両面感情と家庭内暴力
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両面感情と家庭内暴力

2020年02月15日(土)1:00 AM






愛情と憎しみのように相反する感情を同じ人(対象)に対して抱くことは、ままあります。関係が親と子、生徒と先生、夫婦、恋人といったように、身近で親密であればあるほど、そんな葛藤は起こりやすいものです。





親が子に、「叱るのもわが子を思う親の心、励ますつもりだった」と言えば、子は親にこう返します。「その気持ちがわかるからこそ、おとなしく耐えて言われ続けていたんだよ。そんな子どもの心に、実の親でありながら気がつかなかったのか。励ますことで親の”無力さ”をすり替えていただけじゃないか」





高校中退後、行くあて定まらぬなかで成人式を迎えていた成年が家庭内暴力を始めるきっかけになった、緊迫するやり取りの一コマです。子を見捨てぬ覚悟を強く思うばかりに抱く、親のふがいない思いと慈愛です。親に晴れ姿を一日も早く見せたいと願うがゆえに抱く、子のもどかしい思いと恨み、なんとも切ない両面感情です。





こんな葛藤をアンビバレンスといいます。この相反する感情があまりに強く、大きく振幅すると心はかき乱され、病さえ引き込みます。ですが一方で、葛藤を引きずりながらつむぎあう人間関係をあきらめなければ、必ず心は鎮まり人の奥の深さをわかちあう手がかりにもなります。





アンビバレンスはけっして異常なことではなく、人が人らしくなるために、やわらかさとたくましさを学び獲得する「糧」なのです。「わたしは不登校する長男(中三)に安心できる家を与えてやることがどうしてもできませんでした。『そのまんまでいいんだよ』と肯定的なことを言ってあげることもなく、もう離れて一年になりました。





情けないです。どうしてわたしにはできなかったんでしょうか。長男はあの日以来、寄宿舎から一度もこの街に帰ることもなく、訪ねるわたしたちさえ拒否しています。





わがままかもしれませんが、気がついた今、どうしてもあの子に『そのまんまのお前が大好きだよ』と言ってあげたいのです。どうしたらいいのでしょうか」母親(四十五歳)は、長男のA君が両親と次男(小五)と四人で並んで笑顔で写る写真をわたしに差し出すと、ハンカチで目頭を押さえました。





野球のユニホームを着てバットを握るA君の勇姿が、その後を聞いた後だけに痛々しく感じました。A君は「体育系」の子で、小学校時代は少年野球のエースでした。全国大会でもマークされるほどで、親にとっては、おっとりタイプの次男と比べても自慢の子でした。






小六の運動会の組体操では、野球のユニホームを着たA君がピラミッドの頂点に立ったとき、両親は思わず肩をたたきあって泣いたといいます。そのときA君を見て舞い上がっていた両親は、その脇で次男がほころぶ体操ズボンを縫ってとせがんでいることさえ気づきませんでした。





小学校を卒業するとA君は、運動で名をあげつつあった中高一貫教育の私立中学から誘いを受けて進学しました。片道五十分かけて自転車通学をしました。





そしてエリートサラリーマンの夫の帰宅は深夜になることが多かったです。妻である母親は仮眠し、迎えの電話を毎日欠かさず待ちました。





さらには早朝練習に登校するA君を必ず毎日見送りました。このころ母親は、「妻である負担を長男への期待でごまかしていた」といいます。





A君は二年になると愚痴が多くなり、野球部を辞めたいと言い出しました。二人三脚を信じてきた母親にとって、その愚痴を「ただ聞いて、受け流してあげる」ことはできませんでした。





「野球は好きでやっているんでしょ。監督と話してみたら」「監督はわかってくれない」「せっかく一年がんばってきたんじゃない」「他のスポーツもやってみたい」「なに言ってるの、それは逃げでしょ」「逃げじゃない。お母さんは部活での俺の様子を何も知らないじゃないか」「じゃあ、もっと詳しく話してよ」「そんなに、自分の子どものみじめな話を聞きたいのか、お母さんは」





「それは聞きたくないわよ。でもどうしたのよ。あんなに好きな野球だったでしょ。お母さんだって疲れているけど、毎日必ず早く起きて見送っているでしょ。わかるでしょ。おまえなら。お母さんの子どもなんだから」「頼んでないよ、俺は。好きでやっているんだろう、お母さんは」しばらくたって、部活のある母親からA君の母親に気になる噂が聞こえてきました。





「A君の付き合っている友だちには悪い子が多い。A君が退部すると強い野球チームができるとある父兄が言っていた」いくら噂とはいえ、「そこまで言われて、わが子に部活を続けろとは言えなかった」と母親は当時を思い出して悔やみます。





「あのときが長男の”安心できる家”になるときだったんです」A君は野球部をやめて友だちを選び直し、そして他の部活に入部を希望しました。





ところがその願いはかないませんでした。帰宅部になって愚痴るA君を見て母親は「腹も立ち『自宅近くのトレーニングジムに行きなさい』と言って勝手に手続きをとってしまった」のです。





いまふり返れば、それは「はがゆい長男を見守れなかった」からで「自分へのふがいなさ」でもあったといいます。三年への進級を前に、A君は地元の公立中学へ戻りたいと両親に打ち明けました。





その表情を見た母親は、「長男がダメになっていくのがわかった」ようです。そしてあの日を迎えました。かねがね心を砕いていた母親の実父が両親、A君、次男を前にして怒りの感情をあらわにしました。





「子どもを甘やかしすぎだ。おまえたち親がしっかりしていないからだ」実父が、娘である母親を眼光鋭くひと睨みしました。そのときでした。突然、母親は包丁を台所から持ち出すと自らの胸に向けてA君を見ました。「もっと強くなれ」A君は、母親をそう怒鳴りつけると家族に背を向けました。





ところがその背に、父親の嘆きが荒げた口調となって投げかけられました。「お母さんに強くなれと言うなら、おまえも強くなって現実から逃げたりするな」





A君はそのまま振り向くわけでもなく二階の自室に入るとバットを振り上げました。そして三年生を、遠く離れた街にある青少年施設の寄宿舎で迎えました。





「わが子に捨てられた親ほどみじめなものはないですね」わたしは人の業の深さを、親である自分の心を通してみる思いでした。「お母さん、拒絶されていることを悲しまないでください。今は、触れないでそっとしておいてほしいときなんですよ。嫌っているわけではないんですよ」





何か移り変わる感情にさえ結論づけを急ぐ母親に、葛藤を抱えることの大切さを伝えたい一言でした。そして、あの日その場に無力な身で立ち尽くしていたであろう十歳ばかりの次男の様子も、思い浮かべていました。



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