親子関係~「息子が怖い」と言う母親
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親子関係~「息子が怖い」と言う母親

2020年05月22日(金)8:12 午後

肥満が理由で入院し、病弱児のための養護学校に通っているZ君のことを知ったのは、電話による問い合わせからでした。「息子を施設で預かってもらえるでしょうか?」不明な部分の多い打診でした。現在入院中なら、まずその処遇がこれからも優先するでしょう。




それに肥満と言ってもどのような状態なのか、入院の理由は本当に母親の言うとおり単なる肥満なのか。そして施設とはどこでつながるのか、とにかくわかりにくい話でした。Z君は男三人兄弟の末っ子です。父親は仕事中、送電線に触れる事故で亡くなっていました。もう四年あまり、母子の暮らしが続いています。




この間、長男は大学進学で家を離れ、二男も就職で家を離れました。父親の残してくれたもののおかげで、すぐに暮らしに困ることはありませんでしたが、将来のことを考えて母親も花屋で働いていました。




Z君の肥満は、こんなめぐり合わせからでした。父親の死後、兄たちと少し歳の離れていたZ君が小学校から帰っても、家には誰もいません。




母親は仕事に出始めていましたし、兄たちは受験生だったり、高校生でした。寂しい上に空腹で、一人で家族の帰宅を待つZ君をかわいそうに思った母親は、冷蔵庫にいろいろなものを買い置いてやるようにしました。




スナック菓子にカップ麺、食べながら待つ習慣はどんどん拡大していきました。いつの間にかジュース、コーラの類は大きなペットボトルでがぶ飲み状態になっていきました。健康のことを考えて買い置きの量を減らしたりすると、帰宅した母親を激しく非難するようになっていきました。




兄たちがこのやりとりを直接見ていれば、何か言ったに違いありません。しかし歳の離れた末っ子、かわいそうだと思う気持ちも手伝って、母親は譲歩を重ねてしまいました。




こんな生活が続いたZ君の身体は、小学校の保健室の先生が放っておけないと思うほどの肥満状態になってしまいました。肥満に付随する病気の予防のために、無理やりでしたが入院させることになりました。




そして同時に、病院から母親への食事指導も入ることになりました。しかし母親はわかっていなかったわけではありません。むしろZ君が食べることで満たしている精神的なもののことが頭にあったのです。




だから分かっていたけれども、止められなかったのです。二週間に一度、週末に帰宅して家族と過ごし、週明けに病院に戻るのが入院加療中の子どもたちのプログラムでした。




しかし帰宅したZ君は週末に暴飲暴食して、一ヶ月かかって落とした体重を一気に元に戻してしまいました。医者から激しく注意され、一人だけ帰宅させてもらえずに過ごした週末もありました。





そしてこの悪循環のために、やがて、Z君の要求に立ち向かうのに母親一人の力ではどうにもならなくなっていきました。夜中の二時過ぎに、「お好み焼きが食べたい!買って来い!」そう怒鳴り散らし、説得してなだめようとする母親に暴力を振るいます。




殴られた後で結局、母親は夜中の街にお好み焼きを求めて出かけていくのです。こんなことを繰り返していては治療どころか害になるということで、とうとう退院させられてしまいました。




最初の電話は、その渦中での問い合わせだったようです。大学や就職で家を離れている兄たちが母親の窮状を聞いて帰宅し、Z君を激しく叱りました。




兄二人はどちらも怖い父親のような存在で、彼らに言われることは聞くのです。二度と母親に暴力を振るわないと約束させて、兄たちはそれぞれ帰っていきました。




二人だけが残った日曜日の夜以降、何が起こり始めたかは、母親の話をそのまま信用するならとても悲惨なものでした。もはや暴力は拳にとどまらず、ハサミ、包丁の類が飛んでくるようになりました。




脅しではなく、本当に「死ね!」と叫んで、狙って投げてきたといいます。出刃包丁が柱に刺さって先が折れて飛んだとき、母親は家を飛び出しました。




そこをめがけて飛んできたハサミが頭をかすめました。夜中に飛び込んできて助けを求める母親を見て、隣家の住人が110番通報し、警察が踏み込んできて放心状態のZ君が保護されました。




児童相談所でしばらく一時保護をした後、Z君は家から遠く離れた施設に入ることになりました。母親が恐怖心から、Z君といっしょに暮らすことを強く拒否したからです。




病院の話では、彼の肥満は病気ではなく、生活のリズムを整えて適切な食事を摂っていれば元に戻るとのことでした。数ヶ月の冷却期間の後、Z君の引き取りへのスケジュールも頭に置きながら、母親と面接をしました。




しかしそこで見たのは、Z君のことを話題にするだけで真っ青になって震える母親の姿でした。施設からの行事参観などの連絡には一切応じていません。たいへんなことになっているとあらためて思いました。




そこでZ君との関係の再構築のため、母親と継続面接を行うことにしました。一年余り定期的に続けましたし、Z君との再会もいろいろ工夫しました。しかしこれは思いのほか困難な作業でした。




ふりかえってみると、最初はほんの少し、かわいそうだからとはじめた配慮でした。それがあれよあれよという間に大きな亀裂になって、母子を引き裂いてしまいました。




結局、施設に面会に出向いて顔を合わすだけのことに二年、Z君が自宅に戻っていっしょに暮らすのには、さらに三年もの歳月がかかることになってしまいました。




単純な話ですが、力関係のはっきりした秩序の存在は、その場の構成員全体を安定させます。たとえそれに不満な人がいても、不満の対象がはっきりしているかぎり安定しているのです。




そこから反論や反抗が起きたとしても、それは大きな目で見れば、健全な次世代を育てる秩序の一つのスタイルです。気持ちは別でも、嫌なことの一つも言わなければならない親は損な役回りではあります。




しかしそれを担うことで、子どもたちが自分自身を鍛える壁になってやれるのだとしたら、逃げてはいけない役なのでしょう。そこを逃げずにぶつかりあった親子だけが受け取れるのが、親子関係の次のステージへの入場券なのです。



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