高校生の不登校のケース~よい子を演じた末に~
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高校生の不登校のケース~よい子を演じた末に~

2020年03月25日(水)6:09 PM




ここでは高校生の不登校のケースを紹介します。A君は高校1年まで成績優秀でしたが、二学期になると心気症の症状が見られるようになりました。





心気症というのは、精神的な不安やストレスが身体の症状に現れることです。A君は、全体倦怠、頭痛に苦しめられ、集中力が散漫となり、みるみる学業成績が低落し、時々学校を休むようになりました。





そのために関東自立就労支援センターに相談にやってきました。彼はクリニックでロールシャッハテストを受けましたが、その結果はまことに厄介なものでした。彼は「人格の統合性」に乏しいことがわかりました。





つまり、人間社会を生きていくために必要な基本である情緒性、知的活動、能動性などをいかに自分の中でバランスを保ちながら統合させているかというレベルがあまりにも低いのです。A君は友人との交流とかスポーツといった体験的世界が極めて狭いため、自分を支える人格的内容が非常に乏しいのです。





世間から評価されること、つまりA君の場合、学業を評価されること以外に自己を支える手段を持っていないのです。精神的にも疲れ果てており、そのため学校を休むようになったのだから休息、休学 を必要とするのですがもしそうすれば人格的内容の乏しいA君は、自分をかろうじて支えている唯一の手段を失うことになり、人格崩壊、さらには死に向かう危険さえありました。





彼にまず必要だったのは、不登校をさせることのできる環境を作ってあげることでした。つまり彼が不登校によって学業を失っても、彼を認めて受け入れ、支えてくれる人または場所があるという環境づくりが先決でした。





A君の父親は中堅サラリーマンで、母親は教師でした。この家を支配していたのは、地元の名士である祖父であり長年教師を務めていた祖母でした。彼らの長孫であるA君は、祖父母の期待を一身に受けていました。両親は若いころから祖父母に抵抗することをあきらめていました。





父親は仕事に専念する一方、暇を見つけては海外に飛び友人とともに趣味である蝶の収集に没頭し、母親は仕事に心を傾けてA君のしつけや教育は祖母に任せていました。このような環境の中で育ったA君は、幼いころから厳しい祖母の目を気にし、祖母に気に入られるようにふるまって「よい子」を演じてきました。





自分の本当の気持ちを抑えられ、表現できないままに放置される日々が続きました。小学校、中学校を通じて成績は優秀で、祖父母、両親、知人そして教師から褒められつづけました。





A君は次第に「よい子」という人形になっていき、自分を支えるのは学業成績以外に何もない状態になっていきました。ですが、生活を楽しむすべも知らず、家にいてさえくつろげない「よい子」を演じる生活は、彼を少しずつ精神的衰弱へ追い込んでいきました。





やがて集中困難、判断力低下を招いて、彼の成績は低落していきました。A君にとって自分を支える唯一の価値であった学業成績の壁が崩れたため、なすすべもなく危機に陥り学校を休む日々が次第に増えていきました。





赤ちゃん返りと祖母への暴力





私のもとを訪れて 10か月後に、彼はやっと自分の意志で不登校に踏み切ることができました。彼にとって必要だった休息が取れるようになった一方、顕著な退行症状が始まりました。





いわゆる赤ちゃん返りです。明けても暮れても母親のあと追いをするようになりました。確かに退行症状には違いありませんが、A君は高校生の年齢になって初めて母恋いという本音をやっと出せるようになったのです。





母親を追い求めるA君のために、母親は介護休暇を取りました。赤ちゃん返りの一方で、祖母への暴力が始まりました。祖母に対して、「悪魔!」「強欲ばばあ!」「死ね!」などと、大声で口汚くののしるようになり、小突く、たたく、蹴る、ものを投げるという暴力にエスカレートしていきました。





祖母への暴力、母親への甘えの日々を母親は必死になって支えようとしましたが、今まで避けて通ってきたわが子の爆発は母親にとっても耐え難い負担であり、母親自身がうつ症状を呈するようになり、半年間の休養をとる羽目になってしまいました。





しかし、このことがA君には幸いすることになりました。1日中、母親のそばにいることができるようになったわけで、母親と散歩、買い物、ゲームなどをともに行動し、寸時も母親のそばをはなれませんでした。





このように母親と一緒に時を過ごしているうちに、A君の心は次第に安らぎを体験するようになりました。祖母への攻撃も激減しました。A君の父母は、この時点で祖父母との同居を解消する決断をして、新しい家を建てました。こうして物理的、空間的な家族の自立が初めて実現し、これが精神的な自立につながっていきました。





