父子関係と家庭内暴力
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父子関係と家庭内暴力

2019年05月08日(水)3:40 PM

「いいんだよ、お父さん。こんな僕でも心配だという”証”がほしかっただけなんだ」

 

 

 

 

 

A君(20歳)は心の中でこうつぶやくと、立ち去ろうとする父親に、この気持ちを伝えるかのように音をたて、玄関のカギを強く開けました。

 

 

 

 

 

父親を拒絶し、母親と二人で”ろう城”してから三回目の「父の日」を迎えたA君です。

 

 

 

 

 

わたしは彼からの張りのある電話の声に、梅雨のうっとうしさをしばし忘れ、耳を傾けました。

 

 

 

 

 

A君は口数の少ないおとなしい子で、両親や近くに住む父方の祖母にとっては「手のかからない育てやすい子ども」でした。

 

 

 

 

 

父親は中学校で英語の教員をしていましたが「無口でNHKしか見たことがないことを九州男児の誇りにしていたようでした。

 

 

 

 

 

逆らわないとニコニコ調子よく優しかったのですが、『お父さんはな・・・・』と話しかけてくれたり、僕の名前を呼んでくれたりしたことがなく、『ちゃんとしとけ、勉強しろ、いい加減なことはするな』が口癖でした」とA君は思い返します。

 

 

 

 

 

周りから見たら「穏やかな先生の家」でしたが、それは父親が機嫌を損ねると一週間もまったく口をきかなくなるので、家族全員が「不機嫌」という暴力に耐えていたのです。

 

 

 

 

 

父親の転勤からA君は中学を僻地の学校で迎えました。父親は街に出て学習問題集を山のように買うと、早朝五時からA君に覆いかぶさるようにして教えました。

 

 

 

 

 

A君があくびをすると教科書を片付け「こんな簡単なこともわからないのか」と言って怒鳴ると、また持ち出してきては優しく教えてくれました。

 

 

 

 

 

いつの間にか、A君は「お父さん」と呼んでいない自分に気がつきました。中二になると、父親との愛情確認もこめて「お父さん」と言ってこわばりながら父の日のプレゼントを渡していました。

 

 

 

 

 

高校は進学校で、「友だちはライバル」でした。高二の冬、A君は「責任を取れ」とコンパスで頭をつつきながら父親に迫り、「お前もバラバラになれ」と関節技をかけて締め上げました。

 

 

 

 

 

息子の突然の暴力に驚いた父親は、ひきこもりや不登校、家庭内暴力に関する本を読みあさりました。

 

 

 

 

 

そして「無抵抗になり、逃げることもできないほどおびえていた」といいます。

 

 

 

 

 

「卑怯者」とA君が言うと、父親は「まじめに生きてくれ」と言って妹の手をとって家を出て、祖母のところに逃げ込みました。

 

 

 

 

 

A君は「あんな男となぜ結婚したんだ」と母親を激しく責め、「お前を奴隷にするんだ」と、日常的に暴力を振るいました。

 

 

 

 

 

「物心がついたとき、父はいませんでした。わたしは父親のモデルがないまま父親になっていました。

 

 

 

 

 

だから息子を見ると、”父親らしく”なろうと構えてしまい、一人で混乱していたんです」。

 

 

 

 

 

一年前に相談に来られた父親の”弱音”でした。

 

 

 

 

 

以来、毎日何かの用事を母親に伝えるかのようにして「わが家」を訪ね、高校を中退して20歳を迎えた心細いA君の気持ちにわびてきました。

 

 

 

 

 

「逃げないで、腫れ物に近づいてきた父親に僕は安心したんです」

 

 

 

 

 

万歩計を父の日にプレゼントしたA君の声を聞きながら、わたしは、思いには思いで返すことの難しさを改めて痛感しました。

 

 

 

 

 

親であること

 

 

 

 

 

関東自立就労支援センターの活動を取り上げて放送されたテレビ番組は大きな反響をいただきました。

 

 

 

 

 

数日間、電話が鳴りっぱなしでした。以前に取り上げられたときには、登校や就職を拒否してひきこもり続け、途方に暮れる当事者(本人、親)からの問い合わせが圧倒的でしたが、今回は違いました。

 

 

 

 

 

高度経済成長期を支え、身を粉にして働き続けてきた世代が一方で大切なものを見落としてきたのではないか、というテーマが視聴者の心を揺さぶったのかもしれません。

 

 

 

 

 

「立ち止まって、価値観を問い直すことができました」といった電話が多くの父親から寄せられました。

 

 

 

 

 

番組の中で、ある少女と少年が父親に言います。「お父さん。お父さんの栄転が家族にとっての栄転じゃないのよ」

 

 

 

 

 

「僕はお父さんとただキャッチボールがしたかったんだ。でも、いつもお父さんは”野球の練習”だった」

 

 

 

 

 

この子たちの切ない気持ちを、父親たちが理解しようと努め始めてくれました。

 

 

 

 

 

電話を受けていて、わたしはうれしく思いました。しかし、親と子の関係はそう簡単ではありません。

 

 

 

 

 

高校中退後、十年間引きこもり続ける息子を持つ父親が、番組の中でこう語ります。

 

 

 

 

 

「わたしは来年、定年です。わたしの人生に残されているのは、息子のことだけです。

 

 

 

 

 

もしわたしの”野垂れ死に”とあの子の自立が交換できるなら、わたしはそれをいといません」

 

 

 

 

 

コメンテーターの男性が、この父親の言葉に一瞬絶句して涙ぐみました。そしてこうつぶやきました。

 

 

 

 

 

「高度経済成長と引き換えにされてしまった子どもたち・・・・。わたしもこの父親と同世代ですが、多くの父親が同じ気持ちだと思います」

 

 

 

 

 

このシーンを見た何人かの母親から「子を思う父親の愛情の深さに目頭が熱くなりました」という言葉を聞きました。

 

 

 

 

 

関東自立就労支援センターが開いている「父親ミーティング」の参加者も同じ反応でした。

 

 

 

 

 

でも、子どもたちは違います。親や先生にとって”いい子”で育ち、願いどおり「一流企業」に入って数ヶ月後、「気遣いしながら働くのがつらい」と出社を拒否した青年は言いました。

 

 

 

 

 

「母親の次は父親か。うっとうしいな、やめてほしいよな。なんで子どものために親が野垂れ死にしなきゃならないんだ」

 

 

 

 

 

彼はさらに言います。「我が子を思う気持ちはうれしい。けれど”かわいさ”だけで行動しないでほしい。

 

 

 

 

 

子どもは親の気持ちもわかるから、これ以上は俺の勝手にさせてくれ、とは言えない。

 

 

 

 

 

特に”いい子”の僕なんか、いつも守られて育ち、自分を守ることができなくなってしまった」

 

 

 

 

 

子を思う親の愛情の深さが度を越すと、子どもは親の存在がうっとうしくなります。

 

 

 

 

 

その境界を教えるマニュアルはなく、お互いの関係の中で見つけるしかありません。

 

 

 

 

 

だから「親になる」ことはやさしいですが「親である」ことは難しいのです。

 

 

 



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