15歳少年の不登校・家庭内暴力の事例
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15歳少年の不登校・家庭内暴力の事例

2019年07月07日(日)1:10 AM

A君は裕福な内科医の家庭に育った一人息子です。彼は現在15歳です。これまで2年間にわたって「不登校」で両親を悩ませ、加えて「家庭内暴力」まで恒常的に引き起こしてきた少年です。

 

 

 

 

 

不登校にしびれを切らせた母親が昨年の暮れに関東自立就労支援センターに相談に訪れました。発端は、ゲームでした。

 

 

 

 

 

小学校の高学年のころからゲームが大好きだったA君でしたが、最初のうちは両親もこの遊びそのものをむしろ容認していました。

 

 

 

 

 

その証拠に、ゲームソフトの新作が発売されるたびに、いつもソフトを買い与えていました。これはけっして裕福なA君だけが恵まれていたのではありません。

 

 

 

 

 

最近では、どこの家庭でもよく見られる光景です。つまり、現代の小中学生の子どもたちにとってゲームとは、すでに自分たちの生活の一部となっており、同時に社会からも市民権を得ている遊びになっています。

 

 

 

 

 

だから新作が発売されれば、当然どんな子どもも「買ってもらえる」ものだと思い込んでいたとしても、これはけっして子どもたちが責められることではないかもしれません。

 

 

 

 

 

A君の母親が初めての面談のとき、「他所のご家庭にお尋ねしてみても、みんなやらせているようでしたから、新しいゲームソフトを息子に買ってあげることにはなんの抵抗もありませんでした」と述懐していることは、誰にでもうなずけることでした。

 

 

 

 

 

つまり、自分の子どもも他所の子どもたちも同じだと知って、次々と新しいゲームソフトを息子に買い与えてきたのです。

 

 

 

 

 

ここには、「横並びなら安心だ」という、現代の母親像が見え隠れしているように思われます。ところが異変は、A君が中学1年生になった一昨年あたりから起こりました。

 

 

 

 

 

 

A君のゲームへの傾倒ぶりが、はたで見ていても異常と感じられるほど過激になっていったのです。

 

 

 

 

 

学校から帰ってくるやいなや、連日深夜から明け方近くまで例のピコピコという電子音が、二階にあるA君の部屋から聞こえてくるようになったのです。

 

 

 

 

 

そこには、食事もとらずにひたすらゲームに熱中しているA君の姿がありました。

 

 

 

 

 

 

明け方近くまでゲームに没頭する毎日のA君は、寝不足にもなり、とうぜん学校へ行けるような状態ではなくなってきていました。

 

 

 

 

 

こうしてA君は、いつの間にか「不登校」になってしまったのです。

 

 

 

 

 

 

小学生のころは、「ゲームは1日2時間」という両親との約束を素直に守っていたA君でしたが、中学1年の後半になると学校へも行かなくなり、連日ゲームと格闘するようになりました。

 

 

 

 

 

そしてA君の生活は、昼夜逆転を繰り返していたのです。

 

 

 

 

 

ここでカウンセラーとしての立場で客観的に考えてみれば、A君の家庭には次の2つの問題点があったように思われます。

 

 

 

 

 

ひとつは「やみくもに、ゲームの新作ソフトを子どもに買い与えた」ことであり、もうひとつは、「ゲーム機を、A君の自室に置いてしまった」ことです。

 

 

 

 

 

前者は、「子どもに我慢を教えなかった」ことにつながっており、結果としてわがままな子どもに育つ危険性を助長してきました。

 

 

 

 

 

そして「個室でゲーム三昧の毎日」という生活は、長じれば「ひきこもり」の誘因となる可能性も高かったのです。

 

 

 

 

 

しかし、これらのことだけで、A君の両親を責めるわけにはいきません。

 

 

 

 

 

おそらく現代のどのご家庭も、これと似たような生活環境を子どもたちに与えているはずなのです。特別にA君だけが、極端に両親に甘やかされていたわけではありません。

 

 

 

 

 

では、A君が「不登校」になり、その後「家庭内暴力」を振るうようになった一番大きなきっかけとは何だったのでしょうか。

 

 

 

 

 

それまで普通の子だったA君の言動が一変したのは、昨年の夏に発売された新作ゲームソフトをめぐる親子の確執からでした。

 

 

 

 

 

学校に行かない息子に業を煮やした父親が、その新製品を買うお金をA君に渡さなかったのです。その夜から、A君の家庭内暴力がはじまりました。

 

 

 

 

 

A君にとって、次に発売されるゲームソフトを買ってもらうということは、すでに彼の頭の中に刷り込み済みの既定の事実だったと思われます。

 

 

 

 

 

ところが、その回路が突然寸断されてしまったのです。「パブロフの条件反射」ではありませんが、「新作」=「すぐ手に入る」というA君の頭の中の回線が突如ショートし、おそらく混乱状態に陥ったと推測されました。

 

 

 

 

 

それからのA君が、「不登校」に加え「家庭内暴力」まで頻発させるようになったことは、わたしの立場から考えれば納得できる帰結でもあったのです。

 

