人間関係に苦慮する発達障害の人たち
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人間関係に苦慮する発達障害の人たち

2019年05月12日(日)12:57 PM

知的な遅れのないLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、自閉症などの発達障害のある子どもというのは、通常の学級に在籍している場合が多いのですが、集中力が続かない、空気が読めないということから、周りの子どもとの軋轢が生じやすいと言えます。

 

 

 

 

以前、あるお父さんから相談を受けたことがありました。そのお父さんは40歳前くらいに結婚し、お子さんは当時、中学1年生になったばかりということでした。

 

 

 

 

 

そのお子さんを仮にA君としておきましょう。一人息子のA君は、5歳のときに広汎性発達障害(PDD)の診断を受けていました。

 

 

 

 

 

わたしの判断ではお父さんの話からするとアスペルガー症候群だと思われます。

 

 

 

 

 

よくしゃべるお子さんで、その場にそぐわない発言をするということでした。

 

 

 

 

 

小学校高学年のときには、隣に住む40歳ぐらいの叔母にあたる方に毎日のように「今日も化粧が濃いねえ」と言っていたそうです。

 

 

 

 

 

その発言をやめさせるのに苦労したそうです。中学校に入学したてのことでした。

 

 

 

 

 

その学校では、毎年5月にクラス対抗の合唱コンクールというのがあるそうです。

 

 

 

 

 

学年別の課題曲1曲とクラスごとに決めた自由曲1曲の合計2曲を体育館のステージで歌い、先生方から審査委員を7人決めて審査します。

 

 

 

 

 

学校の伝統行事にもなっていて、かれこれ20年ぐらい続いていると言います。

 

 

 

 

 

中学校に入学したての時期というのは、まだ周りの生徒の様子をみんな見ている時期で、合唱の練習であまり大きな声を最初から出せないものです。

 

 

 

 

 

A君のクラスも最初、あまり声を大きく出して歌っている生徒はいなかったようです。

 

 

 

 

 

A君は、周りのそんな気持ちを汲みとることができません。

 

 

 

 

 

中学校に入学してすぐの合唱コンクールであっても、A君にしてみれば一生懸命やるのが当たり前なのです。

 

 

 

 

 

ですから、A君だけはクラスで行った最初の練習から、ありったけの大きな声で一生懸命に歌っていたのです。

 

 

 

 

 

それを見て周りの生徒たちは、違和感を覚えて冷ややかに笑っていたそうです。

 

 

 

 

 

A君は、だらだらとしていてまじめに練習に参加しない他の生徒たちが許せません。

 

 

 

 

 

許せないと思ったら、一生懸命に訴えかけます。思ったことをすぐに口に出してしまうところがあったのです。   

 

 

 

 

 

「みんな、中学校で最初の合唱コンクールじゃないか!もっと大きな声を出そう!」

 

 

 

 

 

それを聞いた周りの生徒たちは、さらに冷ややかな視線を送り、A君から距離を置きます。

 

 

 

 

 

周りの生徒が悪いと言っているわけではありません。周りの生徒の中にもA君と同様に、中学校最初の合唱コンクールなのだから、がんばらなければいけないと思っている生徒はたくさんいたのだろうと思います。

 

 

 

 

 

しかし、最初から訴えかけても事はうまくいきません。今は黙っていようと思っていたんだろうと思います。

 

 

 

 

 

彼らは周りの空気を読んでいたのです。そして、だんだん本番が近づいてくれば、大きな声で歌うようになるだろうと思っていたのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

大げさに言えば、自分を抑えて黙っているわけです。くだけた言い方にすると、自分に嘘をつけるのです。

 

 

 

 

 

十分な合唱ではないけど、今はこれでいいんだと嘘がつけるわけです。そうして周りとうまく調整していこうとしているのです。

 

 

 

 

 

周りと協調するために嘘をつくということが大切なときもあるのです。わたしはかねがね思っています。

 

 

 

 

 

「社会性とは、嘘をつけること」だと。それも相手を傷つけないように嘘をつけることではないかと思っています。

 

 

 

 

 

自分の利害や保身のための嘘ではありません。それは、相手のことを思って、相手の心を推測して相手を傷つけないように嘘をつくことを意味します。

 

 

 

 

 

ここには、相手を思いやる気持ちが含まれているわけです。たとえば、待ち合わせをしていた相手が、どう見ても変な洋服の合わせ方をしているとします。

 

 

 

 

 

50歳の男性が、赤い縦じまのTシャツに黄色い横じまの半ズボンです。彼からは、いかにもがんばって洋服を選んだんだぞというオーラが出ているとします。

 

 

 

 

 

「変な洋服の合わせ方ですね。それでよく外に出られましたね」彼に対してそのような言い方はできないはずです。

 

 

 

 

 

「若々しくていいですね。どこに行っても目立ちますよ」相手の気持ちを察して、少し嘘をつくのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

それが、この相手とうまくやっていく秘訣だったりするわけです。

 

 

 

 

 

別に、赤のTシャツを着ようが、黄色の半ズボンをはこうが命に危険が及ぶわけではないのだから本人がいいならそれでいいのではないかと思います。

 

 

 

 

 

そして、相手は少しでも若さを見せたいんだということが見えますから、その若さについて褒めるのです。

 

