家庭内暴力の加害者と被害者
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家庭内暴力の加害者と被害者

2019年06月28日(金)9:57 AM

「犯行の動機は主として、被告人(父親)が被害者(中学3年生・長男)から受ける激しい暴力の苦しみから逃れようとしたというものである。

 

 

 

 

 

被告人は、被害者から一時離れることによって被害者の暴力から逃れることも可能であり、そうするべきであったということができる」。

 

 

 

 

 

だが「一般通常人が同様の立場に置かれたならば同様の行動を選択することもあり得るものである」。

 

 

 

 

 

また被告人は「転職してまで時間的な余裕を作った上(中略)、被害者の苦しみを自分のものとして共に生きようとし、この問題を打開するために多大な努力を払ってきたものである。

 

 

 

 

 

そうであるのに被害者は一向に改善する兆しが見えず、暗たんたる状況にあったものであり、犯行当時ころはほとんど一人で被害者の暴力を受け止めていた被告人の苦しみは当の本人でなければ容易に実感することができないほど大きなものであったであろう。

 

 

 

 

 

その苦しみから逃れようとして本件犯行に至ったその経緯及び動機には同情すべきものがある」

 

 

 

 

 

被害者である息子の家庭内暴力に耐えかね、金属バットで殺害した被告・父親に懲役3年の実刑判決が平成10年4月1日に東京地裁で言い渡されました。

 

 

 

 

 

事件後、カウンセラー、精神科医の姿勢、暴力に対する父性の復権、さらにムカつき、キレる子どもの心理がいっきに国民の日常テーマになったこともあり、注目のなかでの判決でした。

 

 

 

 

 

内容的には一見、事実認定のみに費やされた物足りなさを感じる判決文に見えるかもしれませんが、わたしの胸には被告の父親と同年輩のざわめき揺れる裁判長の心が伝わってくるようで、そこに人の子の慈愛を抱けました。

 

 

 

 

 

20歳を過ぎた娘の攻撃と依存を繰り返す家庭内暴力に消沈気味な父親が、面接室でつぶやきました。

 

 

 

 

 

「わたしはあの父親とはまったくの正反対ですよ。娘が椅子で家具を壊し、包丁を持って障子をメッタ出しにすれば、わたしはすぐ自分の部屋に入って布団を頭からかぶって震えています。

 

 

 

 

 

もちろん妻も怯えてわたしに救いを求めに部屋に入ってきて布団をはぎとろうとしますが、こっちも何をどうしたらいいのかわかりませんので、体中で布団を抱え込んでしまいます。

 

 

 

 

 

情けない、それでも夫か、父親かと妻に言われますが、それしかわたしにはできないんです。

 

 

 

 

 

もう5年間、そんな毎日ですよ。あの父親は2年ですね。立派なあの人が殺人者になり、一方のみじめなわたしですが、まだ子どもを殺そうなんて思ったことはありません。

 

 

 

 

 

自分の生命を守ることだけで娘のことまで考えていられないんです。子どもにとってはどっちがいいんですかね。

 

 

 

 

 

わたしなんか家庭内暴力に関する本も読んだことがありません。ただこうして女房とカウンセリングにおじゃまするだけですよ。

 

 

 

 

 

とにかく月に1回でも女房が先生とお会いするだけでも安心するんです。女房が倒れてはわたしもどうしたらいいのか困ってしまいます。

 

 

 

 

 

情けない父親ですが、とにかくこれからもよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

この間、じっと夫の話を側で聞いていた妻は、ときにこみあげる涙を拭いています。

 

 

 

 

 

わたしへの連絡は、すべて還暦を過ぎたこの父親がしてきます。そして面接中のほとんどは母親が話し、その間、父親は深く寝入ってしまうこともあります。

 

 

 

 

 

それが実に安らかなのでわたしは父親なりの苦労を感じ、わたしは必死に母親を自分に引きつけようとします。

 

 

 

 

 

気づいてみたら毎回、父親は面接の始めと終わりに「季節の話」と「妻を頼りきっている情けない夫」について話すのみです。

 

 

 

 

 

確かに話だけでは、この父親と被告の身となった父親では子どもへの関わりに違いはあります。

 

 

 

 

 

ですが、小心な自分を正直に語るしか術のないこの白髪の父親に、わたしはどこかで心が惹かれてもいます。

 

 

 

 

 

話を再び事件に戻すと、東大闘争で出会った夫婦が突然に襲われた不幸は、当時中1だった息子の暴力でした。

 

