ひきこもっている本人の精神病理
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ひきこもっている本人の精神病理

2020年04月06日(月)12:49 午後





ここで現在関東自立就労支援センターで支援を受けているある男性の体験を引用し、ひきこもり状態における本人の精神病理について説明してみたいと思います。





Aさんは、小学校5,6年の時の担任教師との考え方の違いなどをきっかけに 6年の二学期から不登校になりました。自分で自分をどう説得しても学校に行けなくなってしまい、そんな自分の状態に自分でも驚いたといいます。





中学校に入学したものの2,3日で登校できなくなってしまいました。自分自身でも自分のことが分からなくなり、またそのつらさを両親に分かってもらえずにさらに苦しむことになりました。





中2の途中から青少年教育センターや相談指導学級に通えるようになり中学の卒業を迎えました。サポート校である某高等部に通いましたが、外出するだけでものすごく緊張し疲れ果ててしまいました。





高校卒業後、大学受験を目指して予備校に通うようになりましたか、パニック発作の症状が出現したことにより浪人中に再びひきこもるようになってしまいました。





その後、ひきこもり状態から抜け出し 22歳で大学に入学し、現在はひきこもり関連の施設でスタッフとして活動しています。このような経過の中でAさんが体験した心理状態を列記すると以下のようになります。





○ 1日テレビを見て過ごししだいに昼夜逆転し、深夜まで起きていて昼近くまで眠る。また睡眠時間が長くなり、毎日10時間くらい眠る。





○ 学校に行かなければならないという気持ちと行きたくないという気持ちがせめぎ合うため、朝はわざとはっきり起きないようにして時間をやりすごし、「9時を過ぎると今から行っても遅刻だ、今日は欠席しよう」と学校に行かないことを自分の中で正当化する。





○ 学校のことが気になって仕方がない。1日中気になり、悩んで追い詰められ、それから逃れるためにゲームをしたりテレビを見たりする。





○ 学校を思い出させるものに緊張する。例えば教科書を開くことができなかったり机に座れなかったりする。学校の話しが出ると冷静でいられず頭が真っ白になる。





○ 罪悪感に悩まされ、小さなことを気にするようになる。宿題をしていないから学校に行きたくないなどと思う。完全でないとパニックになる。





○ 焦る、いらいらする、いつも緊張する、気が休まる時がない。焦るばかりで何もできず、そのことを思うとますます焦る。





○ 不安である。もう何もかも終わりで 2度と取り返しがつかないと考える。もう死んだ方がいいと思う、一方、絶対に死にたくないと思う。自分はいつか死ぬと思うと怖くてたまらない。





○ 常に責任を回避できるように細心の注意を払う。人から誘われての行動ならうまくいかなくても人のせいにできるので、自主的には行動せず人から誘われるのを待つようにする。そして常に人の粗を探しては、鬼の首でも取ったかのように大声で非難していたという。





○ 自分の手が気になり始め、手を握ったり開いたりを繰り返したり、廊下の曲り角に想像上の線を引いてその線を踏まないように、急に足を高くあげたり大股で歩いたりするといった強迫症状も一時期出現した。





○ 片意地を張る。人の助言を無視する。





○ 他人が自分の邪魔をしていると思い込む。ただテレビを見ていただけなのに母親から用事を頼まれるととても面倒に思い、そのせいで自分は邪魔をされ、やっていることを取り返すのにえらく時間がかかると思い腹を立てる。





○ 明日のことや将来のことは考えない。だが、今にも自分が死んでしまうかもと考えると、早く真理を知らなければと思う。そして普遍的で美しい真理というものが存在するはずだと思い込んでいた。





○ 学校に行かず、何もせずただ家にいることを恥ずかしく思い、常に劣等感を抱く。反面、優越感も持っており自分が学校にも行かず家にいることは何か偉大なことで、「人生の大事」を追及しているのだから恥じる必要はないと思う。





以上がひきこもっている間にAさん自身が体験した様々な感情や心の動きです。この記述を読めば、ひきこもるという行為が本人にとっていかに苦しいものであるか、だれにでも理解していただけることと思います。





周囲からすれば、好きな時に起きて好きな時に眠り、1日中テレビやゲームにふけり、身の回りのこともすべて人任せと一見気ままでのんきな生活であるかのようにも思われるひきこもり生活ですが、当人にとってはまったく正反対の苦しみに満ちた生活です。





心の中は混乱、不安、、緊張、劣等感、絶望などの感情がいっときもやむことのない嵐のように吹き荒れています。しばしば誤解されるような怠けているとか甘えているといった状態とは対極にあり、本人はこの苦しい状況から何とかして抜け出したいと思っているにもかかわらず、その方法を見つけられずに苦しんでいるのです。





また、これらの苦しみの大部分は、ひきこもってしまったということそのものから生じてきているということをよく認識しておかなければなりません。つまり、ひきこもりという状態自体がそこから抜け出す力を本人から奪い、ひきこもりを維持強化していく性質を持っているということです。





そのため、いったんひきこもりの状態に陥ってしまうと自力で脱出することは相当難しくなってしまいます。当の本人からすると、ふと気づいてみれば深い落とし穴に落ち込んでいる、あるいは底なし沼のようなところに首まではまってしまっているといった体験ではないでしょうか。





ささいなきっかけやちょっとした不運から、あっという間にとんでもない苦境に立たされている、いったいどうしてこんなことになってしまったのかと戸惑い焦り、ますます深みにはまっていきます。





そのうえ、自分で自分のことをコントロールできなくなってしまったことに情けなさを覚えるが故に、何とか独力で立ち直ろうとして他者からの助言や援助を受け入れられず、ますます状況を悪化させてしまいます。





このようにして、苦しくつらい状況が続き、どうにもならないのではないかという不安や焦りや絶望感にとらわれる状況が継続すると、二次的な現象として強迫症状や退行や被害関係念慮などの新たな症状が生じてきます。





Aさんにもみられた強迫症状は、自力では抜け出せない苦しさから少しでも目をそらそうとするために生じたと考えられますし、また、すべてを人の所為にできるように行動したり、実は自分は非常に重大なことに取り組んでいるのだから普通に生活している人より偉いのだといった不健康な自己愛傾向をもったり、あらゆることを人から邪魔されているといった被害的な観念をもったり、といったことなどもすべて強烈な絶望感や劣等感から自分の心を守るために生じてきた現象であったと推測されます。





ここまで述べてきたように、ひきこもりという状況は非常に強い引力を持ち、一度落ち込んだものを離さない性質を持っています。





ひきこもり始めるきっかけとしては、気弱さやストレス耐性の低さ、対人関係の傷つきからの逃避といった本人自身の弱さが関与している場合も多いですが、きっかけの小ささに対してその結果はあまりにも重大であり、個人の病理のみにひきこもりの原因を求めることはとてもできないのです。





ひきこもりが人の精神に及ぼす影響は、巨大な渦巻きに巻き込まれるような恐ろしさを持っているといえます。



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