ひきこもりの事例~25歳・男性~
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ひきこもりの事例~25歳・男性~

2019年11月15日(金)9:01 PM

 


Aさんは現在、25歳で両親と祖父母、弟との6人暮らしです。父親は普段は気が小さく無口でしたが、お酒を飲むと愚痴を言い、別人のようになりました。





家族の中で実権を握る祖父母は、跡取りであるAさんが生まれると自分たちで養育することを決め、両親が子育てに関わることを許しませんでした。





祖父母はAさんを甘やかして育て、両親はそれを苦々しく思っていました。中学卒業までのAさんはおとなしく手のかからない子であり、特に問題は起こりませんでした。高校へ進学してからは、「友だちと合わない」と不平を言って不登校になった後、中退しました。





しばらくして仕事には就いたものの、人間関係のトラブルを理由に転々としました。20歳頃から家にひきこもるようになり、何か気に入らないことがあると暴れるようになりました。





最初は物に当たっていましたが、しだいに家族に暴力を振るうようになりました。Aさんは通信販売でさまざまなものを欲しがり、祖父母がお金を工面しました。





Aさんが23歳のとき、思い余った両親はAさんを説得して病院へ連れて行きました。医師からは、「Aさんはひきこもりであり、精神病ではない。家族の問題が大きい、それを解決してから受診するように」と言われました。





その後も、暴力はエスカレートしていきました。25歳のとき、祖母がAさんの暴力によって怪我をしたため父親が警察に相談に行くと、役所に行くように言われました。両親は、担当課に「家でAをみることはできない。あいつは異常だ。どこかに収容してほしい」と相談に行きました。





約2週間後、Aさんは両親が役所に相談に行ったことを祖父母から聞き、担当者に電話をかけました。「父はアルコール中毒だから入院させてほしい。父のアルコールのため家族がバラバラになり、自分もイライラする。また、母は自分を無視するので腹が立つ。弟は自分の苦しみを知りもしないでいい気になっている。祖父母は何もしてくれないのでムカつく」と言いました。





その後、母親が担当者に「Aの暴力は続いている。祖父母はAの言うまま、夫は酒を飲むばかりで真剣に考えてくれない。もう自分はどうしたらいいか分からない」と相談すると、関東自立就労支援センターを紹介されました。





両親は来談した際、「何とかしてくれ」と言うばかりでした。センターでは問題の整理、対策を考えていく機会として通院を勧めました。
その1週間後、母親のみセンターへ来院しました。センターの担当者はまずは両親、祖父母間でAさんについて話し合うことを提案しました。





その1週間後、Aさんは祖父母といっしょに相談に来ました。母親が来所したと聞いてやってきたと言います。「人前に出ると落ちつかないし、やる気がでない。こうなったのは家族のせい。周りが治す気力をなくしてしまう」と訴えました。Aさんに対して、家族のことは放っておき、自分の問題について考えていくため通院してはどうかと提案すると同意しました。





その1週間後、「薬を飲んで気分はよくなったが、その分余計考え事をするようになってイライラする」と言います。さらにしばらくすると、「今日は1人で来た。家族は当てにできない。自分でなんとかしなければ」と言いました。





その一方、母親からは「Aは自分だけ相談に行っても、周りは好き勝手やっているから何にもならないと言ってよく暴れる」と連絡がありました。その後も不規則ながら関東自立就労支援センターでの面談は続きました。





Aさんは、幼少時より家庭内の2つのコミュニケーションの中で生活をしてきました。すなわち、1つは祖父母とのコミュニケーションであり、もう1つは両親とのコミュニケーションです。





前者はAさんの要求をすべてかなえようとするものであり、一方的にAさんを受容しようとする家族関係を構成し、逆に後者は祖父母およびAさんを否定しようとするものであり、Aさんにとっては拒否的な家族関係を構成するものでした。





このようにAさんは、受容と拒否という相反するコミュニケーションと、それによって構成された家族関係に引き裂かれるようにして成長していきました。





したがって、そこから繰り広げられる家族以外の他者とのコミュニケーションも、受容されるか拒否されるかといった不安と緊張をAさんに惹起するものであったと想像できます。





実際、Aさんは高校に入学してから人間関係のトラブルを訴えるようになりました。結局、Aさんは外へとコミュニケートしていくことをあきらめ、家の中にひきこもり、その全責任を他者に押しつけるようになりました。





すなわち、「酒を飲んで文句ばかり言う父親」、「自分を無視する母親」、「何もしてくれない祖父母」、「自分の苦しみもわからずいい気になっている弟」を攻撃していきました。





そのうえ、コミュニケーションを失っている人は、Aさんにかぎりません。祖父母はAさんの言うままで殴られてもひたすら耐え、父親はアルコールに逃避し、母親はそういった現状をオロオロと眺めるばかりです。こういった状況は、Aさんを取り巻く2つのコミュニケーションとしてこの家庭に連綿と流れてきたものです。





しかも、祖父母の受容は今となっては無力であり、両親の拒否はAさんの処遇を全面的に誰かに委ねようとします。そのため、両親らは自分たちではお手上げなので誰かに解決してもらおうと相談して回りました。まずはAさんを伴い、診療所を受診しました。ところが、そこの医師は家族の問題だとして関わりを拒否してしまいました。





医師のいう家族の問題とは家族の分裂を産みだしてきた硬直したコミュニケーションに根ざすものであり、それをいかに解消していくかが問われているにもかかわらず、その解決を家族に投げ返すような対応は非常によくないものでした。なぜならば、他者に相談するという新たなコミュニケーションの芽生えを家族の中に押し戻すことになるからです。





当然、Aさんも両親も失望し、通院は途絶えてしまいました。その後、両親は警察を経由して役所に相談に行きました。そこでようやく第三者とのコミュニケーションが始まりました。





この時以降のAさんの行動で興味深いのは、両親の相談相手に自分の正当性と家族に対する不満を訴えて回ったことです。Aさんには、家族への強い反発と同時に外部へコミュニケートしようとする意欲があり、それが現れたものと考えられます。





役所の担当者によって両親やAさんの話は十分に聴取され、受容が図られた後、両親は問題解決の可能性を求めて関東自立就労支援センターに来所しました。





ここでは前医が言うように問題は確かに家族の間にあるため人任せにはできないことが確認され、その解決には第三者の介入が有用であることが話し合われました。





その後、わたしは両親、祖父母間のコミュニケーションを活性化することの必要性を説明しました。その後、Aさんは自分の正当性を語りに来所しました。





わたしはAさんの受容を図ると共に、外部にコミュニケートしようとするAさんの意欲が自分自身について語る方向へ向かっていくのを待ちました。Aさんは不定期ながら、関東自立就労支援センターの相談室に来所するようになり、自分に対する反省的言動も生じるようになりました。





Aさんや家族に対してなしていることは、家族の分裂し硬直化したコミュニケーションを交差させるべく、そこに支援者という第三者とのコミュニケーションを介在させようという試みです。





それは、一時的にはAさんを不安定にし、家庭での状態を悪化させてはいますが、家族間のコミュニケーション状況を変化させるものとして今後の展開を期待したいと思います。



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