不登校と家族の不協和音~ある家族のケース~
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不登校と家族の不協和音~ある家族のケース~

2020年05月28日(木)11:37 AM

 

 

B子さんは中学三年生ですが、学校に通っていたのはずいぶん昔のことです。小学校低学年の頃から欠席が多く、高学年になってから本格的な不登校状態になったと両親は語ります。

 

中学一年生では欠席が三分の二、二年生、三年生はほとんど出席していません。二年ほど前から父親の知人の紹介で、他の場所で一対一のカウンセリングを受けています。毎週一回、そこには一人できちんと出かけて行きます。

 

父親は大学の事務職員で穏やかな印象の人です。母親は専業主婦で、子どもたちのことをあれこれ細やかに世話する人です。そして小学六年と三年の妹がいます。十月初旬の秋晴れの午後、第一回の家族面接を行いました。

 

やって来たのは、両親と妹たちの四人でした。本人は行きたくないと言ったので連れて来なかったと言います。何事も強制はしないのだそうです。初回面接の前半、母親の絶える事のない笑顔がとても気になりました。

B子さんはもう五年あまりも学校に行っていません。中三の秋ですから、将来のことを思う父親の言葉少なさは理解できる気がしました。しかしそんなストレスフルな話はすぐに母親にとられてしまいます。そして母親が話し始めると雰囲気が変わるのです。

 

同じようにB子さんのことを話題にしているのですが、とにかく明るいのです。行き詰まりのような深刻さはほとんど感じられません。笑みがこぼれ、口調はあくまで穏やかで親しみやすいものでした。そんなわけでわたしも、つい父親より母親に話しかけてしまったりしていました。

 

しかしよく考えてみると、これはおかしな話です。長期間不登校状態にある高校受験目前の娘を抱えているのです。親に焦りや苛立ちがあるのは当たり前のことです。それにわざわざ相談にやってきているのです。

 

もっと混乱や焦燥感があからさまに見えても当然の状況なのです。ところが実際はそうではありません。多くの場合、場違いな笑いは何かを覆い隠そうとしています。ですから逆に強い緊張やストレスの存在を示していると言えます。

 

笑いは場の緊張を一時ゆるめてはくれますが、問題の元になっている事態には何の働きかけもしません。それどころか、いよいよ直面せざるを得なくなった時にも、焦点を拡散させてしまうことになります。

 

そこには笑ってごまかさないと耐えられない心情を見ることができます。ですから、そういう習慣を抜きがたく持った人の子育ては、小さな不調和や緊張場面をしのぐ力を育てません。

 

そこでわたしは、笑顔に異論を唱えるつもりで、「長い間、学校に行ってらっしゃらないお嬢さんがいるというのに、皆さんたいへん明るくて、そんな心配の存在は感じられません。

 

和気あいあいとした感じで、困っておられるようにはまったく見えませんね」と言いました。少々意地の悪い返し方です。すると、長い沈黙が起こったのです。妹たちは顔を伏せてしまって黙っています。

 

父親も伏し目がちにじっとして口を開きません。そして母親からは笑顔が消えて、どう対処しようか迷っているようでした。

 

しかしこれとてもまた、母親一人が考えているもので、わたしの投げかけたメッセージを、両親がいっしょにどう答えたらよいものか・・・・と考え込んでいる様子ではないのです。

 

しばらく時間が過ぎました。そして母親が少し笑顔を回復させてこう言いました。「不登校児を抱えて妹たちへの影響も大きいので、家庭が暗い雰囲気にならないように、つとめて明るく振る舞ってきました」

 

これを聞いてわたしは、この家庭ではいつも母親が一人で、家族にふりかかる困難に対処してきたのだと思いました。母親が果たしている役割はけっして間違ってはいません。よくがんばってこられたのだと思います。

 

しかしそれが過ぎると、他の家族は母親ばかり当てにするようになってしまいます。そんなつもりだったわけではないでしょうが、結果的には精神的な不協和音に弱い家族を育てることになったのだと思いました。

 

こんなエピソードも聞きました。日曜日の夕食を外で食べようと家族揃って出かけたときのことです。和食か、洋食か、中華か道中いろいろ話して、B子さんの激励の意味も込めて、彼女の希望をみんなが了承したのだそうです。

 

目的に店に着いたところ、夕食時でかなり混んでいました。三十分近く待たなくてはならなかったそうです。他の店にするか、入り口の列について待つか選択しなくてはなりません。B子さんの希望で決めたのですから、どうしようかと家族は躊躇しました。

 

B子さんがみるみる不機嫌になっていくのを母親は感じて、「仕方ないじゃない、どうする?」といつもの笑顔でとりなそうとしました。しかしB子さんは、「帰る!」とひと言いって逃げるように自宅に戻ってしまいました。

 

残された家族はしかたなく、持ち帰り用の寿司を買って帰ったそうです。しかし声をかけてもB子さんは部屋から出てきません。家族揃っての外食プランは、一人欠けた状態で味気のない寿司を食べる結果になったそうです。

 

妹たちのことを考えたら、もう少し上手な解決策はなかったのかと思わずにはいられませんでした。B子さんに許されていることは、やがて妹たちも見て覚えていきます。同じことをするようにならないとは言い切れません。

 

一般的に身につけさせなくてはいけない感覚は、特別な配慮の名の下に、簡単になし崩しにすべきではないと思います。正しいのだけれども不協和音が鳴り響く、そういうことが暮らしの中にはあります。

 

それに耐えるのも、子どもたちに耐えさせるのも親の力です。



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