をしないなら飯は食わせない!もう死んでしまえ!」と責め立ててばかりいたそうです。

 

 

気分変調症とは、軽症の抑うつ状態を呈する神経症のことで、内因性のうつ病とは分けて考えられています。症状としては、「将来に何の希望も持てない」「外界に対する興味がなくなる」といった無気力や不安感情、また悲哀、自殺念慮(自殺を願うこと)などの精神症状や、食欲の低下、性欲の低下、過眠や不眠などの睡眠障害、疲労感などの身体的症状が見られます。

 

 

Aさんのケースでは、「まったく自殺が頭によぎることはなかった」ということですが、無気力や不安感があり、何もしていないのに疲れやすく、寝てばかりいたという症状が見受けられます。

 

 

うつ病でもこのような症状が起こりますが、うつ病に見られるような、午前中は調子が悪く夕方から調子が良くなるといった1日のリズムの乱れ(日内変動)はあまりありません。

 

 

原因としては、肉親、配偶者、恋人など、自分にとって重要な人を失うなどの喪失感や、入学、就職、転勤などによって、新しい環境に適応しなければならないといったストレスに悩まされることがなかったということが考えられます。

 

 

Aさんのひきこもりは、一見するといじめられたことに端を発しているように見えるかもしれませんが、直接の原因は、学校を辞めて、今まで自分が忠実に従ってきた学歴社会から取り残された敗北感や、そのことから将来の見通しが立てられなくなってしまった不安感からくるものであると考えられます。

 

 

ここで重要なポイントは、今日でも根強く残る学歴至上主義ともいえる価値観にどっぷりと浸ってしまうと、Aさんのように運悪くそのレールからドロップアウトせざるをえなくなった場合、「自分は価値を失ってしまった」という多大な自己の喪失感を感じてしまうということです。

 

 

それは「自己喪失」の経験に匹敵するものです。また、気分変調症に似たような症状により、不登校や出勤拒否を引き起こしてひきこもりに至らしめるものとして、「スチューデント・アパシー」と「退却神経症」があります。

 

 

スチューデント・アパシーは、アメリカのP・A・ウォルターズによって命名されたもので、大学生に見られる無気力、無感動状態をいいます。アパシーとは、無感動・無関心という意味です。

 

 

もともと怠け者ではなく、勤勉で真面目な生徒がある時点から、特別な理由もなく無気力になり、勉学への意欲を失って授業に出席しなくなり、ある人は留年を繰り返したり、突然中退してしまったりします。

 

 

しかし、彼らは学業以外のアルバイトや交友関係には熱心さを示すことがあるなど、その退却姿勢は選択的です。名古屋大学名誉教授の笠原喜氏は、これらの症状が大学生以外にも見られるため、「退却神経症」と呼びました。

 

 

気分変調症と違って、退却神経症の症状では、不安や抑うつを体験しません。退却神経症の場合は、ストレスによって引き起こされる神経症とやや異なります。

 

 

受験勉強のために脇目も振らずに勉強してきたにもかかわらず、急にその学業に対して意義が認められなくなってしまったり、自分の人生における目的が定まらなくなってしまったりなどの不適応により、いったん現場から退却して、しばらく自分自身を見つめなおしてみるためのモラトリアム(猶予期間)を必要としている状態と考えられています。



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