暴力やしつこい要求への対応
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暴力やしつこい要求への対応

2018年05月27日(日)2:50 PM

 

ひきこもりにおいてしばしば周囲を悩ませる問題として、家庭内暴力やしつこい要求やこだわりがあります。これらはいずれもひきこもりのプロセスにおいて本質的なものではありません。

 

 

 

 

 

しかし、これらは的確に対応しさえすれば、ひきこもりのプロセスを先に進めるうえでの効果的な手がかりとすることができるものでもあります。このため、ここで説明をしたいと思います。

 

 

 

 

 

(1) 大きな暴力への対処

 

 

 

「不登校の場合の家庭内暴力」

 

 

 

 

 

稲村博氏はその著『家庭内暴力』(1980)の中で、不登校の場合の家庭内暴力について取り上げ、1970年代からの新しい現象であり、また日本特有の出来事としています。

 

 

 

 

 

家庭内暴力の初期の対応について、稲村氏は次のように振り返っています。初期の家庭内暴力について忘れられないのは、多くの場合に統合失調症(当時は精神分裂病)と誤解したことである。

 

 

 

 

 

かつての常識からすれば、子どもが親に向かって暴力を、それも徹底した暴力をふるうなどということは普通には考えにくいことであった。

 

 

 

 

 

よほど親の側に極端な問題があって、子どもがそれに耐えきれないためか、そうでなければ精神病に罹患して、判断力がないとか抑制ができないなどのいずれしかありえなかったから、精神病と考えても不思議ではなかったわけである。

 

 

 

 

 

しかも、本人に罪の意識はなく、自室に閉じこもって無為寡動の生活をし、昼夜は逆転し、表情などもすべて破瓜型分裂病によく似ていた。こうして、統合失調症とみて無理に入院させたり、大量の向精神薬を投与したわけである。

 

 

 

 

 

ところが、やがて統合失調症と言いきれない例が目につきはじめ、むしろそちらのほうが多くなってきた。しだいに本態が明らかになり始めたのである。こうした試行錯誤を通して、また事例を重ねて、やっと少しずつこの現象がわかるようになり、対応も適切さを増しながら今日に至ったのである。

 

 

 

 

 

これは、不登校の場合について述べたものですが、現在のひきこもりについても類似の状況にあると言えます。「ひきこもりが続いていて家庭内暴力があるため、家族が精神科の医師に往診を依頼したところ、そのまま入院となり、半年後に診断がつかないまま退院となったものの、何のフォローアップもなかった」といった話を家族から聞くことは今なお珍しいことではありません。

 

 

 

 

 

稲村氏は、家庭内暴力のあるケースにあっては、家族(特に母親)へのカウンセリングから援助を始め、本人の相談参加につなげるアプローチを提示しています。そして、今起きている暴力については、家を出て一時的に避難し、その後できるだけ早く家に戻ることを提案しています。

 

 

 

 

 

これは今日においても正しい対応であると言えますが、これだけでは十分ではありません。暴力からの避難、回避だけでなく、その具体的な手順を示し、それを治療的な手がかりとする工夫もまた必要だからです。

 

 

 

 

 

「初期の家庭内暴力」

 

 

 

 

精神科医の斉藤環氏はその著「社会的ひきこもり」(PHP新書)の中で、ひきこもりの場合の暴力への対処法について、より具体的な説明を行なっています。

 

 

 

 

 

斉藤氏によると、専門家が関与して慎重に行なうと、家庭内暴力の鎮静化は100%うまくいくとされます。齊藤氏は、「暴力の拒否」を基本に、家庭内暴力への対応を初期のものと慢性的なものに分けています。

 

 

 

 

 

まず始まって間もない初期のものについては、「刺激をしないこと」を鎮静化のポイントとしています。「これからどうするの?」といった本人への刺激は、最初の混乱期に引き戻す作用がありますから、刺激をしないようにするというのは基本的にいつでも必要な配慮と言えるでしょう。

 

 

 

 

 

そしてまた、遅かれ早かれ家族は、本人の不安定さを目の当たりにして、刺激すのはよくない、刺激を避けようという態度を暮らしの中で学び取ることになります。

 

 

 

 

 

では、刺激をしない代わりに何をしたらいいのでしょうか。斉藤氏は、ここで共感的理解とコミュニケーションの必要性を強調しています。

 

 

 

 

 

「慢性的な家庭内暴力」

 

 

 

 

 

同じく斉藤氏は、慢性的な家庭内暴力の鎮静化のポイントをあげています。その主なものは、極端な暴力をチャンスにして、別に部屋を借りるなどして避難別離を実行する、その後の一ヶ月から半年をかけてゆっくり戻るチャンスをうかがうなどです。

 

 

 

 

 

これに加えることがあるとするなら、本人とはお金を与える約束をするなどして、生活を破綻させないという点くらいでしょうか。ただし、これは大きな暴力があったときのことであり、いわば破局のタイミングを探りながらの介入の提案といえます。では、もっと小さい暴力への対処はどうすればいいのでしょうか。

 

 

 

 

 

小さな暴力への対処

 

 

 

 

 

多少の暴力は我慢?

