問題行動~中学三年生の男子生徒のケース~
「不登校なんて上等なものではありません。怠けて学校を頻繁に休むんです。何をするでもなく一日ゲームをしていて、夕方になると友達を求めてゲームセンターやコンビ二をうろうろしています。
母親に連絡を取ろうとしても、夜の商売をしていて朝は寝ていて出てこないし、夕方には出かけていてつかまりません。あれではどうにもなりません。母親のいない間、家はたまり場になる可能性もあって心配しているんです」
別の用件で中学校を訪れた時、廊下で中学三年生の担任が「実は・・・」と話し始めたのがW君のことでした。そして、「いずれ息子が事件を起こして、母親は裁判所から呼び出されることになるでしょう。
そうでもなければ、あの親は出向いていかないでしょう」この予想は、そう日をおかずに的中することになりました。W君が繁華街で知り合った少年たちと恐喝事件を起こしたのです。家庭裁判所経由でわたしたちのところで指導を引き受けることになりました。
W君は母親と兄の三人兄弟です。会うのは難しいと言われていた母親でしたが、親子三人で来て欲しいと連絡するとそろってやってきました。
髪を半分紫色に染めて派手なアロハシャツを着たW君は、そわそわしてなかなか落ち着きません。しかしここに回されてきたことで、鑑別所から少年院の可能性がなくなったことは喜んでいました。
母親は若作りの派手な感じの人ですが、自分の行き方には自信を持っているようでした。こちらの話すことはきちんと聞けますが、自分も言いたいことは負けずにしっかり言う人です。
ですから兄を見ておやっと思いました。学生ズボンに白いカッターシャツ、やわらかい髪が額にかかるのを時々かきあげる、甘いマスクの高校二年生でした。
面接が始まる前から、W君は勝手なことを言っていました。母親もそれに応えて和気あいあいの、ちょっと困った親子です。そして面接に入ると、自己防衛気味に教師批判を重ねながら息子の言い分を母親が代弁します。
長男はまったく異なっていました。読書が好きで一人でいることが多く、あまり家族とは話さないそうです。ところが高校の様子を聞いて驚きました。彼は暮らすのリーダー的存在で、文化際の舞台では女子生徒の圧倒的支持で主役を演じるというのです。
しかしこの話を家族は知りませんでした。また、母親に親しい男性がいるらしいことが、この家庭に対する世間の批判の原因の一つになっていました。
しかし、兄弟はそのことは特に気にしていませんでした。話題にするのも平気ですし、おっちゃんと呼んで準家族のような位置づけにありました。
母親と相談のうえ、三ヶ月に十回と決めて面接を繰り返しました。この間、W君の問題は小康状態を保っていました。しかしやはり不可解に感じたのは、母親の長男に対するクールさでした。こんなことがありました。
W君は小遣いも決まっておらず、欲しいだけ母親に要求して持っていきます。しかし兄は、決まった小遣い以上は夏冬のアルバイトでまかなっていました。
きつい仕事にもけっしてギブアップすることなく出かけていくのです。ところが母親は、そのアルバイトに行く交通費を、立て替え金だと言って、給料日に清算させているのです。
とても不思議な気がしました。でもこの兄弟は仲が悪いわけではないのです。兄は弟のことをしょうがない奴だとは思っているのですが、それだけのことです。
W君はそんな兄に時々無理を言ったりして好き勝手にやっていました。W君に起きていることがよくあることだとは思いません。しかしわたしたちはもう少し、人間の作り出す現実世界の多様さと不思議さを広く受け止める必要があると思います。
外国や他の門族との間でなら、文化の違いと考えるべきだと知っていることはたくさんあります。しかしわたしたちは、同じ文化の中で同じ教育を受けたことによって、異なった暮らし向きに批判的なところがあるようです。
価値観や共有文化感覚は、職業や日々の生活実態によって形成されていきます。教育者一家とか政治家一家とかいろいろ言いますが、たぶんそういった傾向が家族には生じるものなのでしょう。
日本的中流市民もその一つかもしれません。そこには共有されるべき基準が成立しています。しかしその中にも時には、異なった基準を持って生きるメンバーが生まれうるのです。
一つのまとまりはいつも、わずかの異端を含むことで全体の調和を保持してきたのかもしれません。新聞紙上をにぎわす事件が起きるたびに、あの子があんなことをするなんて信じられない、思いもよらないことでしたと語る関係者をよく目にします。
しかし、だからそんな大事件になってしまったとも言えるのではないでしょうか。問題がポロポロと見えていたり、見る側に想像力が備わっていたら、決定的なことは起こらなかったかもしれません。
時代の空気はどんどん透明感や清潔感を追い求めています。分かりやすいことや、何も起こらないことを誰もが願っているかのごとく語られます。
しかし人間の暮らしにそんなことはありえません。少数のもの、悪しきものの存在が、全体にとって重要な安全弁を果たしているのかもしれません。
家族はそれと知らず、大きな厄災を免れる知恵を授かっているのかもしれないのです。
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