「いい子」と不登校
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「いい子」と不登校

2019年12月10日(火)10:52 PM






関東自立就労支援センターに相談に訪れたあるお母さんが話してくれたことを書きます。彼女の息子のA君は小学生の頃から成績もよく、いわゆる「いい子」だったようです。





A君には弟がいますが、お父さんからのごほうびは、いつもA君の机の上に無造作に置かれていました。そんな様子を見ながらお母さんはひそかに、A君が「天狗にならなければいいけど・・・・」と心配していました。





でもお父さんは、このごほうびからもわかるようにA君を頼もしい長男としてみていました。お父さんは旧家の跡取りとして生まれ、小さい頃から期待されて育った人です。両親や祖父母からもたいへん可愛がられ、家の手伝いなどはいっさいさせられませんでした。





勉強ばかりしている、いわゆる優等生だったのです。国立大学を卒業後、公務員試験に合格し、地元の市役所に「楽々」採用され、エリート公務員として常に周囲の注目を集めながら、40歳で課長にまでなっていました。





そんなお父さんの期待を背負ったA君でしたが、私立中学への進学を現実的に意識し始めた小学校5年生頃から、「こんな成績じゃだめだ」「よくない」と頻繁に言うようになりました。けっして本人が言うほど悪い成績ではないのもかかわらずです。





「そんなことはないよ。よくがんばっているじゃないの」と励ましていたお母さんですが、そのうちA君が気にしているのは成績ではないことに気づきました。彼は友達関係のことを気にしていたのです。これまで見下していた友達が、自分よりもいい点数を取るようになっていたのです。





それが彼は許せなかったのです。心配していた「天狗」が現実になっていたことを知り、お母さんはたいへん大きなショックを受けました。勉強よりも、A君の心を何とかしたい、そんな思いから、お母さんは近くの教会に「強制的」に彼を連れて出かけるようになりました。





一方、お父さんは、「勉強がもっとできるようになれば、自信もついて気持ちにも余裕が生まれるだろう」と学習ドリルを大量に買ってきては、A君につきっきりで勉強させるようになりました。しかしA君は、学習ドリルや通い続けていた塾の効果もなく、結局希望の私立中学には合格することができませんでした。





実はお母さんは、そのことを内心喜んでいたのです。競争の激しい私立の中学よりも地元の公立中学に入り、もっと人間関係を学んで、思いやりのある子になってほしいと願っていたからです。





けれど、公立中学に入学したA君は、入学後一週間で風邪をひき、休んでしまったことをきっかけに学校へは登校しなくなったのです。焦ったお母さんは何とかしなければと、声をかけたり話を聞いたり、わが子としっかり向き合おうとしました。





しかし、わが子の言動に接すれば接するほど、彼がひとりよがりな人間に思えてつらくなってしまうのです。お母さんはそんな毎日に疲れ、パートに出るようになりました。そして、気づいたときには不登校のまま、A君は中学3年生になっていたのです。





担任の先生が。進路を相談する三者面談のため家庭訪問にやって来たときのことでした。先生が席をちょっとはずしたすきに、A君は照れたようにお母さんにささやいたのです。「ずっと考えていたことがあるんだ。誰にも言わなくていいからな。俺、そのうち学校に行くから。こう言うと、お母さんうれしいだろ」息子の思わぬ発言に、お母さんはびっくりしました。しかし同時に、「この子はわざと乱暴な言い方をしている」と気づきました。





恥ずかしさや申しわけなさのため、照れ隠しでそういう言い方をしているのだと、彼の表情から察することができたのです。言葉の裏側に隠された彼のやさしい一面を感じ取り、お母さんは思わず答えていました。





「うれしいよ。強がっているおまえが大好きになったよ」この言葉が彼に安堵感を与え、押し込めていた謙虚さを呼び起こしたのでしょう。A君はこう言いました。「俺も勉強したけど、お母さんも勉強したね。もうしばらく迷惑をかけるから気を抜かないようにな」





お母さんはこのときのことを、「Aの親であることを覚悟した瞬間だ」と振り返ります。「私はその短いやりとりを通して、あの子が頭で会話を作っていることに気づきました。それは、楽しいといった気持ちや思いやりをもとに人間関係をつくっていくこととは正反対のことです。





それでも私は息子を見守ることにしたんです。息子の態度は、他人には愛想がよくても家では無愛想で意地っ張りな夫とそっくりでした。腐れ縁ですね」分かり合えた瞬間、人は互いの関係のありようを肯定的に見つめ、先への希望を抱くことができます。





もし、A君が「ずっと考えていたことがあるんだ・・・・」と言いだしたとき、お母さんが、「何を言ってるのよ、今までずっと学校に行かなかったくせに。『そのうち学校に行く』なんていまさら言われても信じないからね」と突っぱねていたら、お母さんは「息子を見守る」という心境には至らなかったでしょう。





その瞬間が分かれ目だったのです。わが子の言葉をうっとうしく思うか、それともその言葉の奥にある子どもの気持ち、本音、やさしさ、けなげさを受けとめることができるか、ここが大きな分岐点になります。



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