ひきこもり相談事例~24歳の女性のケース~
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ひきこもり相談事例~24歳の女性のケース~

2019年03月29日(金)3:41 PM

S子さんのお母さんが関東自立就労支援センターに電話をかけてきたのは、昨年のクリスマスの直前でした。

 

 

 

 

 

娘さんがずっと長い間自宅から出られないでいて、家庭訪問をしてくれるところを探していたようです。

 

 

 

 

 

たまたまインターネットで見つけた私たちのホームページを見て、娘さんに勧めてみたらやってみたいと言ったので、連絡をしてみたということでした。

 

 

 

 

 

私は早速家族と会い、本人の様子と外出できなくなった経緯を伺いました。

 

 

 

 

 

家族の話によりますと、S子さんは大学時代に一人暮らしをしていましたが、学校での人間関係と学業のつまずきが直接のきっかけで体調を崩し、急に実家に戻ってきたと思ったら、それから一歩も外出しなくなったようです。

 

 

 

 

 

また、三年前に大学を退学しましたが、最近は家で一人でいられないくらい緊張感が高く、精神的に調子が悪い時は家族が音を立てることすら制限するといいます。

 

 

 

 

 

面接の場でS子さんの姿がなかったので訊ねてみると、S子さんも私の来訪を知っていますが、緊張のあまり前日から自室から出られないと家族が言いました。

 

 

 

 

 

結局、私は廊下に立って、ドア越しに本人に話しかけて初回の面接が終了しました。

 

 

 

 

 

ドア越しのカウンセリングはそれから数回続きました。

 

 

 

 

 

毎回二○分前後ですが、声が出ないというS子さんに対して、私は筆談を試み、関係が少しできた段階で部屋に入ることが許可されました。

 

 

 

 

 

 

きちんと整理された部屋はほとんど無色の空間になっていました。

 

 

 

 

 

私が入っただけでS子さんは過呼吸を起こしたので、私はまずその対応に追われました。

 

 

 

 

 

少し落ち着いたS子さんとあらためて会話を交わし、二人の間では、疲れない程度の面談時間の設定、目指す目標などの話し合いが行われました。

 

 

 

 

 

ついでに、S子さんからいくつかの幼少時のエピソードを伺いました。

 

 

 

 

 

S子さんの感覚では、自分は小さいころから人と関わるのが苦手だったようです。

 

 

 

 

 

幼稚園ではどう声をかけたら遊び仲間に入れてもらえるのかがわからなかったし、小学校でも上手に遊ぶことができなくて、気がつくといつも一人になっていたと言います。

 

 

 

 

 

中学や高校では、人と関わる苦手意識をなんとかしたくて、できるだけ友達を作ろうとがんばったのですが、逆にいじめにあって人としゃべる時の緊張感はその時に始まりました。

 

 

 

 

 

緊張感は授業も何もが自由に選択できる大学ではいっそう高まり、友人と会話しても頭の中が真っ白になりました。

 

 

 

 

 

あまりの苦しさで、とうとう学校にも行けなくなったのだと言います。

 

 

 

 

 

対人関係の苦手さから始まった緊張感がいじめによって汎化し、大学を中退したことが挫折としてさらに加わり、結果として過敏な感覚が形成されたと理解したカウンセラーは、人に対する基本的信頼感の回復、長年のひきこもりによる身体感覚の回復、対人関係に関するソーシャル・スキルのトレーニングが必要であると感じ、S子さんにステップを踏んでのプログラムを提案し、了承をもらいました。

 

 

 

 

 

他者に対する信頼関係の回復は、安定した面接構造の中でカウンセラーと向き合いつつ形成されます。

 

 

 

 

 

私は本人に対して侵入しすぎないように気をつけながら、S子さんの語りに沿って丁寧に話を聞きました。

 

 

 

 

 

 

特に語りの中で不安になった時は先を急がず、呼吸法や筋弛緩法を取り入れながら、S子さんにリラクゼーションの方法を教えました。

 

 

 

 

 

このようなセッションを重ねるなか、S子さんはだんだんと自分の緊張と向き合えるようになりました。

 

 

 

 

 

面談が続いたある日、S子さんの方から外に出てみたいという言葉が出ました。

 

 

 

 

 

