二重拘束の迷いから覚めた親子
ホーム > 二重拘束の迷いから覚めた親子

二重拘束の迷いから覚めた親子

2019年07月07日(日)10:55 AM

「お母さんも、お父さんともっと正直に心の言葉を吐いてほしかった。親の言っている言葉をストレートに聞けないで、さぐりを入れながら成長するしかなかった子どもの気持ち、両親にわかりますか。

 

 

 

 

 

矛盾した親のなかで育てられた子どもが、どうして他人に信頼感を持つことができますか。いつも他人をもしかしたら自分自身までも疑ってかかる”癖”を身につけてしまった子どもの苦しみがわかりますか。

 

 

 

 

 

”疑い深い子”って言うけど、それは否定されることに不安で、しり込みしているからなの。素直に”好きだよ”って言ってくれる家に住みたかった」

 

 

 

 

 

高校1年のA子さんは、面接室で向き合う両人に対して切なくつぶやきました。すると母親は瞬間、うんざりした顔をしつつも、すばやく言いました。

 

 

 

 

 

「ごめんね。お母さん、悪かったわ」

 

 

 

 

 

「それなのよ。まだわかってくれないの。なぜ、そんなに簡単に謝るの。じゃあどうしてそんなに素っ気無い顔をするの。もう、いい加減にしてよ」

 

 

 

 

 

A子さんの顔がひきつりました。

 

 

 

 

 

「ごめんねって謝っているじゃないの。素っ気無い顔ってしょうがないでしょ。これがお母さんの顔なんだから」

 

 

 

 

 

母親の憮然とした表情に、A子さんが切り返しました。

 

 

 

 

 

「じゃあ、お母さん、私のこと好き?」

 

 

 

 

 

「好きだよ。わたしの娘だもの。ねえ、お父さん」

 

 

 

 

 

あきらめ顔の父親に、不満げな母親が問いかけました。

 

 

 

 

 

「いいのよ、お母さん。無理してお父さんに聞かなくても。もう時間もきたし、終わるから。早く帰りたいんでしょ。

 

 

 

 

 

本当は”しつこい子”って思ってるんでしょ。正直に言ってくれるほうがわたしは楽なのよ」

 

 

 

 

 

冷静さを取り戻しつつ、A子さんは両親の目を追いました。

 

 

 

 

 

「そんなことはないよ。面接(カウンセリング)がおまえにとって大切なことなら、いつでもいっしょに来るよ、お父さんもお母さんも」

 

 

 

 

 

すると母親は、腰掛けていた椅子を後ろにさげ、席を立ちました。そしてわたしの隣に座っていたA子さんが腰をあげたときには、もう母親も父親も面接室を背にしていました。

 

 

 

 

 

互いの関係を維持していくことが、生きていくうえで避けられないものであればあるほど、その関係は緊密になっていかざるをえません。

 

 

 

 

 

しがらみを持つといったらいいでしょうか。職場や家族、特に母子関係は、抜き差しならない関係になりやすいです。

 

 

 

 

 

互いに余裕があれば、ぴったり結びついた関係を”補修”していくことも可能ですが、子育てという周りの目にも気をつかい緊張を強いられる期間は、母子ともに”完璧”であろうとするあまりその関係に期待も高く、”不全”感をもちがちです。

 

 

 

 

 

わかりやすい言い方をすれば、「気持ちを推し量ってよ、わたしの気持ちぐらい母子なんだからわかるでしょ」という”思い込み”が含みをもって一人歩きしていくのです。

 

 

 

 

 

そんなとき同時に二律背反的メッセージが”独善的”に表出されます。言葉と態度(表情)が矛盾しているのです。

 

 

 

 

 

たとえば、いたずらをして嘘を言っている子どもに対し、母親が表面的には「怒らないから正直に言ってごらん」と言いつつも、「嘘つき、お母さんは全部知っているのよ」という雰囲気が漂っている場合です。

 

 

 

 

 