 

 

 

 

 

小さな家庭内暴力が小刻みに続いていくような場合は、多少の暴力は我慢するしかないのでしょうか?そんなことはありません。それが対人暴力である限り、決して我慢することはありません。

 

 

 

 

 

小さい暴力であっても、放置したり我慢したりすることなく、きちんとした対処をすべきです。初期の家庭内暴力であっても、腫れ物に触るように「刺激をしない」だけであれば、しだいに家族関係の硬直化が進みます。

 

 

 

 

 

そうすると、家族はいっそう無防備になり、さらに家庭内暴力がエスカレートしていくことになります。では、刺激をしない代わりに何をすればいいのでしょうか。

 

 

 

 

 

危険の回避

 

 

 

 

 

私は、暴力被害の程度や期間の長短を問わず、家庭内暴力の対応の基本は、「危険の回避」が最大のポイントであると考えています。そこに相手がいなければ暴力になりません。

 

 

 

 

 

ですから、「そこにいないこと」(具体的にはいったん家の外に出ること)により暴力が成立しない状況をつくることが必要です。そのとき本人は自分の感情、行動のコントロールが利かない状態にあります。

 

 

 

 

 

怒り、苛立ちなどの感情を統制できないでいる、少なくともそのときには自我が十分に機能しなくなっています。本人にはどこまでが許されることなのか、どこに境界があるのかわからないでいる、いわば一時的な人格障害のような状態にあります。

 

 

 

 

 

そうしたときには、言って聞かせるといった内側からの枠ではなく、これ以上は許されないこと、認められないことという枠を外側からはめてあげることが必要なことです。

 

 

 

 

 

枠をはめ、それを伝える

 

 

 

 

 

そして、何より必要なことは、それと同時にそのことを親から子にきちんと伝えることです。とにかく危険の回避が最優先ですから、暴力があったら、あるいは差し迫った危険を感じたら、何をおいてもまず靴を履いて玄関先に立つことです。

 

 

 

 

 

そして、子どもに向かって、「こんな状況では今はここにいられない。だから、お母(父)さんはここから出るから」とはっきりとしたメッセージを伝えることです。

 

 

 

 

 

これを言わないまま避難だけをすると、本人の側には見捨てられ感が残り、家族が家に戻ることが難しくなります。そして、戻ったとしてもまた同じようなことが繰り返されることになります。ですから、まずこの言葉を伝えることです。それができさえしたら、その後本人が何を言おうと「例外なしに」いったんは家から出ることが重要です。

 

 

 

 

 

余裕のないとき

 

 

 

 

 

ときには、そういったメッセージを伝える余裕さえない場合もあります。そんなときでも、タイミングを見計らってどんな手段を使ってでもいいからとにかくその場から離れるようにします。

 

 

 

 

 

そして、自らの安全の確保さえできたら、時間をおかずに本人に電話して、前述のメッセージを伝えることが必要です。きちんと楔(くさび)を打って、ここから先は許されない、認められないという刻印を残すことが重要なのです。

 

 

 

 

 

本人は自分がどこまで腕を押し出したらいいのかわからない混乱の中で、もがき苦しんでいたのです。外側から枠をはめてもらうことにより、自分の振る舞うことのできるエリアを感じとり、繰り返すごとに落ち着きを見せていくはずです。親への暴力は、避けるだけのものではなく、本人が自らの安定を得るためにも役立てることができます。

 

 

 

 

 

包丁を突きつけられて

 

 

 

 

 

ある母親は、ひきこもりの23歳の息子がイライラして当たってきたので避難しようとしたところ、息子から包丁を突きつけられ、家の中の一室に閉じこめられてしまいました。

 

 

 

 

 

そして、その閉じこめられた部屋から私に電話をかけてきました。事情を聞いた私は、すぐに警察への通報を提案しましたが、母親は警察への通報をためらっています。

 

 

 

 

 

さらに驚いたことに、母親は「私がいなくなったら心配だから、もう少しここにいてあげたい」と言いました。私は、携帯電話の中の母親とともに、これまで母親がずっと息子からの暴力を耐え続けてきたことを振り返り、次のメッセージを伝えました。

 

 

 

 

 

「そんなあなたを、これからもまだしばらく続けていくお考えですか?」母親はしばらく電話の向こうで考えてから、「いや、もうやめにしたいと思います」と答えました。

 

 

 

 

 

ここで、母親は、そしてこの家族は一つの危機を乗り切ったのです。その後、母親は近くに住む親戚に電話して訪問を依頼し、無事救出されました。本人は、玄関に誰か来たということですぐさま自分の部屋に戻り、このため母親は何の危険もなく家を出ることができたのです。

 

 

 

 

 

もちろん、母親は家を出るとき(この場合は玄関先から)自室に身を潜めている本人に向かって「今こんな状態じゃ、ここにいられないからお母さんはいったん外に出るから」というメッセージを残すことを忘れませんでした。

 

 

 

 

 

ある種のコミュニケーション

 

 

 

 

 

家族が家から出るということで枠をはめ、それを伝えるという作業は、ある種のコミュニケーションの構築の努力に他なりません。特に、その後半の「伝える」という作業が不可欠です。

 

 

 

 

 

暴力という危機に瀕した状況ですから、逃げることが先で、そんな悠長なことはしていられないと思うかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。

 

 

 

 

実際には、逃げることもせずに、日常の暴力にはちょっと顔をしかめながらも、一見淡々と家庭生活を続けていることのほうがずっと多いはずです。ひと手間余計にかけるだけの時間はきっとあります。まずはやってみることです。

 

 

 

 

 

家族が家から出るというのは大きな労力のいることであり、せっかくのアクションなのですから、ただで起きないように有効に使うべきです。このように家庭内暴力への対応は、混乱期における危機介入の生活をもつものですが、ここで的確に対応することで安定期に移ることができます。

 

 

 

 

 

 

 



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