ひきこもりに多い対人恐怖
ひきこもりやニートの人は、対人恐怖症の人が珍しくありませんが、対人恐怖には正常心理に近い対人恐怖や対人緊張から妄想性を帯びている重症例まで多様な状態像が含まれ、従来の対人恐怖概念は国際的な診断基準においては、多様な診断カテゴリーに分散することになります。
DSM-IVにおいては、社会恐怖、強迫性障害、全般性不安障害、妄想性障害(身体型)、身体醜形障害、回避性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害などの一部、あるいは統合失調症の一部までを含め、重症度においてもさまざまな水準のケースを含むことが指摘されていて、対人恐怖からひきこもりに至るメカニズムを一様に論じることには慎重でなければなりません。
しかしその一方で、さまざまな病像や病態水準を含みつつも、「他人と同席する場面で、不当に強い不安と精神的緊張が生じ、そのため他人に軽蔑されるのではないか、他人に不快な感じを与えるのではないか、嫌がられるのではないかと案じ、対人関係からできるだけ身を退こうとする」という精神病理学的メカニズムを背景とするひきこもりケースは少なくないと思われます。
次に、対人恐怖の時代的な病像の変化やひきこもり問題との関連に言及した先行文献を概観してみたいと思います。従来から、加害・忌避関係妄想性を伴うような、いわゆる重症対人恐怖のケースでは、長期に及ぶひきこもりが生じやすいことが知られています。
しかし近年においては、これまで特徴的とされてきた、自己の存在や身体に関する欠陥の確信→それが周囲の他者に不快を与え(加害関係妄想性)→その結果、他者から蔑まされ避けられると確信される(忌避関係妄想性)という三分節的な症状構造が明瞭でないにもかかわらず、むしろ、重症型以上にたやすく他者との関わりを絶って閉居を続け、治療に難渋する例が少なくないようです。
精神科医の中村敬氏は森田療法の入院例を対象とした調査において、対人恐怖症が全体として未分化で非特異的な症状に拡散している一群として「回避・ひきこもりを伴う対人恐怖症」の特徴を以下のように述べています。
1、赤面、表情、自己視線など自己身体の一部に固着する構えが乏しい。
2、漠然とした対人恐怖や圧迫感が中心である。
3、通常、明確な加害関係妄想性は認められない。
4、他者に対する罪意識が希薄である。
5、他者に対するおびえの意識が強い。
6、自分らしさを巡る不確実感を伴いやすい。
7、しばしば抑うつ・無気力症状を伴う。
8、長期にわたってひきこもる傾向にあり、治療が難渋しやすい。
そのうえで、「回避・ひきこもりを伴う対人恐怖症」は、1~4の特徴によって従来の確信型(妄想型)の対人恐怖症とは異なりますが、5~8の特徴からは純粋な恐怖症段階にとどまるとも言いがたいと位置づけ、これらの症状に共通して、強迫傾向、あるべき自己像の拡散、対人関係における受動的過敏性などが見出され、回避性パーソナリティ障害と重なり合う部分が大きいとしています。
また、精神科医の鍋田恭孝氏も、対人恐怖症、強迫神経症を中心として症候学的には軽症の神経症が増加している一方で、ひきこもる青年の臨床においてさまざまな軽症の神経症類似症状が見出されるという印象を指摘し、古典的な対人恐怖症と「ひきこもり」に伴う軽症の対人恐怖症との違いについて以下のように述べています。
1、症状化のレベルが低く、前記の中村氏が指摘するのと同様に具体的な症状に乏しく、漠然とした緊張感と戸惑いを抱いている。
2、はっきりした自我理想が見出しにくく、しかも、なんとかこの自我理想に近づこう・自我理想に合わない自分の部分を消去しようという強迫心性が見られない。
3、古典的な対人恐怖症で見られるような、納得のいく関係性が見出せない、あるいは実現できない苦悩というよりも、他者あるいは群れそのものに対するおびえに近い苦しみである。
4、うまくいかない、戸惑う、嫌われているのではないかという気持ちになると、「避ける、こもる」という対応を引き起こすことが圧倒的に多く、このことがひきこもりにつながる弱力的な防衛スタイルともいえる。
5、かくありたい、あるいは、あるべき自己像、自我理想像がはっきりせず、自己同一性の障害に通ずる自己感覚のあいまいさ・自己像や自分のライフスタイルの形成があいまいになっており、結果、悩みそのものも漠然としたものになりやすい。
そして、以上の相違は身体葛藤モデルに匹敵する神経症状態と欠損モデル(明確な欲求の欠損、自己像の欠損、対人関係形成能力そのものの形成不全)との違いから生じていると考えられる、と述べています。
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