そして、子どももそれを感じとるので何も言わないでいると、母親は「なぜ正直に言わないの。やったの、やらなかったの、怒らないから言いなさい」と言って声をさらに荒げていきます。

 

 

 

 

 

子どもは”弁明”の機会への不安もあって、「本当に怒らない?怒っている声だよ」と確認をとります。

 

 

 

 

 

すると母親が、「これが怒っている声なの?怒らないわよ」と言うので、子どもが正直に言うと怒られるというパターンです。

 

 

 

 

 

ストレートに子どもに聞けばその心を傷つけてしまうのではという母親なりの配慮が、押しつけになっているのです。

 

 

 

 

 

子を思う親の思いの深さが、押しの強さになってしまう瞬間です。表面的には肯定的ですが、裏では否定的なメッセージが出てしまいます。

 

 

 

 

 

ところが、この矛盾の意味を理解しようとして真意をたずねると、さらに矛盾したメッセージが繰り返されてしまいます。

 

 

 

 

 

このとき子どもが母親に反発できればいいのですが、それを期待するのは力関係からいっても酷です。とくにいわゆる「いい子」ほど、このメッセージに幾重にも縛られてしまい身動きができなくなってしまいます。

 

 

 

 

 

この状態を二重拘束(ダブルバインド)といいます。この戸惑いが人に対する警戒心になることもよくあります。

 

 

 

 

一人っ子であったわたしと母親の間にもありました。

 

 

 

 

 

「親のことは考えなくていいから自由にどこにでも行きなさい。お母さんはいつもお前のことを見守っているから。お前”だけ”が頼りなんだよ。お母さんのことは考えないで好きに生きなさい」

 

 

 

 

 

でもこの文脈の矛盾に束縛されず、母親を”安心できる家”にして生きてこられたのは、わたしと母親の間に、物理的距離をとっても関係は維持されるという安心感が培われてきたからに他ならないと思います。

 

 

 

 

 

だから地元に帰省して数日経つと、わたしの両肩は母親の思いにつぶされそうになりました。

 

 

 

 

 

それを母親も感じたのか2、3日家にいると「いつ帰るんだ」と少し冷たく言ったものです。これもダブルバインドでしたが、わたしは束縛されませんでした。

 

 

 

 

 

なぜなら「寂しいくせに!」と少し母親をからかうような表情を漂わせ、苦笑いで切り返せたからです。

 

 

 

 

 

高校中退をほのめかし相談室に来ていたA子さんと母親に、転機がおとずれました。それは父親の不慮の事故による入院でした。

 

 

 

 

 

勤めにも出ていた母親は、朝夕の入院先での介助と家事に、日ごとに疲れが増していました。A子さんと小学校6年の妹の”善意”に期待して待っているような余裕はありませんでした。

 

 

 

 

 

「ゴミを必ず出しておいてね」「ありがとう。今日はお父さんが早く帰ってもいいって言うから、夕食いっしょにできるよ」

 

 

 

 

 

「玄関に、田舎のおばあちゃんに送る宅急便を置いておいたから、出しておいて」「A子も意外にできるのね。お母さん、妹のことが心配で、すっかりお姉ちゃんに甘えていたんだね」

 

 

 

 

 

妹は軽度の知的障害を背負っていました。忙しさの中、こんな会話が電話で交わされていきました。それがいつの間にか関係の補修になっていました。

 

 

 

 

 

「最近、お母さんがとっても”わかりやすい人”になったんです。だから安心して文句も言えるんです。深読みしている暇がなくなって。

 

 

 

 

 

お父さんも、もう少し話せばいいんだけど」A子さんの少しふてくされた表情が、不思議にもさわやかな5月の風を相談室に誘い込んでいるようにわたしは感じました。

 

 



メニュー

過去の記事

団体概要
団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
大橋秀太
理事:
大畑健太
理事:
杉下真理
住所
東京都東久留米市浅間町1-12-9
TEL
042-424-7855
メール
ki6jt7@bma.biglobe.ne.jp
活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
・共同生活寮の運営
・教育相談の実施
・各種資格取得支援