ひきこもりの居場所での学び~働くことの基礎的体験~
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ひきこもりの居場所での学び~働くことの基礎的体験~

2020年02月08日(土)4:32 PM





ゆがんだ仕事観によって、ひきこもり等の若者たちが仕事の世界に入っていくのを妨げられないように、仕事観の再構築が必要になってきます。





ブラック企業やリストラだの、ボロボロになった企業戦士たちの姿だの、メディアを通して伝わってくる「普通の働き方」はいかにも非人間的で悲惨なものとして彼らには映っています。





こうした部分的で一面的な情報を通して作られた仕事観のゆがみを修復していく学習が必要になってきますが、その場合に実際に身をもって働いてみる体験が不可欠です。





というのは、現代の若者たちには働く実感の欠落や人と共に働くことへの恐れがありますが、そのことが彼らの仕事観のゆがみの根底にあるからです。





ですから、若者たちから就労意欲をそぎ取っている「普通」の仕事観を修復していくためには、心身を躍動させるような労働体験が働く基礎的経験として、彼らの自立に向かう学びのなかに組み込まれていく必要があります。





泥にまみれながら農地を耕し作物を育てる農業体験を若者は必ずしも嫌いではありません。限定的経験だからと言ってしまったらそれまでですが、むしろ、望んでいるようにも思えます。





とりわけファームステイ体験を通して、若者の深い学びが生まれる可能性は高いです。グループでの農作業体験よりも、単独で農家に宿泊しながらの比較的長期にわたる農作業への従事は労働の基礎的体験を若者たちに提供します。





哲学者の清眞人氏は『経験の危機を生きるー応答の絆の再生へ』(青木書店、1999年)で「生の消費主義化」が覆う現代社会について論じていますが、消費生活中心の都市生活のなかでは感じとることのできなかった「生の手触り」が農的生活のなかで若者たちに覚醒されます。





ミカン園で働いた後にしだいにひきこもり生活から脱していった若者は「体を動かした分だけ気持ちも動き出した」と語りましたが、まさに心でも体でもなく、両者の統合体としての身体こそが欲求の主体となります。





身体全体が温まり活性化して動きやすくなると、もっと動いてみたいという欲望もよりふくらんでいくのです。外の世界へと身体が開かれていかないと、気持ちも外に向かって開かれていかないということです。





また、沖縄の季節労働者として働いた若者は、自分も編集に加わっている季刊雑誌の若者の働き方や生き方をテーマにした座談会に参加して、「生きていくことだけでいっぱいいっぱいなんだよ。でも、それでオッケーなんだよね」とその体験をふり返っています。





その若者は「以前は『俺はこの部分で人と違う』って差別化して、優越感を持とうとしていたんだけど、そんな考えが崩壊したように感じた。





音楽とか、俺にとってすごい優越感だったけど、今はそれが嫌になって最近何も買ってません。服なんかもそうです」と、農業体験を通して消費主義に覆われた生活の空虚感を忘れ、一時的であれその自縛から解き放たれた感覚をほっとした安堵感に似たものとして表現しています。





十六歳の秋を長期のファームステイを体験した若者は、泥にまみれながら命を作り出す仕事に黙々と従事してみて、その地味な労働のなかに今まで感じたことのない手応えを覚えました。





田んぼのミジンコやカエルと対話したり、手を休めて空をぼんやり眺めてみたり、今まで自分にはなかった世界が広がったように感じました。





誘われてお茶をごちそうになった隣の畑の人と親しく会話する経験も生まれ、見ず知らずの人との出会いがうれしかったようです。





今日一日の仕事を簡単には終わらせたくない思いに駆られて、ゆっくりと土の感触を愉しみながら手を動かしたりもしました。





彼は小学校から学校に行かずに生きてきたのですが、これからも学校に行かないと選択したとしても、農業に従事することになるかどうかは別として、命を生み出す仕事とか、何かをつくり出す仕事に関わっていくことができれば、けっこう生きていけるような気がしてきたようです。





あれだけ自分をとらえてきた進路をめぐる不安感情が薄らいでいくように感じられ、学歴についても必要な事態がくれば、そのとき考えればいいと思えるようになりました。





ものをつくる体験は、若者に人間が生存するために絶対的に必要な労働の意味を教え、新しいものを作り出す文化的存在としての人間の価値を感じとらせてくれます。





今日まで豊穣な実りをもたらしてきた田畑は今日につながる農民たちの血と汗の結晶であり、今自分が農業に従事することは、自分につながる先人たちの労働成果を取り入れ、吟味し、学習することで自分のなかに潜在していた可能性や感受性が覚醒されていく体験です。





「生の消費主義化」のなかでものを作り出す体験が衰弱化されてしまった今日、若者の農業体験はそれを代償するために必要となった重要な学びであり、自己実現としての労働の喜びの基底をかたち作る働く基礎的経験になります。



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