なかなか社会復帰できない「長期のひきこもり」について
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なかなか社会復帰できない「長期のひきこもり」について

2020年06月21日(日)10:23 PM

 

なかなか社会復帰できない長期のひきこもりでも時間をかければなんとかなると私は考えています。このようなことが言えるのも、私が関わったケースの中に、長期にわたってひきこもりをしていた人が、まさに穴蔵から這い出るように現れることがあったからです。その一人であるAさんは、「穴蔵」から出てきたときが36歳、穴蔵入りをしたのが18歳ですから、18年という長期の引きこもり生活でした。私が直接関わったのは、この18年のうちの半分、ほぼ9年間でしたが、ともかくも穴蔵生活から這い出して、今は毎日アルバイトに励んでいます。

 

この年齢になると、常勤で勤めるということが難しいばかりではなく、また派遣社員のようなものをするには経験不足なので、軽労働のアルバイトをしています。そのAさんが言っています。「僕は、本当に自分の人生を捨てていました。ひきこもりを始めたころは、こんな生活をしていていいのだろうかとよく考えましたし焦りましたが、やはりだんだんとこれも仕方がないのかなあと思うようになり、しだいに焦りもなくなりました。

 

そうは言っても、自分をこんな状態にしたのはいったい誰なのかと思うと、ムラムラした気持ちが沸き起こり、時には家族にあたりました。俗に言う家庭内暴力です。僕は、人を傷つけることはしませんでしたけれど、本棚を壊したり、ガラスを割ったりしましたし、ご近所に聞こえるぐらいの大声を上げて、わけのわからないことを叫んでいました。なぜ自分はこんな壁が破れないのか、どうしたら壁を破ることができるのか、誰かに教えてもらいたいと思っても、もう親とは話もできない状態でしたから、相談することもできませんでした。落ち着いた気持ちになれませんから、本を読むということもできませんでした。

 

だから、毎日毎日、机を叩いて悔しがっていたのです。少し落ち着いたときには、小学生のときの教科書を出して読んでみました。もちろん書いてある事はわかるのですが、読む先々から、こんなものを読んでどうするのかという思いが募ってきますから、結局は途中で投げ出す始末です。もう自分がだめになったと思い、自殺しようと思ったことも何回もあります。自殺するにはどうしたらいいか、いろいろ考えてもみました。苦しまないで死ぬ方法を見つけようと夢中になったこともあります。でも、どうやっても苦しみそうだし、苦しまないで死のうとすれば怖い思いをしなくてはならないということに気づいて、自殺する気もなくなりました。

 

自殺しようと思っていたときは、まだ目的意識があったので、「やる気」が残っていたように思いますが、自殺することもあきらめるようになってからは、気力が完全に失せたような気がします。毎日毎日が無為に過ぎていきました。この穴蔵から出たのは、ちょっとしたきっかけです。いま思うと、何でそんなことに気づかなかったのかと考えるのですが、無為に過ごしているときは考えつきませんでした。穴蔵から出る気になったのは、このまま死んでしまったらつまらないなという思いが、ふと出てきたときでした。

 

その頃は自分を完全に捨てていたのですから、自殺するのは怖いけれど、いつ死んでもいいと思っていました。ある日、その日は夏の暑いときでした。僕は、その昔水泳が好きでしたから、こんな日に泳いだら気持ちがいいだろうなという、当時でいえば本当に珍しい気持ちになりました。夏の暑い日ですから、こんな気持ちになるのは、ごくごく当たり前のことなのでしょうが、自分の人生を深く考えることもなく過ごしてきた者にとっては、こんなことを考える瞬間があるとは考えもしなかったのです。それが自分でも驚きでした。その頃僕は、親ともほとんど隔絶状態だったのですから、誰からも話しかけてもらえる状態ではありません。

 

それだけに、自分の思いの中に、こんなことが浮かび上がったことが不思議でした。そして「やっぱり生きよう」と思ったのです。親が先生と話をしていたことなどは、まったく知りませんでした。仮に知っていたからといって、自分に変化はなかったと思います。でも、もしかして両親が先生に相談をしていたとわかったら、「あ、親も僕のことを見捨てているんじゃない」という気持ちになったかもしれません。その意味では、両親が僕を見る目が違っていたのかもしれません。僕は、両親も僕のことをあきらめていたと思っていましたから。だから、先生のところに相談に行っていたというのは驚きです。でもひょっとすると両親の「おまえのことをあきらめているわけではない」というメッセージが、僕に知らず知らずのうちに伝わったのかもしれません。

 

両親は「先生のところへ相談に行っている」というようなことを僕にひと言も言ったことはなかったと思います。もちろん、僕のことをあきらめたと言ったこともありませんが・・・。今、僕は充実しているなんて、きれいごとを言うつもりはありません。本当に生きているという感じを持っているとも言えないかもしれないのです。でも、自分を捨ててしまったあのときとは違う感じを持っていることも、また確かです。何となく「生きていてよかったな」という思いはしています。なんせ夏になれば、泳ぎにいけるのですから。それだけでもいいとしなければ・・・。親にはずいぶん心配をかけたと思います。「こんな僕に、誰がした」と親にくってかかったことを忘れているわけではありません。

 

でも、あのときはあのとき、今は今です。ちょっと図々しいのですが、親も僕が「生きていて良かった」と思っているんじゃないでしょうか。そう思うことで僕は恩返しをしているような気持ちになっています。もちろん、そんなことは親には言ったことはありませんが。これがAさんの話でした。このAさんを思い出すたびに、私は、長い経過をたどるひきこもりの人も、いつかは暗い穴蔵から抜け出してくると確信しなおすのです。



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