父親と子の心のすれ違い
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父親と子の心のすれ違い

2019年05月17日(金)4:05 PM

高校受験の不安を抱えた中3のA子さんは、ゆっくり話すこともなく過ごしてきた「仕事一筋」の父親に、自分の落ち着かない気持ちに関心を寄せてほしい、そして甘えてみたいと思っていました。

 

 

 

 

 

朝食がすみ出勤を前にして、母親が慌しくA子さんに食器拭きを頼みました。

 

 

 

 

 

「いいよ、お母さん、拭いておくよ。ねえ、お父さん、お父さんは食器棚に並べてよ」

 

 

 

 

 

読みかけた新聞を手にした父親はリビングを出て、いつものように部屋で読み残しの紙面を見ようとしていました。

 

 

 

 

 

それはパターン化(儀式)されたいつもの日課でもありました。

 

 

 

 

 

「忙しいから」何の戸惑いもなく「ごくあたりまえ」に父親は返事をしたと彼女は言います。

 

 

 

 

 

「お父さん、お父さんも家族なんだから、手伝わなくっちゃ」

 

 

 

 

 

ちょっと照れを含めて茶目っ気で返しました。すると、父親はなかば予期していたとはいえ、彼女の「期待を裏切るかのように」答えたのです。

 

 

 

 

 

「食器はおまえたちの仕事だ」A子さんは父親が「食器棚にならべて」という言葉だけを聞いて、その背後にある自分の気持ちをまったく理解していないことにあらためて落胆しました。

 

 

 

 

 

彼女は「父親とじゃれ合えていた最後の小学校3年生くらいからずっと、こんな感じを持ってきた」と言います。

 

 

 

 

 

それでもA子さんは父親が「好きだったし、母親の言う『仕事で疲れているんだ』で、何となく納得してきて」いました。

 

 

 

 

 

それだけに、父親の顔色をうかがい、自分なりに気を使ってきました。

 

 

 

 

 

ですが、それが負担というわけではなくむしろ「自然」だったようです。

 

 

 

 

 

なぜなら、「一番苦しいときには必ず、娘の気持ちに気づいてくれる」と信じていたし、「それこそ『親』だ」と確信を持っていたのです。

 

 

 

 

 

ですが、伝わらない受験の不安に父親への不信がしだいに募っていきました。

 

 

 

 

 

「賭けをするような気持ちで、本当はこんな言い方はしたくはなかったのですが、思いきって言いました」と彼女はささやきます。

 

 

 

 

 

「新聞は読む時間はあるんでしょ」A子さんは強張る顔をどうすることもできなかったようです。

 

 

 

 

 

ただ「そうだったな」と言って、父親が近寄ってくることを心の底から願っていました。

 

 

 

 

 

「食器洗いと新聞とじゃ、新聞のほうが大切な仕事なんだ」

 

 

 

 

 

銀行に勤める父親を思うと「新聞も大事」というのはA子さんにも十分に理解できました。

 

 

 

 

 

でも、この場で言っていることは「食器とか新聞じゃない」とA子さんは言いたかったのです。

 

 

 

 

 

父親に伝えきれない自分にも腹立たしかったようです。

 

 

 

 

 

食器と新聞はA子さんの心のなかで、別な言葉に置き換えられていきました。

 

 

 

 

 

「家族と仕事じゃ、仕事のほうが大切なんだ」そう思うと、A子さんは父親との関係を持つことに「見切り」をつけたといいます。

 

 

 

 

 

もう3年になります。A子さんは父親とは通常口もきかず、顔を合わせることもほとんどありません。

 

 

 

 

 

あるとすれば、朝方まで続く暴言の一夜だけなのです。

 

 

 

 

 

「わたし一人がバカみたいとあのとき思ったんです。ずっとわたし、いざというときには父はあえて言わなくても察して向き合ってくれる人だと思い込んできたんです。

 

 

 

 

 

わたし「いい子」だったんですね。父は「いい子」のわたしを利用してきたんですね。

 

 

 

 

 

そう思うとわたし、利用されてきたことが悔しくて、一つひとつを確かめたくて何度もこだわってしまうんです。

 

 

 

 

 

そして、自分を納得させるために父だけでなく母や弟、友達までその利己的な態度を徹底的に責めてしまうんです。

 

 

 

 

 

当然、そんなわたしは嫌われていきます。でもどうしようもないんです。すっきりできるまで「確認」したいのです。

 

 

 

 

 

でなければわたしって報われないじゃないですか」

 

 

 

 

 

一日に何度も「すっきりしなければ」と手洗いされた赤くはれあがった痛々しい手が、わたしに「傷つきやすい子どもたち」が自分の存在感を獲得しにくくなった社会の到来したことを実感させます。

 

 

 

 

 

いい子は豹変する?

 

 

 

 

 

ひきこもりやニート・不登校の相談を始めて約20年が経過しました。深い悩みを背負う子どもたちと数多くの出会いをしてきて、かなり高い割合で共通することがいくつかあります。

 

 

 

 

 

その1つが、各々はかつては親や先生にとって本当に「いい子」だったということです。

 

 

 

 

 

それだけに今の「生き地獄」の現実に多くの親は、困惑しきっているのです。

 

 

 

 

 

子どもの何をどう受けとめ、対応したらいいのか「これまで楽しかったぶん、混乱に慣れていないのでまったく見当がつかない」と、ある母親は言います。

 

 

 

 

 

そして、A子さんのような子どもたちの相談に触れるたびに何とも言えない「切なさ」を、わたしは感じてしまうのです。

 

 

 

 

 

それは子どもの健気な心に、親や周りの大人が安住し、気づかすに傷つけてきたからです。

 

 

 

 

 

それはそのまま子どもにとっては「透明な存在」の上塗りの歴史なのです。

 

 

 

 

 

今、子育てを振り返り、そのことに親も気づいたとき、子どもは「報われなさ」を感じ、「子どもが親を信じていたからこそ、耐えていた健気な心を軽く見られていた」とショックを受け、そこに感情の行き違いを生んでいるのです。

 

 

 

 

 

そして、その不信という「汚れ」を取り除こうと一人思い悩み続けた結果として、洗浄や確認といった強迫行為にこだわっている子が増えているように思えるのです。

 

 

 

 

 

また、親自身もそのことに気づくほどに、取り返しのつかない子育てのやり直しのきかない身に心を痛めているのです。

 

 

 

 

 

「いつまでも、いい子の俺にあぐらをかくな!」と、親に踏み潰された健気な心情を吐露し、高校を中退した子どもがいました。

 

 

 

 

 

その悔し涙に大人はどう向き合っていけばいいのでしょうか。

 

 

 

 

 

「子育てにやり直しはきかないが、見直すチャンスはある」と、見ていく姿勢がそこに問われているように思います。

 

 

 

 

 

子どもから初めて聞く「悪態」を悪態として受けるのか、見直すための「宝物」として受けるのか、捉え方一つで方向は大きく変わってきます。

 

 

 

 



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