 

 

 

 

しかし、突然暴力を振るいだしたA君を前に、両親は気が動転したのでしょう。彼を責めることしかできなかったのです。

 

 

 

 

 

もちろん、子どもたちが学校へ行かないとなれば、どこの親も我慢できることではありません。

 

 

 

 

 

なんとか学校へ行くように説得するのが、親の役目です。いかに温厚な父親といえども、さすがに我慢できなくなったらしく、学校へ行かなくなったばかりか、時折母親に暴力を振るう息子を殴りつけたことも、再三あったようです。

 

 

 

 

 

それでもA君は学校へ行くことを徹底的に拒み、ひたすら自室にこもってゲーム三昧の毎日を過ごしてきたのです。

 

 

 

 

 

そして、その生活態度を両親が叱責すればするほど、手がつけられないような家庭内暴力が繰り広げられる毎日となってしまったのです。

 

 

 

 

 

「だって、俺の生きがいはゲームなんだから。好きなだけやらせてよ!」食事もろくにとらなくなり、理由もなくお茶の間のテーブルや椅子をひっくり返します。

 

 

 

 

 

父親が怒鳴ろうが、母親が泣き叫ぼうが、A君はいっさい聞く耳を持たなくなりました。意味のない大声を上げながら、そばにあるものを次々と投げつけます。

 

 

 

 

 

お茶の間のリビングも、まさに地獄の修羅場になってしまいました。

 

 

 

 

 

彼が暴れるようになった直接の原因は、両親ともにわかっていました。それでも父親は、新作ソフトを買ってあげようとはしませんでした。

 

 

 

 

 

おそらく父親も、意地になっていたのではないでしょうか。もちろん教育熱心な両親は、恥をしのんで学校へ何度も相談を持ちかけました。

 

 

 

 

 

しかし、担任の先生は、「家庭内の問題に関しては、学校側が立ち入るべきではない」という姿勢を崩しませんでした。

 

 

 

 

 

不登校に関しても、「ご家庭で何か問題があるのではないですか?」といういたって能天気な対応だったようです。

 

 

 

 

 

このような膠着状態が半年ほど続きました。業を煮やした母親が、新作のソフトを買ってあげるとなだめすかしても、彼の不登校と家庭内暴力はいっこうにおさまりませんでした。

 

 

 

 

 

ある日母親は、急にゲッソリとやせ細ってきた息子の顔に、ある異常を発見して仰天しました。それは、大声をあげらがら電話機や花瓶を投げつける息子の頬が、異常に引きつって見えたのです。

 

 

 

 

 

しかし本人は、その異常に気がついている様子がありません。

 

 

 

 

 

「明らかに息子は”チック症”になっていたのだと思います」この日が母親にとって、我慢の限界でした。母親は夫の了解を得て、関東自立就労支援センターに電話をかけてきました。

 

 

 

 

 

こうして関西方面からわざわざ面談の場に現れた母親は、頬に伝う涙をハンカチで拭きながら、「もうこれ以上、息子の苦しむ顔は見たくありません」と何度もわたしに訴えました。

 

 

 

 

 

この「チック症」とは、主に子どもたちが見せる「顔面に異常が現れる症状」で、精神的な不安などが原因となって、顔面にいくつかの変化をもたらす疾病のひとつといわれています。

 

 

 

 

 

たとえば頬を引きつらせたり、突然白目をむき出したりといった症状が、顔面を中心に現れるのです。しかも、本人にはまったく自覚症状がないというのも特徴のひとつです。

 

 

 

 

 

母親に説得されて関東自立就労支援センターにやって来たA君は、見た目はまったく普通の15歳の少年に見えました。

 

 

 

 

 

スタッフへの挨拶もしっかりできていたし、寮の玄関では自分の靴をきっちり揃えてから、指示された自分の部屋へ向かうという、礼儀正しい一面も見せていました。

 

 

 

 

 

わたしは母親と何回かに及ぶ面談の結果、ある作戦を立てました。ゲームが大好きだと公言しているスタッフの一人に、次のような因果を含ませて、新作ゲームソフトを渡しておいたのです。

 

 

 

 

 

「とにかくA君と2人で、反吐が出るまでこのゲームを楽しんでほしい!」

 

 

 

 

 

入寮したその夜からA君は、満面に笑みを浮かべながら、新作のソフトを嬉々としてやり始めました。その夜以来、A君の部屋からは例のピコピコという電子音が鳴り響いてきました。

 

 

 

 

 

わたしは深夜、廊下でその音を耳にしてこう思いました。「さあて、何日間で元に戻るか楽しみだ」。

 

 

 

 

 

1週間後のスタッフからのレポートには、次のような報告が記されていました。

 

 

 

 

 

「とにかく1日に3~4時間しか寝ないで、嬉々としてゲームをやっています。僕がやっているときに時々居眠りをしたりしていますが・・・・・。

 

 

 

 

 

3度の食事の自炊も協力的だし、部屋の掃除だって率先してやっています。もちろん、わたしに暴力的な行動に出ることもありません。

 

 

 

 

 

