事例を通したひきこもりの理解と支援のあり方
ホーム > 事例を通したひきこもりの理解と支援のあり方

事例を通したひきこもりの理解と支援のあり方

2020年09月04日(金)8:44 PM

 

 

 

ひきこもり経験があるAさんの手記を通して、若者支援の中核を成す、ひきこもりの人の理解とその支援のあり方について具体的に考えてみましょう。プライバシーを保護するために、個人が特定されないように主旨はいかしつつも、一部改変していることをあらかじめ理解していただきたいと思います。

 

 

Aさんは現在40代で、兄弟はすでに独立結婚し、70代の両親との3人暮らしをしています。私たちが運営する団体の活動には、ひきこもり家族会を通して参画するようになった人です。

 

 

依頼された体験談を、どの時点から話せばいいのかいつも悩むところがあるというAさんです。普段から言葉数はそれほど多くありませんが、細かな周囲への配慮の機転が利く好青年です。

 

 

Aさんの手記

 

 

私はもう40代になりましたが、子供の頃は比較的普通の子供でした。しかし、幼稚園の頃から周囲に馴染めず、小学校も学校の中に溶け込めるようになるまでには時間がかかりました。

 

 

中学3年生の2学期に都会の学校へ転校し、そこでもなかなか馴染めませんでしたが、卒業まで残り数ヶ月だったので仕方ないと思ってその時は乗り切りました。

 

 

高校に進学してからは、中学時代の部活の友達もいたりして、けっこう楽しい学校生活が送れるだろうと思っていました。しかし、進学してみると、友達ともうまく話せない、話しかけられない自分がいました。

 

 

そのことが中学の時に転校してから人と接触することをどこか避けてきたので、他者とうまく話すことが出来なくなっているこのような自分は、人との関係性を積み重ねる経験値というものがないからだと思い、毎日高校に通って終わったら帰宅するだけの繰り返しだった生活を後悔する毎日でした。

 

 

本州の大学へ進学してからは、親元を離れ一人で暮らすことになりました。大学ではたった一人だけ親しい友達ができて、何でも話せる仲の良い関係が作られましたが、その彼とも卒業と同時に関係性は途切れてしまいました。

 

 

大学4年生の終わりになると、就職活動を控え、人との関係性の不足や経験のなさが負担として自分にのしかかってきました。あるひきこもり経験者が述べていたことに「経験の不足からくる不安」というものがありました。

 

 

それは、ひきこもりの心情や消極性、動きの鈍さというものを、ものすごくわかりやすく表現している内容だと思っています。経験の不足や不安と知識、自信のなさは、就職活動をしていくうえですごい重荷になってしまいます。

 

 

当時は平成不況の真っ只中で、就職活動が大変厳しい時でした。今でもそうなのかもしれませんが、大学3年生の後半になると企業から様々な資料や就職活動の指南本などが届くようになります。

 

 

そこには非常に厳しいことが書かれていました。「就職は相当難しい」「社会から要求されるものはかなりのものである」などです。もともと自信がないうえにそういう情報が入ってくると、真に受けてしまい、それだけで自信を失ってしまいました。もう社会に自分は入っていけないのではないかと思ってしまいました。

 

 

今になって考えるとそう思えないことであっても、当時は一人暮らしで孤立していたために、そこにとらわれてしまいました。なかなか思うように就職活動ができませんでした。

 

 

就職活動の指南本には、面接試験で友達の人数を聞かれるということが書いてあり、30人くらいいないと駄目だみたいなことがそこにはあって、もう自分はその時点でダメだなぁと思ってしまいました。

 

 

結局、就職ができないまま大学を卒業し、その時は1日も早く実家に戻りたいという気持ちで帰ってきました。実家へ戻ってからも、当然仕事探しをしなくてはならないので、一応やってみましたが、経験の不足からくる不安、自信のなさで自分ではなかなか思うようにできませんでした。

 

 

親からは働くことを強く求められました。世間では、仕事をすることが当たり前なので、親も責めるわけではありませんが、働いて自立することを期待します。

 

 

しかし、僕は、就職活動はできませんでした。次第に無職のブランクが大きくなるにつれ、ますます自分が駄目だなあと思い込んでいきました。自分でも自分が書いた履歴書を見て「こんな人間を相手にする企業があるわけがない」と感じてしまい、それが余計に自分自身を動けなくしてしまいました。

 

 

こんな状態でなかなか就職活動もできず、たとえ行っても無職のブランク期間のことを聞かれたら自分にも負い目があったりして、劣等感で何も答えられません。

 

 

面接試験で惨敗して、帰宅するだけです。ある時から親からは、就職活動に関して「何を言われても耐えなさい」みたいなことを言われるようになり、さらに荷重のストレスがのしかかるようになりました。

 

 

