ひきこもりの事例~境界性パーソナリティ障害の28歳の女性のケース~
ホーム > ひきこもりの事例~境界性パーソナリティ障害の28歳の女性のケース~

ひきこもりの事例~境界性パーソナリティ障害の28歳の女性のケース~

2020年09月21日(月)4:35 AM

 

 

 

Aさんは高校に通うようになった頃から、異性に対して精神的にだけではなく、身体的にも依存したいという傾向が強くなり、やがて、常に男性と性的な関係を含めた交際をすることで、欲求を満たすようになっていきました。

 

 

その結果、高校時代から28歳に至る今日まで、片時も交際相手が途切れたことはなかったといいます。境界性パーソナリティ障害の人は、なぜか異性を惹きつける力を持っている場合が多く、Aさん自身も身体的魅力のある人です。

 

 

しかも、彼女はいつも男性に依存的で、相手に関係なく甘え上手なところがあり、その接し方が相手の男性に魅惑的に映るためか、交際当初から性的な関係を結んでしまうということも少なくありませんでした。

 

 

彼女の異性に対する依存の仕方は病的なものです。付き合い始めて三日もしないうちに、「私、あなたと結婚したいわ」と言い出したり、相手の男性とちょっとでも会えないような時期が続いたり、携帯電話の呼び出しに答えなかったりすると、「死んでやる!」と、発作的に多量の睡眠薬を飲んだり、リストカットと呼ばれる手首切りをやったりすることがあります。

 

 

「私が死ぬのはあなたのせいよ!」「いますぐ会わないと、ビルから飛び降りてやるから!」恋人にこんなことを言われたら、誰でも気が気ではありません。

 

 

こんなことが習慣的に続いてしまうと、交際相手は、彼女の愛が重たすぎて疲れてしまい、交際をやめたいと思ってしまうのは当然のことです。Aさんの恋愛歴とは、まさにこの繰り返しでした。

 

 

彼女が相手を求めようとすればするほど、相手は彼女の愛が重たすぎて遠のいてしまうのです。そんな、相手の一挙手一投足で感情が不安定になるような彼女ですから、落ち込んだ時は極端なうつ状態に陥ってしまいます。

 

 

そしてイライラすると、習慣的に手首を切るようになってしまいました。彼女の左手首には無数の生々しい傷があります。彼女は自殺するためではなく、気晴らしに手首を切るのです。

 

 

切ると気分がすっきりするからだそうです。Aさんは、気分が落ち込みうつ状態になると外出できなくなり、家にひきこもってしまいます。感情が不安定なため、働きに出ることができないのです。

 

 

そういうわけで、今まで一度も仕事には就いたことがなく、ひきこもっている間は家で母親とテレビを見たりして過ごしています。こうした短期のひきこもりを、彼女は十年近く繰り返しているそうです。

 

 

境界性パーソナリティ障害の人たちに共通する特徴として、DSMーIV(アメリカ精神医学会の作成した診断基準)には次のように書かれています。

 

 

対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期に始まり、さまざまな状況で明らかになる。以下のうち五つ(またはそれ以上)で示される。

 

 

①現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする異常ともいえる努力。

 

 

②理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係様式。

 

 

③同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己感。

 

 

④自己を傷つける可能性のある、衝動的で少なくとも二つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い)。

 

 

⑤自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。

 

 

⑥顕著な気分反応性による感情不安定性(通常は二、三時間持続し、二、三日間以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらいら、または不安)。

 

 

⑦慢性的な空虚感。

 

 

⑧不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのケンカを繰り返す)。

 

 

⑨一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重症の乖離性(かいりせい)症状。

 

 

境界性パーソナリティ障害の人は最近増えていて、明らかに女性に多いのが特徴です(七十五%以上)。リストカット(手首切り)などの自傷行為が衝動的なので、マスコミなどで取り上げられることも多くなりました。

 

 

よく勘違いしている人がいるのですが、境界性パーソナリティ障害の人たちが行う自傷行為は、彼らが死にたくて行うものではありません。例えば、リストカットを行うような時は、むしゃくしゃしてストレスが溜まった時や、見捨てられて不安を感じた時などです。

 

 