私にとって嬉しい言葉ではありましたが、長年外出していなかったS子さんにとって、いきなりの外出は外傷体験を増やすことにもなりかねません。

 

 

 

 

 

そこで私は、ステップを踏んで外出することを提案しました。

 

 

 

 

 

最初は空気を感じることから始まり、それから少しずつ距離を伸ばし、最終的にはより人の多いところに行けるようになるプランでした。

 

 

 

 

 

玄関まで行き、靴を履くところからスタートしたS子さんは、最初はそれだけで顔面蒼白になってパニックになりました。

 

 

 

 

 

最初の本格的な外出は近所の散策でした。

 

 

 

 

 

S子さん本人も私もかなり緊張しましたが、たまたま田んぼのあぜ道に落ちている色とりどりの落ち葉に眼をとめ、私がそれを拾い集めると、S子さんも夢中になって拾い集め始めました。

 

 

 

 

 

結果として、過呼吸発作もなく、S子さんは外に行くことの緊張感がずいぶん低下したことを実感することができました。

 

 

 

 

 

ソーシャル・スキルトレーニングは、散歩の途中にあるコンビニエンスストアが舞台となりました。

 

 

 

 

 

簡単な買い物から店員との会話までがここで行われ、さらにそこからコンサートのチケットを入手することもできました。

 

 

 

 

毎回、人間の表情と言葉のずれや表情の読み方について、二人で話し合いました。

 

 

 

 

 

やがて、S子さんの外出に関する緊張がかなり低減するようになり、歯医者に行くなど自分の体を治療することもできるようになりました。

 

 

 

 

 

両親の勧めで精神科に受診することも開始されました。病院では、自分の症状を説明することができ、医師から緊張感や不安感を鎮めるための薬を出され、S子さんが自分の緊張を自分の力と薬でコントロールできるようになって面談は終結になりました。

 

 

 

 

 

S子さんの事例を使って、ひきこもりカウンセリングを行う際の留意点を整理してみましょう。

 

 

 

 

 

(1)ひきこもりカウンセリングを開始するにあたって、事前にアセスメントすることが大切です。ひきこもりは単一の疾病ではないので、精神的障害や発達障害などが背景にあるかどうかについて、まず専門的な見立てが必要です。

 

 

 

 

 

その見立てに従って、関わり方(カウンセリングスタイル等)が定まります。

 

 

 

 

 

(2)ひきこもりカウンセリングでは訪問相談を行うことが多いですが、緊急対応が必要な事例以外は本人の緊張や不安を十分に理解しつつ、積極的に関わることです。

 

 

 

 

 

最初から出会えなくても、会いたいこと、会う必要があることを明確にアピールする必要があります。

 

 

 

 

 

(3)対象である本人の気持ちが落ち着いてから、外出に関して具体的な目標設定を行います。

 

 

 

 

 

S子さんの事例のように、長年ひきこもり状態にいる人は外出に関する自然な姿勢を忘れていることが多いです。

 

 

 

 

 

継続した外出行動をとらせるためには、身体感覚を養うトレーニングやさまざまなソーシャル・スキルの確立が必要です。

 

 

 

 

 

しかし、その練習は本人の外出に関する動機付けに支えられています。

 

 

 

 

 

したがって、本人の希望を聞きつつ具体的な目標設定を行うことが必要です。

 

 

 

 

 

おわりに

 

 

 

 

 

ひきこもりカウンセリングをしながら、私がいつも思うのは、「社会的なひきこもり」になっている人たちこそ実は最も社会そのものを強く求めている人たちではないか、しかしあまりにも不器用に強く求めすぎたため、逆に社会に傷つけられ、挫折したのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

もしそうだとすると、その人たちが社会と向き合えるためには、まず「社会」に押し潰されない「自分」を手に入れ、「自分」と「社会」との関係を定めることから始めなければなりません。

 

 

 

 

 

一日も早く多くの人たちがその関係性をつかめるように願っています。



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団体概要
団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
大橋秀太
理事:
大畑健太
理事:
杉下真理
住所
東京都東久留米市浅間町1-12-9
TEL
042-424-7855
メール
ki6jt7@bma.biglobe.ne.jp
活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
・共同生活寮の運営
・教育相談の実施
・各種資格取得支援