 

 

 

 

同じ嘘でも相手を思いやっているわけです。A君はそれができません。アスペルガー症候群のある人の場合、その瞬間に重きを置いて、空気を読むことが苦手なことがよくあります。

 

 

 

 

 

正しいことは正しいと、まだ言わなくてもいいことでも言ってしまいます。

 

 

 

 

 

練習の一件の後、A君はクラスの何人かの生徒たちからからかわれるようになってしまいました。

 

 

 

 

 

その中のひとりの男子生徒の発言に次のようなものがありました。

 

 

 

 

 

「Aのような『ガイジ』が、何でクラスにいるんだ!」この発言の意味が、A君には分かりませんでした。

 

 

 

 

 

家に帰って「ガイジ」ってどういう意味なのかを父親に聞きました。

 

 

 

 

 

父親は、学校に相談しようかどうしようか悩んで、関東自立就労支援センターに相談に来たのです。

 

 

 

 

 

全国の学校でこのような「ガイジ」という言葉を使った差別事象が頻発しているようです。

 

 

 

 

 

わたしは約20年間にわたってこの仕事をしてきましたが、その当時からこの言葉による差別事象に出会っています。

 

 

 

 

 

「ガイジ」という言葉を知らない方のために解説します。この言葉は、「障害児」の「障」を略した言葉です。

 

 

 

 

 

そもそも「障害児」という言葉自体にもこの「害」という言葉により差別的なニュアンスを持つのかもしれません。

 

 

 

 

 

よって、「障がい児」と記述したり、「障碍児」と記述したりする方もいると思います。

 

 

 

 

 

「害」という漢字を使いたくないという場合に、「碍」を使ったり、ひらがな表記をしたりしているものと思われます。

 

 

 

 

 

「障害」という漢字が法律など一般的に広く使用され、普及している現状から差別的意味合いなどの検討を行った上で、わたしは使用することをここに示しておきます。

 

 

 

 

 

「ガイジ」は頭の文字「障」を略すことに悪意が感じられます。

 

 

 

 

 

害のある子どもという意味合いを強調するという意図があるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

そして、その使われ方も多くは、障害のある方を指すために使っているのではなく、「人と違った子」や「ちょっと変わった子」など少数派の子どもに対して使われています。

 

 

 

 

 

そこには、蔑視のニュアンスを明らかに感じる差別語であり、侮辱語です。直接的に使うのではなくひっそりと陰で使う隠語的な性質も持ち合わせています。

 

 

 

 

 

使っている子どもは、このような意味を知らずに相手をバカにしたり攻撃したりするときに使うこともありますし、「障害児」をバカにするときに使う言葉だと分かったうえで障害児以外の人をバカにしたり蔑んだりするときに使っています。

 

 

 

 

 

集団の一部から出た差別事象は、その一部だけの問題ではありません。差別というのは構造的なもので、周りとの関係のうえで表に出てくるものなのです。

 

 

 

 

 

「ガイジ」と発言した生徒だけの問題ではなく、この差別発言をした生徒は、周りがこの差別発言を支持するかまたは黙認する雰囲気があるから言ったのです。

 

 

 

 

 

この差別発言を否定する雰囲気を持った集団においては、差別発言が表に出ることはないのです。

 

 

 

 

 

たとえ発生したとしても、発言直後に本人または周りの者の気づきによって消失します。

 

 

 

 

 

ですから、問題を提起する相手は、差別発言をした個人ではないのです。

 

 

 

 

 

この差別発言をした集団や、その集団に差別を許す風土をつくっている何ものかを正さなければ解決はありません。

 

 

 

 

そして、この「ガイジ」という発言は、一度使われ始めると、蔓延していく傾向を持っています。

 

 

 

 

 

A君の周囲の障害を持った人が、その事件の当事者ではないにもかかわらず「ガイジ」と罵られるようになり、大きな痛手を受けてしまうのです。

 

 

 

 

 

直接的な矛先が向かってこなくても、周りの「障害者」の心を硬くし、さらに、将来、差別をなくして明るい未来をつくっていこうとする人たちに対しても傷をつけていくのです。

 

 

 

 

 

このために、障害者やその家族までもが差別的な扱いを心理的に受け、自立と社会参加を阻む原因になってしまうことも十分に考えられるのです。

 

 

 

 

 

この「ガイジ」という言葉は、「使ってはいけない言葉」として禁句として抑え込むのではなく、誰に対して使おうと障害者を差別する言葉であり、その方々の心の痛みをまったく感じないとしか考えられない冷血な言葉であり、「使わない言葉」であるという意思を持たせるように、すべての子どもたちに理解させ、使わないという雰囲気を持った集団をつくらなければなりません。

 

 

 

 

 

そのためには、「人間というのは隣と違って当たり前」という多様性を尊重する思想的理解を持たせることが大切ではないかと考えています。

 

 

 

 

 

それが誰にとっても過ごしやすい社会環境なのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

これは、いじめも同じです。いじめをしてもいい、黙認できる雰囲気が集団にあることが問題なのです。

 

 

 

 

 

いじめをした本人を罰すればいいという考え方ではなく、いじめを許してしまった集団をどう変えていくかという構造的な問題という視点に立って議論が進められなければまったく意味がないように思われます。

 

 

 



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