夢と現実の狭間で
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夢と現実の狭間で

2019年12月16日(月)12:39 PM

今年も若者たちと過ごすミニキャンプを終えました。大井川(静岡県)の清流と川辺に広がる茶畑、そしてどこまでも優しい稜線を見ては、緑豊かな山々に心は安らぎます。





夜は満点の星を見ながら、帰省した子どもたちが都会に戻り、再び静寂で落ち着いた暮らしを始めている村の人々の思いやりに抱かれました。わたしは一人、つり橋にたたずむと、二十八歳で浄土に還ったA君のことを思い出していました。





内気で口数の少ないA君は、友だちを求めていても自分の気持ちが出せずに悩んでいました。父親の転勤から小中学校とも友だちができず、体格のわりには運動が苦手なこともあり、いじめの餌食にもなっていました。





いつのころからか、話そうとすると緊張し戸惑い、そのことをからかわれているうちに人を避けるようになり、心に鍵をかけてしまいました。高校生になると、自分を表現できる音楽に心を惹かれ、夢を託すようになりました。ミュージシャンになりたい、誰にも語ることなく大切な自分の宝として夢を育てました。





ところが、就職先の楽器店で夢は淡く消えてしまいました。「小さな声でボソボソあいさつをしていたら、お客さんは逃げてしまう。もっと大きな声であいさつをしろ!」店長のひと言に心も体もロボットのようにぎこちなくなり、隅で苦笑いする女性店員を見て赤面してしまいました。





転職するたびに、仕事は音楽からかけ離れ、人への不安と緊張ばかりが増幅していきました。「いつまでも家でゴロゴロしていないで、早く働け!」両親の励ます言葉は、A君には傷つけられる言葉でしかありませんでした。





「好きでサボっているわけじゃないのに」A君は”植物人間”になることを選ぶと自室に閉じこもり、心を混乱させない意味もあって、両親や周りの人との関係を断絶して引きこもりました。





四年後、二十八歳のA君の前途を心配した年金生活の両親は、冬のある日「せめてこの子の笑顔をもう一度見たい」とわたしを訪ね、力を貸してほしいと懇願されました。






数ヵ月後、A君は音楽を愛する若者たちに心を開き、「忘れていた恋もできて」とギターを弾きながらわたしに歌ってくれました。日ごとに小さな空間に夢が舞い戻ると生気がよみがえってきました。一方で、それまで無欲だった両親は、彼の見えない自立心に苛立ちを覚えていました。





三年前の夏、A君はキャンプ場の宿舎の片隅で両足を抱え、一人でふさぎこんでいました。泳ぎ疲れたわたしはさりげなく彼の脇で一人の少年と寝転びました。





「助けて!お願いだから助けて!」いきなりA君がわたしに向かって絶叫しました。少年は見慣れない光景に背を向け、寝たふりをしてくれました。





両親を思い、夢と就職の葛藤が二十八歳という年齢を混乱させていくようでした。このキャンプから五ヵ月後、葛藤は焦りを生み、眠れぬ日々となり、A君は自ら永遠の眠りにつきました。





つり橋から宿舎の講堂を見ていると、「夢だけは捨てないでください」と、キャンプ最終日の夜、キーボードを弾きながら生涯に一度のミュージシャンになり、参加者たちと合唱したA君のわずかな微笑みが、今年も浮かんできました。



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理事長:
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活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
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・教育相談の実施
・各種資格取得支援