この子が”不登校”とか”家庭内暴力”をふるっていたなんて、わたしには信じられません」こうして3週間が瞬く間に過ぎ去りました。

 

 

 

 

 

A君とスタッフはその間、一歩も部屋から出なかったようです。ひと月後のレポートには、次のようなことが書かれていました。

 

 

 

 

 

 

「朝夕の散歩に誘ってみても、A君は時間がもったいないからと言って、ゲームばかりしています。勉強に関しては、まだひと言も話していません。

 

 

 

 

 

わたしは指示されたとおり、反吐が出るまでA君とのゲームにつき合っていくつもりです」

 

 

 

 

 

ゲームに関して、わたしはまったく知識がありません。聞くところによれば、新しいゲームソフトを完璧にクリアするにはひと月ほどかかるケースも珍しくはないようです。

 

 

 

 

 

わたしが手渡したゲームソフトがどの程度難解な内容かはわかりませんが、そろそろA君もひと段落つくころではないだろうか、勉強はそれからだと思っていました。

 

 

 

 

 

こうしてひと月半という時間があっという間に過ぎ去りました。それまでA君と寝食を共にしてきたスタッフは、自分の体験からこのての子どもを扱うのは心得たもので、「一応このゲームソフトは終わったけど、これからどうする?」とA君にさりげなく尋ねたようです。

 

 

 

 

 

他にやることがなくなったA君が、何を言い出すのかと興味を持っていたのです。

 

 

 

 

 

するとA君は、「もうここにあるゲームソフトは全部攻略したから、やることって別にないよねえ」と憮然とした顔で答えたようです。

 

 

 

 

 

ここでやっとわたしの出番でした。A君は三度三度の食事もスタッフと自炊しながらしっかり摂っていたせいか、血色はすこぶるいいように見えました。

 

 

 

 

 

目の輝きも普通に思われたし、チック症の症状なども見当たりませんでした。ただぷっくらと腫れた目元だけが、彼の寝不足を物語っていました。

 

 

 

 

 

「で・・・・・・?これからいったいどうしたいの?」とわたしは尋ねてみました。

 

 

 

 

 

「別にィ・・・・・、でもここにいてもやることはもうないよねえ」と同意を求めるようにA君は親しくなったスタッフに視線を向けています。

 

 

 

 

 

「やることはないけど、もうしばらくここにいる?」再度のわたしの問いかけにA君は無言のままうなずきました。

 

 

 

 

 

こうして、他に何もやることがなくなって退屈しきったA君が、ときどき勉強机に向かうようになり、やがて退寮したのは、それから約1ヶ月後のことでした。

 

 

 

 

 

わずか3ヶ月という期間で、A君は元の普通の少年へと戻ったのです。

 

 

 

 

 

「わたしの着眼点」

 

 

 

 

 

A君の場合、元の状態に戻すことは思ったより簡単でした。彼の生活習慣の中でショートしている部分を、我々がカバーしてあげればそれでよかったのです。

 

 

 

 

 

A君は最初から「ゲームが大好き→学校を休んででもやりたい→両親から「不登校」を責められる→そのことへの反発→新作ゲームソフトを買ってくれなかった親に対する恨み→そのイライラが募って「家庭内暴力」へと走った」・・・・・このような心の推移が、即座に浮かんできました。

 

 

 

 

 

そのすべての原因は、両親が大好きなことを自由にやらせてくれなかったことと、期待していた新作のゲームソフトを買ってくれなかったことだったのです。

 

 

 

 

 

10代の子どもたちにとって、「好きなことを自由にやらせてくれない」ことは、まさに唾棄すべき行為に映るのです。

 

 

 

 

 

そんな自分勝手な子供心に、さらにプレッシャーをかけたのが、「母親が学校の先生に相談したこと」です。

 

 

 

 

 

中学生のA君にとって、自分の恥を「担任の先生」やクラスの友だちに知られることは、自死以上の屈辱を感じることに通じていたのです。

 

 

 

 

 

親が良かれと思ってとったはずの「先生への相談」という行為こそ、彼を最後の暴発へと導いたのです。

 

 

 

 

 

また、最初は買ってくれなかったゲームソフトを、なんとかA君に機嫌を直してほしいがために、一転して「買ってあげる」と言いました。

 

 

 

 

 

この曖昧な親の態度が、子どもにさらなる不信感を増幅させる要因にもなりました。

 

 

 

 

 

A君への対処療法とは、欲しかったゲームソフトを与えて、「反吐が出るまでゲームを自由にやらせること」でした。

 

 

 

 

 

わたしは勉強はその後でいいと思っていました。彼が不登校のころ、「やりたいだけゲームをやらせておけば、あるいは彼の熱病は案外早く治っていた」と思います。

 

 

 

 

 

確かに一時的に学校を休ませることは、問題が長引く危険性もありました。しかし、長期的な家庭内暴力を防ぐためには、短期間の休学もこの場合はやむを得なかったと思います。

 

 

 

 

 

この対処法はA君の場合に限ったやり方であり、他の不登校の方に適切ではない場合があります。

 

 



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