 

 

 

 

まるで「支配者」のように振る舞い、母親を土下座させ、頭を足で踏みつけて前歯を折りました。

 

 

 

 

 

そして子どもはまもなく不登校になりました。今度は父親の顔を蹴り、鼻の骨を折りました。

 

 

 

 

 

でも暴力を振るいながらも泣き続ける息子を見て、父親は子どもの心と向き合うことを、読みあさった本を糧に決意しました。

 

 

 

 

 

父親と息子の2人暮らしが始まり「この家で一番偉いのは自分だ」と長男が言うようになりました。

 

 

 

 

 

父親は離れていた妻を連れては、相談室、親の会を訪ねますが有効な対応策はなく、「傷口をなめあう」集まりに失望し、独り子どもから逃げない真剣な親であろうとしました。

 

 

 

 

 

そして息子の暴力からちょうど2年経ったある朝7時過ぎ、前夜からもひどい暴力を受けていた父親は、寝ていた息子の頭に金属バットを思い切り振り下ろし、4、5回殴り、さらに首になわとび用のひもを巻きつけて窒息死させました。

 

 

 

 

 

さて、判決文を一読後、わたしの脳裏を20年間に家庭訪問や相談室で出会った多くのさまよう親子が去来しました。

 

 

 

 

 

わがままとは思いながらも将来への不安を生み育てた親にしかあずけられない身となった京都の青年は、ささいな感情の行き違いが「見捨てられ感」となり、家庭内暴力でしか両親の「逃げない」愛情を確認することができませんでした。

 

 

 

 

 

そして高校中退6年後に「自滅」するかのように自らの命に終止符を打ちました。

 

 

 

 

 

仕事に支障をきたしていたことから家出をした零細企業主の父親はその3日前にわたしとの電話面接で帰宅することを決意し、引っ越しの準備を終えていました。

 

 

 

 

 

母親たちの強い希望に応えたくて主宰したグループカウンセリング『父親ミーティング』に約2年間(月2回)通ったある父親は、やはり高校を中退し昼夜逆転の息子の昼食を出勤前に悔し涙を流しながら作り始めました。

 

 

 

 

 

数年後、初老の父親は「胃袋でつながった」と面接室で号泣しました。

 

 

 

 

 

相談室がある都内に住み、母一人、子一人で育った少年は、窃盗の疑いをかけられたことをきっかけに中学3年間をシンナー漬けで過ごしました。

 

 

 

 

 

深夜の家庭訪問で生後まもなく生き別れし、行方を聞かされていない父親に会ってみたいと彼は周りを気にしながら言いました。

 

 

 

 

 

そして真面目一筋の母親が茶髪の彼にピンクの毛染めで迎え撃つことを覚悟したころ、少年の赤ちゃん返りがはじまりました。

 

 

 

 

 

「そろそろ年貢の納め時だね」とわたしが道端でばったり会った彼に言うと、何も言わずに苦笑する彼も20歳になって工場の寮に入ると言いました。

 

 

 

 

 

そして、母親の再婚を喜んでいました。

 

 

 

 

 

人はそれぞれ、時と空間と人とのめぐり合わせ、組み合わせの中で努力して報われるときもありますが、報われないときもあります。

 

 

 

 

 

だから絶望してはいけないし、うぬぼれてもいけません。

 

 

 

 

 

「僕は親に納得してほしいのではなく、気持ちを理解する努力をしてほしかった。

 

 

 

 

 

そして関心を向け、傍らにいてほしかった」京都の少年の遺書代わりのメモをわたしは思い返します。

 

 

 

 

 

「暴力を拒絶することは、子どもを拒絶することになる。抵抗してはいけない」。

 

 

 

 

 

被告の父親が確信した対応マニュアルでした。

 

 

 

 

 

この一節が「暴力を拒絶しても子どもの気持ちと向き合う努力を拒絶しなければ逃避にはならない」と置き換えられていたら、悲劇の結果はどうなっていたでしょうか。

 

 

 

 

 

裁判長は量刑理由の中で、人は最も信頼を寄せる人に攻撃してしまうこと、さらに誰にも否定される前に悔しさを語る「弁明の機会」が与えられていることをさりげなくふれています。

 

 

 

 

 

「命ごい」することなく語りつくした父親が、生涯で初めて弱音をはけた場所が法廷であったことを裁判長は熟知していたとわたしは判決文の行間から感じました。

 

 



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