母親にべったりだったA君は、少しずつ母親から離れることができるようになり、父親とゴルフの練習をしたり、海外旅行をしたり、関心が外へ向かうようになりました。





半年間の休養をとった母親が職場に復帰する時が来ました。住宅ローンが始まったばかりで、母親はそのために働かなければならないとA君に説明すると、A君は納得してけなげにも母親から離れることに耐えなければならないと決意しました。母親は後ろ髪をひかれる思いで職場に戻りました。まだ早いと私は不安に思いました。





母親の決断と父親の理解





信頼と感謝と安心に結ばれる母子の世界というのは、それほど簡単に形成されるものではありま せん。A君がやっとつかみかけた母子の世界も、それほど強固なものではないと私は心配していました。





母親の職場復帰を理解して、母親から離れることに耐えようと決意したA君は、まさに、再び「よい子」に戻ろうとしているわけで、その先に待っているものに私は不安を感じていたのです。





はたして、半年たったころ、A君は再び荒れ始めました。「死にたい、死にたい」と訴えたかと思うと、暴力をふるってものを壊し、大声で「お母さん!お母さん!」と叫びます。「よい子」を演じることの限界が来たのです。A君の母親自身は、心優しい母と寛大な父に恵まれ、両親の愛情を一身に受けて育ちました。





ですから、親の愛情を求めるA君の悲痛な叫びは手に取るように理解できました。痛いほど感じました。母親は、何とかしなければならない時期が来た、それが今だと思いました。





教師という仕事はやりがいのある仕事ですが、わが子とどちらが大切か?いうまでもない、わが子が大切だ、そのわが子が母親を求めて悲鳴を上げています。





今、息子のそばにいてあげなければ息子の将来はどうなるのだろう、しかし、新しく家を建てた住宅ローンがある、そのような経済的事情を考えたあげく、それでも私は息子のそばにいてあげたい!その思いが何よりも強かったのです。





もう世間体なんてどうでもいい、ローンよりも息子の命が大事だ、母親は仕事をやめる決心をして夫に相談しました。夫が同意してくれなかったら離婚してでもわが子を守る覚悟を決めていました。





夫はしばらく沈黙しました。住宅ローンの支払いが彼の脳裏にあったのです。しかし、そのただならぬ気配と固い決意に子供の深刻な事態を思い知らされました。





そして夫は、母を必要とするわが子のために、父親として決断したのです。「よし、いいだろう。金の事はなんとかなるさ。自分の子供以上に大事なものはないからね」妻はこの時はじめて、この人と一緒になって良かったと痛感したとあとで私に言いました。わが子の不登校を父親が直視して理解することが、解決への重要なカギになります。





仕事を辞めた母親のそばにいつもA君がいて、「お母さん!」「ここよ」と声を掛け合い、散歩、ゲーム、ハイキング、旅行と母と共有できる体験を積み重ねる日々が続き、2年が経過しました。





A君の心の中心に母親への信頼と感謝がしっかりとはぐくまれていきました。やがてA君は母親を離れることができるようになり、さまざまな対象に関心が向いて挑戦する気力も生じてきました。





人前で失敗したり恥をかくことも気にしないようになりました。今では人前でギターの弾き語りもやってのける社会性も身につけました。A君を不登校に陥らせたのは祖母の存在ですが、原因は祖母の息子である父が、祖母、つまり彼の母への批判をあきらめたことです。





そして父の妻である彼の母も、姑の支配をのがれて仕事をすることを望んだという点にあります。A君の父も母も、自分の父であり母であることを放棄したのです。親が親としての生き方、価値観、愛情をしっかりとわが子に見せることの大切さがここにあります。ことに母親の存在はだれにも代行できません。





母親との間に信頼と感触を安心を体感して初めて、子供は世界をつかみ取り、自立へと向かうことができるのです。他人の力によって人を自立させることはできません。





日常生活の中に、安心し、心から楽しめるものがあり、自分の価値を実感して満足を得られれば人はおのずから自立するのです。A君は家族から得た信頼と感謝をもとにして、人を信じ、友を愛し、勇気をもって何事にも挑戦し、充実した人生に向かって生きていくでしょう。





A君の両親は自らを反省してわが子を直視し、救済に成功しました。わが子を救済するには、まず母親の反省と決断が、そして父親の理解と勇気が必要なことをこの 事例は教えてくれます。



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