彼らは手首を切ることですっきりした気分になるといいます。自傷行為としてはリストカット以外に、相手を選ばない性行為や、過食や拒食を繰り返すなど、摂食障害も見られます。

 

 

Aさんの場合も、むちゃ食いと絶食を繰り返し、ある時はブクブクに太ったかと思うと、またある時はまるで別人かと思うほどにガリガリに痩せているということがありました。

 

 

なぜ彼らがそのような自傷行為に頼らざるをえないのかという理由については、自分自身が生きているという実感を得たいからだという説があります。

 

 

教育分析家であるM・ヤコービは、その著書「個性化とナルシシズム」(創元社刊)のなかで次のように語っています。

 

 

口唇的嗜好(例えばアルコール中毒、あるいは過食)の背後には、しばしば生きている自分を感じとりたいという欲求が潜んでいる。甘いものへの病的な嗜好は、口唇レベルの性的欲求への代理満足であると解釈されることも多い。

 

 

しかし同時に私の体験では、そこには甘い生活への切望が反映されていることがある。自らの内になんら価値のあるものを見つけられず、すべてのものが味気なくうつろに感じられ、自分自身の価値を映し出してくれるような人が誰もいないような時、とりわけそうした欲求があらわになる。

 

 

摂食障害という自傷行為は主に女性に見られるものですが、男性の精神疾患としてよく見られる抑うつ感に対応するものといえるようです。さて、①でも示されている通り、彼らは一人でいることが耐えられず、常に人とかかわっていないと強い不安感に襲われてしまいます。

 

 

このような特徴は一見すると、ひきこもりの状態像とは相反するように見えますが、「見捨てられ不安」を常に感じている彼らは、空虚感や抑うつ感を抱かざるをえず、それが強まるとひきこもり状態になってしまうのです。

 

 

境界性パーソナリティ障害の人たちは、相手に対する見方を極端に、しかも突然に変化させます。Aさんの場合でも見られましたが、初めて会った相手であるにもかかわらず、「この人はまさに理想の相手だわ。結婚しようかしら」などと理想化したかと思うと、その次に会った時、少しでも相手の言動が気に食わなかったりすると、「最低!もうこんな奴とは二度と会ってやらない!」などと憤慨するといった具合です。

 

 

Aさんのケースでは、交際相手が仕事のため携帯電話に出られないだけなのに、彼女は「見捨てられた」とパニック状態になり、何十回と携帯電話を鳴らし、ついには相手の家や会社にまで怒鳴り込んでいくことが何度もありました。

 

 

このような相手の評価の極端な揺らぎは、自分自身の感情が不安定で揺らいでいるために起こるものです。また、境界性パーソナリティ障害の彼らは自分に注意を向けるために、よく自殺企図(自殺をしようと企むこと)をほのめかしたり、実際に自殺を行動化することがあります。

 

 

ですが、本気で死ぬ気はない場合がほとんどです。自殺の方法も、意図的に睡眠薬の量を調節して飲み下したり、飛び降り自殺を図るときも、死なない程度の高さ(二、三階)から飛び降りたりします。

 

 

これは、人にかまってもらいたい、愛されたい気持ちの稚拙な表現法といえます。しかし、このように過度の依存的な態度では、かえって相手は敬遠してしまいます。

 

 

境界性パーソナリティ障害の人は、情緒が不安定なため、ちょっとした対人関係のストレスでも、大きく感情が揺れ動いてしまいます。Aさんもそのために、対人関係を構築する必要のある、会社などで働くことはできないでいます。

 

 

そして、そんな自分が嫌になってしまうと、「人離れ」が起こり、ひきこもりになってしまうのです。このように境界性パーソナリティ障害は、熱狂的に対人関係を求めて悪戦苦闘する時期と、自己嫌悪や空虚感に苦しめられてひきこもりになってしまう時期を交互に繰り返していくのです。



メニュー

過去の記事

団体概要
団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
大橋秀太
理事:
大畑健太
理事:
杉下真理
住所
東京都東久留米市浅間町1-12-9
TEL
042-424-7855
メール
ki6jt7@bma.biglobe.ne.jp
活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
・共同生活寮の運営
・教育相談の実施
・各種資格取得支援