来ない人の椅子~中学三年生の不登校の女子生徒のケース~
ホーム > 来ない人の椅子~中学三年生の不登校の女子生徒のケース~

来ない人の椅子~中学三年生の不登校の女子生徒のケース~

2020年05月27日(水)12:11 AM

 

 

中学三年生のA子さんはかなり長い間、不登校が続いています。両親と弟、妹の五人家族の長女です。父親は福祉関係の職場にいて、仕事でも不登校の児童に関わらなくてはならない立場にありました。

 

母親は専業主婦で、三人の子育てを中心に暮らしてきました。全家族面接を勧めましたが、本人を同行するのが非常に難しい家族でした。A子さんは部屋に閉じこもっているようなタイプではありません。行きたいところには、一人ででも出かけます。

 

しかし面接には気が向いたときだけ同行する姿勢でした。他の四人は約束の日にきちんとやって来ました。そして何度目かの家族面接予定日の前日、母親から電話がありました。「年度末業務で多忙なため、主人がうかがえないのですが・・・・」と言います。

 

そこで、「それなら四人でお越しください」と伝えました。母親がA子さんを連れてこられるかどうかが、ひとつのポイントでした。定刻、母親、妹、弟の三人が来所しました。父親は仕事、A子さんは気が進まないので家でゴロゴロしていて欠席です。

 

妹は卒業茶話会の準備があったのですが、わざわざ早退して来ています。弟もスポーツクラブの練習を休んで来ています。

 

面接を始めましたが、表情からも妹の不満は明らかでした。姉も父親も来ないのに、なぜ自分は学校の行事を休んでまで来なくてはならないのか、そう思っているに違いないので、質問を妹に向けました。

 

「三人だけでここに来て、どんな感じですか?」すると、「もうここに来るのは嫌です!」と言って涙を流しました。わたしはそれを見て、「もっともな気持ちだし、よくわかるよ」と言いました。妹の訴えに母親も涙を浮かべています。

 

しかしこれを見ながらわたしには、もうひとつ釈然としない思いが残りました。この涙は誰に向けられた、どのような感情なのかがはっきりしません。妹は泣いていますが、悲しいのでしょうか。また、母親は何に同感しているのでしょうか。

 

妹の何が分かったのでしょうか。わたしにはそれが分かりにくいのです。弟は何がどうなっているのかわからない顔つきでボーッとしていました。中身が曖昧なまま勝手に受けとめられたり、確かめられないままの感情が適当に収めさせられたりしているように見えました。

 

そこで妹に、部屋の隅の椅子を一つ持ってくるように指示しました。それを自分と向き合う場所に置くように言いました。「この椅子はお姉さんの椅子です。実際はここにいませんが、ここにA子さんが座っていると考えてください。

 

そして彼女に対して、あなたが今言いたいことを言ってください」妹の横にわたしも並んで座って、空き椅子と向き合いました。戸惑っている妹の横でわたしは、静かに妹の口調で語り始めました。「ここにはお姉ちゃんの相談で来てるんでしょ。それなのにおねえちゃんは来ないで、どうしてわたしは茶話会の準備を抜けてまで、ここに来なくてはならないの?」

 

すると妹もすぐに話し始めました。「お姉ちゃんは勝手だ。自分は気分ばかりで決める。わたしらがそんなことを言うと、お母さんは注意するけど、お姉ちゃんだけはいつでも特別扱いなんだよ。

 

なんでお姉ちゃんだけいつでも特別なの?そんなのおかしい!」この一家との面接で、初めて批判や攻撃の様子を見ました。これまではずっと、思いやりや理解ばかりでした。セラピストと場の設定に支えられて妹が表した感情は、もっともなものでした。

 

しかし母親は戸惑っていました。妹が姉を責めるとは思っていなかったのです。この後には父親の椅子も設定しました。「お父さんはずるい!お姉ちゃんを怖がってわたしらばかりに我慢させてる!」

 

 

どんどん生の感情が表れ始めました。次は弟の番です。弟にはまだ何のことだかわからないかもしれないとも思いましたが、彼にも空き椅子に向き合ってもらいました。

 

しかし、やはりほとんど何も言えませんでした。そこで、弟と妹を並んで座らせて、向かい合った父親の空き椅子の横に、母親に座ってもらいました。わたしは子どもたちの補助役の位置に座りました。そして両親に言いたいことを言う設定にしました。

 

主に母親と妹の会話でしたが、親子で現在自分たちが置かれている状況の話ができました。数ヵ月後には妹弟もそれぞれ新学年を迎えることになります。いつまでも二人に面接のための早退を強いるのは良くないと考えました。

 

そこで両親に、三人の子供たちの親としての決断と実行を迫ることにしました。「いよいよ学年末で、A子さんだけではなく、ここに来続けてくれた妹さん、弟さんたちにとってもひとつの節目です。

 

この面接もいつまでも続けるものではありません。そこで次回はご両親で協力して、家族全員で来られるようにしてください。またそれまでに、A子さんの学校問題について基本的にどうするのか、二人で話し合っておいてください。

 

再登校や進学を望むのなら、しばらく家庭を離れて暮らす方法もあります。次回の面接では何か具体的なことを考えましょう」この結果、全員が揃った次の面接では、A子さんの感情と家族の感情が激しくぶつかることになりました。

 

でもA子さんは泣き叫んだ後、すっきりしたようでした。A子さんが変わり始めたのはこの面接がきっかけでした。あとは加速度的に好転していって、五年以上の長期にわたる不登校はやっと終幕を迎えました。

 

その後、高校受験、そして合格と、みんなが望んでいたような流れにつながっていきました。



メニュー

過去の記事

団体概要
団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
大橋秀太
理事:
大畑健太
理事:
杉下真理
住所
東京都東久留米市浅間町1-12-9
TEL
042-424-7855
メール
ki6jt7@bma.biglobe.ne.jp
活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
・共同生活寮の運営
・教育相談の実施
・各種資格取得支援