荒れる子ども~中学二年生男子生徒のケース~
ホーム > 荒れる子ども~中学二年生男子生徒のケース~

荒れる子ども~中学二年生男子生徒のケース~

2020年05月21日(木)12:00 午後

ある少年に会いました。現在中学二年生なのですが、問題は今に始まったことではありません。小学校時代の様子はこんなものでした。入学早々から毎日のように教室を飛び出したり、学校からいなくなってしまいます。ハサミやコンパスを投げるので授業ができない、気に入らないことがあると机や椅子をひっくり返します。


先生たちは、そのうち馴染んで落ち着いてくるだろうと思っていました。しかし三、四年生になると、腹が立てば他の子を殴る蹴るは日常茶飯事で、そのくせ自分が攻撃されたり教師の強い制止を受けたりすると、その場に倒れこんで大騒ぎして救急病院に運ばれ、泣きながら担任の暴力を医者に訴えたりします。


その結果、教師は、砂を噛むような思いで事後処理に忙殺されるのでした。強い者の前ではおとなしく、弱い者にはがらっと態度が変わるのです。高学年になると、級友宅を訪ねた後、しばしばその家の現金がなくなることがあり、トラブルになっていました。


このような性格なので友達はいなく、校内では浮き上がってしまっていて、卒業してくれるのを学校中が待ち望んでいたとのことです。中学校では、こんな風に書かれた申し送り書に、いくら何でもあんまりだと小学校批判が出ていたそうです。


しかしそれもごく短い間でした。連日、新たな問題が中学校を巻き込むようになったのです。授業妨害、暴力に加えて、登下校時に窃盗までしていました。通学路にある商店は、ことごとく被害にあいました。しかしそれにもかかわらず、彼が盗んでいるところは発見されたことがありませんでした。


A君の家族は五人家族です。幼なじみ同士で結婚した両親と、高校生の兄と姉がいます。兄姉たちに関わった先生や、同級生の保護者の評判を聞いても、家庭に問題をうかがわせるようなところは何もありません。


父親は歯科医で、母親はその手助けに日々がんばっていて、夫婦仲もよいとのことです。子ども会の役員を長年引き受けていて、近所の評判もいいのです。父親は少年野球の世話役もしています。


兄はいずれ父親の仕事を受け継ぐつもりで進路選択を考えています。姉は要領の良い子で、ほどほどに両親と仲良くしながら、青春をエンジョイしているようです。どう見ても恵まれたいい家庭です。A君はこのような家庭に生まれ育った末っ子でした。


ですからこの相談にはかなり戸惑いました。問題を抱えた多くの家庭とは、あまりにも違っていたからです。こういう両親でしたので、夫婦面接を提案すると約束の時間にきちんと来談しました。面接は順調で、誠実な対応のものでした。何か裏にあるに違いないと考えていた自分を職業病に侵されていると反省させられました。


数日後、A君と会いました。ろくに口もきかず、ふてくされた態度をとるのではないかという予想は大きくはずれました。多少は警戒していたようですが、すぐに何でもしゃべってしまう賑やかな少年でした。


ただ、やたらとお金のことを話題にすることが気になりました。駅前の土地がほしいと言い、三千万円くらいはするかなあと聞いてきます。父親の仕事の仕方、兄に与えるものと自分に与えるものに差があるなど、いろいろな不満を話しました。


その一方で、家族が彼のために計画する夏休みのキャンプ旅行や日曜日の散歩には同行しています。そしてその様子も嫌がらずに話します。そんな中でも買い物のエピソードは興味深いものでした。彼が学校で使うものは、母親に言って買ってもらっています。例えばカバンを求めるのはこんなふうです。


「カバンを買うから、金をくれ」母親は請求額より多めに渡し、きちんと清算するよう言います。A君は以前から欲しかったドクロマークのついた黒いカバンを買って帰ってきます。


品物を見せてレシートとつり銭を渡すと、「こんな模様のカバン、通学に許されているの?」と母親は穏やかに聞きます。「違反だよ」正直にA君は答えます。するとやさしく、しかしきっぱりと、校則で決められたものに交換してくるように指示します。


A君はレシートを持って再び店に行って、返品交換してもらうのです。学生服のズボンやシャツの時にも、同じように返品交換が行われていました。現実には多くの子たちが、違反服で通学していたり違反カバンを持っていてもです。


あるとき彼が友人たちと、置いてあったバイクを勝手に乗り回して破損してしまい、弁償したことがあります。十数万円にもなったのですが、これについて彼はこう言いました。「俺の頼んだことは何もしてくれないし、金もくれない。


なのに弁償には十万円も出して、わけがわからない」また彼はこんなことも言います。「友達の家から夜中にタクシーで帰ってきて、玄関に待たせておいて寝てしまう。そしたら親は金を払うしかないだろ」「学校の先生には言わないでほしいけど、俺、バイトをしている。


夜中の水道工事、穴掘りなんか一万円以上くれる。兄貴や姉さんらのバイト、時給九百円だろ。俺のほうが時給にしたらぜんぜんいいじゃないか。バイトの時は友達の家に泊まったことにしてある。


俺の母さんには言わないでほしい。やめろって言うに決まってるから。友達の母さんらは、がんばれって言ってくれるのに」両親はA君のことを兄姉同様に、自分たちのイメージするような自由で活発な子どもに育って欲しいと願っています。


もしかすると、そのようにしか子どもをイメージできないのかもしれません。しかしA君は親の期待よりも自分の欲求に正直で、やりたいこと、欲しいものがいっぱいある子です。そしてそれぞれは平行線のまま、結果としての妥協だけを繰り返しています。


確かに両親の家族イメージに深夜の土木工事は似合わないでしょう。子供会活動の世話役をしている両親にとって、金髪や違反学生服で夜遊びする息子は受け入れ難い存在でしょう。


しかしわたしには、A君は兄姉とはまったく違うタイプの子供のように思えました。この、親子の食い違いが幼児期からずっと続いてきていたのだとしたら、A君の人格の形成はかなり屈折せざるを得なかっただろうと思います。


わたしは何の心配も葛藤も持たない家族を今まで見たことがありません。そんな家族はおそらくいないのだと思います。しかしA君の家族を見てください。両親がほんとうにいい夫婦で兄も姉も近所でも評判の子供たちです。


だとすると、この家族が一般の家族としてあるためには、A君はどうあらねばならないのでしょうか。一つの家族が当然引き受けなければならないマイナス(?)のノルマを、A君は一人で果たしているのかもしれません。



メニュー

過去の記事

団体概要
団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
大橋秀太
理事:
大畑健太
理事:
杉下真理
住所
東京都東久留米市浅間町1-12-9
TEL
042-424-7855
メール
ki6jt7@bma.biglobe.ne.jp
活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
・共同生活寮の運営
・教育相談の実施
・各種資格取得支援