現実逃避する息子と存在感のない父親
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現実逃避する息子と存在感のない父親

2020年04月27日(月)6:55 AM

「父親が何も言わなかったからと、今になって息子や妻から責められますが、自分の苦労話をする必要もないほど、頭もよく、聞き分けのいい子で、すでに父親を超えているような子どもだったんです」




小柄で日焼けした初老の父親は、「浪人生活を続け、今だに現実逃避をしてしまう」というAさん(23歳)を連れ、母親と3人で面接にやってきました。玄関先で口ごもるAさんを心配し、わたしに頭を下げて恐縮する母親がいます。




そのかたわらで目をしばたたかせ、腕を組む父親は、Aさんが気持ちを変えて帰ってしまわないようにと、壁をつくっている雰囲気でした。




関東自立就労支援センターの相談室内に誘うと、母親が父親を奥の上座に行くよう手を差し出しました。中央にAさんが座り、入り口付近に母親が腰を下ろしました。漂う緊張感をほぐそうと、わたしは両親を別室に案内しました。




「いまの僕には母性はいらないんです。父性が必要なんです。でも、母性しか知らないで育った僕は、怒鳴って励ますだけの父親にはどうしても抵抗してしまうんです」




建築業を営む父親は子煩悩で、休日にAさんを川で泳がせたり釣りをしたりするのが楽しみでした。Aさんは幼い頃から父親の使う工具を遊び道具にしながら育ってきたといいます。




母親はそんな父子を見るたびに、「財産はないけど、子が宝だね」と父親に声をかけました。父親は請負仕事で長期に家をあけるときは、必ずAさんに「お母さんと弟を頼むぞ」と言い残して出ました。




父親の出張中、母親が留守して帰宅してみると、いつも玄関につっかえ棒を持ったAさんが立っていたといいます。小・中学校と虫取り名人だった彼は、学習成績も運動能力も、持ち前の集中力で努力することなく高い評価を得ました。




父親は内心、「鳶が鷹を産んだ」と思っていました。父親がほろ酔い加減でAさんに説教しようとすると、母親が目を細めて首を振りました。父親には、「あなたが話すまでもない」と言いたげに見えました。しかし、その後、事業の発展も重なって、父子で話す機会は少なくなっていきました。




Aさんは母親にとっては、「遊・学・体の三拍子そろった理想の子」で、子ども中心の生活になりました。そんなときには、「無学な父親」の出番はありませんでした。高校は進学校でした。




「心配したとおり、僕みたいに虫ばかり取っている子はいませんでした」とAさんはいいます。そして、「自分中心に守られて育ったため、融通がきかず、かたよったまじめさと几帳面さばかりが表面に出てしまった」ようでした。




高校三年になると、Aさんが合格できそうな大学は、「予備校以下」の私大しかなくなっていました。あえて開き直ろうとしても、その勇気が出ず、国公立を目指して浪人生活に入りました。




プライドを維持することばかりに気がせくAさんを見て、父親は大きな声で、「勉強ばかりが人生じゃないぞ」と言い切りました。腕と世渡りに長け、「中卒」を誇りにすらしている父親に、Aさんは嫉妬の念を禁じえなかったと言います。




「仕事に専念し、知らない子育てには無駄口をたたかず」業績をあげてきた父親は、努力以外のことを語れなくなっていました。Aさんは言いました。「もう一度、小学生のときに父といっしょにお風呂に入って会話した父子関係に戻りたい」




面接が終わり、最後に玄関を出る父親に、わたしはそっと耳打ちしました。「親子3人で、こんなに長い時間いっしょにいるのは何年ぶりだろうって、息子さんが言ってましたよ」




「わたしが失敗談を言えたらいいんですがね」父親はそんなひとことを残してドアを静かに閉めました。



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団体概要
団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
大橋秀太
理事:
大畑健太
理事:
杉下真理
住所
東京都東久留米市浅間町1-12-9
TEL
042-424-7855
メール
ki6jt7@bma.biglobe.ne.jp
活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
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・教育相談の実施
・各種資格取得支援