19歳男性の不登校・家庭内暴力のケース
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19歳男性の不登校・家庭内暴力のケース

2020年04月27日(月)7:09 AM

「それを言っちゃあ、おしまいよ」映画「男はつらいよ」の寅さんの名セリフです。誰だって、自分が自覚している弱点をプロセス抜きで人からズバッとつかれれば、ついそう口走ってしまいたくなるものです。




「たしかにあなたの言うとおりかもしれないが、それを言うからには人間関係の断絶を覚悟しているんだろうな」いかに正論だからといって、何を言ってもいいというわけではありません。その「正しさ」が、ひとりよがりだったとしたら、なおさら始末が悪いです。




相手を傷つけるからには、それなりの責任を負わなければなりません。相手の痛みをおもんぱかりつつ、自分の意思を伝えて分かり合える人間関係が大切だと思います。




少し意志薄弱なところがあるBさん(19歳)は、キリスト教信者の両親の強い希望で、独特の教育法を実践するミッション系の幼稚園に入りました。




「子どもは正しい方向に自分で伸びようとする生命力を自分の中に持っている。その生きようとする力を引っ張るのではなく、子ども自身が十分に発揮できるような環境を整えてあげるのが大人の役割である」こんな教育理念に、両親はBさんの将来に期待をよせました。そして、まず、Bさんが思ったことを安心して言えるような環境づくりを目指しました。




母親は「そう、わかるわ」と相槌を打って対話するように心がけました。Bさんに合わせることが母親の基本的姿勢でした。小学校に入る頃になると、Bさんは天真爛漫で、大人が顔負けするようなジョークさえ口にする子どもになっていました。




その屈託のないストレートな表現がとてもかわいかったといいます。両親も互いの意思を尊重し、「決めたこと」で生活を築こうとしました。




「役割分担」が子育ての基本姿勢で、父親は口癖のように言いました。「僕は外で働いて収入を得る。君は専業主婦として収入のことは心配せず、子育てに専念してくれればいい」




この件について、いま母親は、「やさしい表現で、正しさを押し付けられていた」と述べています。小学校に入ってからは、母親は、「お母さんの生きている姿を子どもに注文してください。




許せないことは許さないこと」という園で聞かされたしつけ法を頼りに、子どもと関わるようになりました。だから、Bさんにとって母親は、「話は聞いてくれるが、怒ると怖い人」でした。




人を傷つける言葉はつかってはいけない、お行儀に気をつけなさい、努力を惜しんではいけない、人に迷惑をかけてはいけない・・・・・。多くの禁止令が飛び交いました。




小学校3年生ごろになると、「ルールがやたらと増えて、どうしても違反してしまう。母親に叱られているうちに、しだいに言い訳がうまくなってしまった」といいます。




ふだんは「思いやりのない人は心が貧しい」と言いながら、「成果があがらないのは、努力が足りないからで、あきらめた人間は自分に負けたんだ」と一方的に決めつけたような言い方をされると、思いやりとかやさしさの意味もわからなくなっていきました。




こうして、Bさんにとって、家庭はスキのない緊張感にあふれた空間になってしまいました。学校から帰宅すると、カバンを投げ出して、友達の家に逃げ込んでいました。小学校5年のとき、Bさんは両親に、「塾に行きたい」と言いました。




口達者で相手の弱点を平気でつくBさんに対して、クラスメートたちは一定の距離をとるようになっていました。Bさんは自分が嫌われてはいないという確証がほしくて、友達に近づこうと努力しましたが、気がついたら、かえって「揚げ足取りの名人」になっていました。




そこで、友達づくりの新たな場として塾を考えたのですが、友達づくりに関する自分の苦悩を両親に対して表現するだけの能力はありませんでした。




父親が「お父さんは塾にも行かないでそれなりの大学に入った」と言えば、母親は「勉強だけでなく、人間的にまっすぐな子になってほしい」と言って、塾を嫌悪しました。




Bさんは、このとき両親の「自分が正しければみな正しいという押しつけがましい良心」を痛感したといいます。しかし、担任の一言で、両親の態度は一変しました。「B君には、公立より私立の全寮制の中学がいいと思います」




それは、個性を伸ばすというよりも、社会性への不安を回避するためのアドバイスでした。塾の先生の「ご希望の私立中学に行くには遅すぎる」との苦言に、父親はBさんに対して、「休むことなく塾で勉強します」という誓約書を書かせました。




結局、希望の中学には合格できず、公立の中学に進むことになりました。中学の成績には「目を見張るものがあった」が、父親の「よくやっているな」にも、母親の「やっぱり公立でよかったわ」にも、Bさんは無表情でした。




そして保護者会の日、母親は担任からこんな質問を受けました。「緊張する場や体育の時間になると急におしゃべりをしだしたり、友達をからかったりするのですが、家で何か変わったことはありませんか」




母親はそのとまどいを抱えきれず、父親にも伝え、二人でBさんを詰問しました。父親は、いま思い返すと、Bさんの「内弁慶」が始まったのはこのころだったといいます。




翌年には、不登校から、個室というより「孤室」で生活をするようになり、頻繁に家庭内暴力を起こすようになりました。「家族のしきたりをみんな壊してしまって。いっそわが子でなかったら・・・・」わたしが最初に相談を受けたとき、両親ともそんなことを口走るようになっていました。




相談室に集う同世代の仲間といるときのBさんは、極端な言動をとっては、スタッフを困惑させました。押し黙るようにしているBさんに声をかけると、「それも仕事ですか」と疲れているスタッフの本心をズバリとついてきます。




「グズでのろまな人間に、グズでのろまと言って、なぜ注意されなければならないのですか」そう言って食ってかかります。オナラを漏らし、そのことを隠そうとしている少女に対し、平然と、「いいんだよ、誰でもすることなんだから」と言い放ちます。




「嘘も方便ってことがあるだろう。弱さや失敗をそっと見逃してあげてこそ、またがんばれるんじゃないか。それが思いやりというものなんだ。事実だから何を言ってもいいってもんじゃない。それが意外と人を傷つけたり、息苦しくさせるんだ。君にだってそういう経験があっただろう」




わたしが思い余って口をはさみ、ひとにらみすると、プイと背を向けて身をかがめてしまいました。そのときBさんが震える声で言った言葉が忘れられません。「僕、合わせ方がわからないんです。だから、歯止めがきかないんです」正直な気持ちをあえて語らない思いやりも含めた人間関係を、わたしたちは子どもに継承しているのでしょうか。



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