それから、母親が困ったのでしょう。ひきこもりの家族会に参加するようになりました。母親は当初、支援団体の代表者に相談をし、その後、ひきこもりの当事者会などを見学したりしてひきこもり家族会の事を知ったようでした。

 

 

母親が最初にひきこもりの家族会に参加し、その後、父親が参加するようになりましたが、両親がひきこもりの家族会に参加することで、自分への関わり方にも変化が起こるようになりました。

 

 

そのことで自分も少し楽になったと思います。そのうち、両親からひきこもりの家族会が行う当事者会に参加してみないか、という誘いかけがなされるようになりました。

 

 

しかし、自分は何でひきこもりではないのに、そうした集まりに行かなければならないのかと疑問を持ちました。でも、繰り返される両親の誘いかけに、自分は働いていないし、両親に生活の面倒を見てもらっているのに、断り続けることに対して自己嫌悪に陥るようになりました。

 

 

その当事者会は毎月1回行われていましたが、その例会日が近づいてくるたびに憂鬱になり、親の誘いかけを無視して、その時はホッとする一方でまた誘われるのかと思うと、そのことだけでひどく落ち込んでしまいました。

 

 

そんなことを繰り返していくなかで、ある時参加することを決意しました。両親は、初めて自分が参加した時には涙を流して喜んでくれました。実際、当事者会に参加してみると、たまたま年齢の近い人達の参加者が多かったこともあって、比較的話しやすく、意外と参加してみると良かったです。

 

 

普段家族以外の人と接していなかったので、他人と世間体を気にせずに話をするということに満足感を覚えました。それからこの当事者会に毎回参加するようになりました。

 

 

当事者会に1~2年参加するなかで、他の当事者会を見たくなるようになり、行動範囲が広がっていきました。また、当事者会に長く関わるようになると、いろいろと頼まれ事が多くなっていきました。

 

 

講演会や研修会の手伝い、経験談を話してほしい、会報に原稿を書いてほしいなどです。長く関わりのある人から頼まれるのはいいかなと思って引き受けてきましたが、そうした経験の積み重ねのなかで、現在の活動があり、参加できているのだと思っています。

 

 

支援団体から依頼が来た時、不安な部分もありましたが深く悩まずに「まあいいか」と簡単に引き受けてしまって、そういう意味で今、いろいろと大変な作業もあったりしてまいったなと思ったりしています。

 

 

自分が当事者会に出て良かったと思うことは、自分よりも先に進んでいる人の姿を見ることができたということです。例えば、働いている人、アルバイトをしている人、大学へ進学している人、具体的なものに何か向かってはいないけど、当事者会に関わっているとか、そういう人たちを見ておそらく自分も今の行動に影響を及ぼしているような気がします。

 

 

支援者への心構えというか、支援者としてひきこもりの人にどう関わればいいのかということですが、はっきり言ってよくわかりません。ひきこもりの人としてそういった人たちと関わってきた経験がないというのも理由の一つです。

 

 

それから「自分でもどうしていいのかわからない」ということもあります。そのなかで、支援者に対して何を望むかという発想は出てこないという難しい側面があります。

 

 

しかし、自分が初めて当事者会に参加した時、世話人的な役割を務めていた人がソーシャルワーカーで、完全なひきこもり経験はありませんが、長くフリーターと無職を行き来する経験をしてきたこともあって、ひきこもりと似たような経験をもつ人でした。

 

 

その人から、まず初めに言われたことが「別に私はあなたのことを変えようとは思っていないので安心してください」でした。自分は当事者会に出ようと思った時、そこでは一体何をやっているのだろうと不安とか心配があって、それをまず初めに聞いた時は何か拍子抜けをさせられた一方で、安心できるところがあって、ここに来れば何かになるわけではないなあ、確かにそうだなぁと納得させられました。

 

 

そういうところが、支援者にとってのひきこもりの人と接するひとつのヒントになるかもしれません。「ひきこもりの人を安心させる」という関わり方をすることが良いのではないでしょうか。

 

 

最後に将来のことについては、40代ということもあって将来のことがすごく怖くなります。できることを積み重ねていくしかないと思っています。あまりにもひきこもっている期間が長いと、将来のことはあまり考えられなくなります。

 

 

今のこと、明日どうするかという感じで、常に不安にさらされています。当事者会の活動のなかで、ちょっと手伝いをしたりして、自分のできることをやっていきながら社会とつながり、それがいずれ何かに繋がっていくことができればいいと思っています。

 

 

 



メニュー

過去の記事

団体概要
団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
大橋秀太
理事:
大畑健太
理事:
杉下真理
住所
東京都東久留米市浅間町1-12-9
TEL
042-424-7855
メール
ki6jt7@bma.biglobe.ne.jp
活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
・共同生活寮の運営
・教育相談の実施
・各種資格取得支援