子どもを信じるということ
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子どもを信じるということ

2017年09月14日(木)1:08 PM

わたしの長女は高二の頃、「硬派の不良」に憧れ、その頃家族との約束事を反故にすることがよくありました。わたしに似た臆病な性格を変えたくて、あえて向こう見ずな行動に出ているようにも見えました。

 

 

 

 

 

所在を知りたい時間になっても行方不明、友だちに優しいといえば聞こえはいいのですが、見方を変えれば優柔不断で断れない性格なのです。

 

 

 

 

 

人から嫌われることがとても恐いようです。父娘はよくしたもので、やっぱり似ているように感じます。この”弱点”を、いくらしつけや励ましと言い訳しても突けば突くほど、娘は頑なになってコミュニケーションを絶とうとしてきます。

 

 

 

 

 

それに苛立つと、関係はさらにぎこちなくなってしまいます。「もう好きなようにしたら」と、腹いせに捨て台詞でも吐こうものなら、「そうね、好きなようにするわ」と言い切られてしまいます。この瞬間、親の無力さ、ふがいなさを、わが子から突きつけられます。叱咤するしか、諭すしか術のない惨めな父親としてのわたしです。

 

 

 

 

 

そしてあきらめでもなく、なぐさめでもなく、励ましでもなく、わが子でありながらも「肯定」できない自分のいたらなさに。しっかりと出会い苦しみもがくと「光」が差し込んできます。

 

 

 

 

 

それほどに格好のよいものではなく、とどのつまり、これしか残された術がないことに気づくのでしょう。目の前にいる娘をあきらめではなく「ただただ信じる」しか他に道がないことに気づかされるのです。

 

 

 

 

 

そしてその境地に心がすとんとおさまったとき、叱られても、反発しても親の前にいてくれる、家に戻ってきてくれている娘の健気さに、わびる思いがこみあげてくるのです。あるとき、わたしの娘のことを面接中にふっともらしてしまったことがありました。

 

 

 

 

 

「お嬢さんのお話しを聞いて、うらやましいですよ。外に出て友だちと時間を忘れるくらい話し込んでいるなんて。それに比べてうちの息子は高一なのに・・・・・・・。一番楽しいときじゃないですか。友だちと遊びまわる年代でしょう。

 

 

 

 

 

それが、いつも部屋をのぞけば必ず本を読んでいるんです。こんな姿を見ていたら親として不安になってきます。机に向かっていればいいというものではありませんからね。

 

 

 

 

 

でも最近じゃ、返事をしてくれるようになりましたからね。少しはわたしの気持ちも軽くなりました。いままでは怒鳴ってばかりいましたがね、あの子を。

 

 

 

 

 

先日ね、一時間ぐらいあれば車で家に帰ってこれるところを、二時間もかかってしまったんです。この年齢になると安全運転で事故なんか起こしたくありませんからね。

 

 

 

 

 

するとあの息子がね、こう言うんですよ。『おまえ(父親)、そんな年齢になったのか』って。以前なら『おまえ』と言われれば腹を立てて怒鳴っていたでしょうね。

 

 

 

 

 

妻にもわたしがいないと『あいつ、どこへ行った』とたずねるそうです。でも、いくら『おまえ』と言われても、息子と会話をつなげられるチャンスだと思えば、今はまったく抵抗はありませんね」

 

 

 

 

 

五十代前半とは思えないほどに疲れきった感じの父親(行政職員)は、わたしの話を聞きながらわが子について話し始めました。そして、合いの手を求めて母親と視線を合わせました。

 

 

 

 

 

相談室の緊張感がわずかに和らぎました。「そうね、あなたもあの子のおかげ(情緒不安による対人恐怖)で、ずいぶんと丸くなったものね。この人は、つじつまが合わないと徹底的に突っ込むのよね」

 

 

 

 

 

母親は、父親の予想外の受容的なひと言に安堵できたのか、少し微笑みを浮かべて返事をしました。互いをいたわりあう夫婦の尊い姿に、わたしは癒されていく感じがしました。「何を言っているんだ。おまえ(母親)だって、まだ教員くささが抜けていないよ。杓子定規で考えているところがあるよ」

 

 

 

 

 

人とは不思議なもので、変わらぬ現実を抱えていると、ねぎらうのも束の間、やはり誰かを「犯人」にしないではいられないようです。ときに余裕が、やっとたどりつけた謙虚さを再び闇のなかに消してしまうことがあります。わたしは安らぐ自分の気持ちに釘をさしました。

 

 

 

 

 

「なによ、あなたはまだわたしの気持ちを何もわかっていないのよ」高一の彼は、幼児期に発達の遅れがあって小児病院で診察を受けました。その病名はあえて両親に告知するほどのものではありませんでした。しかし、若手の新任医師は、診断名を告げることで医師としての責任を果たそうとしていました。

 

 

 

 

 

言葉や動作が緩慢なことも、すべて病名でかたづけられていきました。ラベリング(診断)は原因や結果に納得を与えても、だからといって彼自身がどうなるものでもありませんでした。

 

 

 

 

 

皆目見当のつかない家庭内暴力を繰り返すわが子を前に、結局、「心の病」を告知され、親の子育て責任をわずかに回避できたときの親の瞬間の落ち着きと、この親子の場合も似ているように感じました。

 

 

 

 

 

そして診断されても、混乱する現実に変化がなければ、背負う痛みは、病名をあるがまま(肯定)に受け入れていくことに尽きます。それは医療への幻想から目覚めるときでもあります。その塗炭の苦しみに、「肯定できるその日」まで医師や関係者がどれだけ寄り添い続けてくれるかは重要です。

 

 

 

 

 

ラベリングして「さようなら」では、されないほうがまだましかもしれません。すねたり、意地悪したり、高飛車になることで自分の存在を誇示するコミュニケーションを身につけるしかなかった彼は、「人から嫌われても仕方がない」と親にさえ思える状態で、小学校に入学しました。

 

 

 

 

 

両親は担任にあえて病名を言いませんでした。将来にわたってこの土地に住むことを思い「色めがね」を心配したからでした。また、言わなければならないほどの「手のかかる子」でもありませんでした。

 

 

 

 

 

彼は友だちから見ても「一緒にいても楽しくない子」になっていきました。いつしか母親は、彼に告知していないこともあってか自分たちの子育ては「甘やかしているにすぎないのではないか」と思うようになっていきました。

 

 

 

 

 

「おまえは担任している子どもには優しいが、わが子にはやたらと厳しかったじゃないか。あの子を褒めるときも、仕方なくほめているように見えたよ。だからあいつには安らぐ場がなかったんだよ。教室のストレスを、あの子にあびせ・・・・・」

 

 

 

 

 

丸くなったはずの父親は遠のき、母親のこれまでを蒸し返し始めていました。「家でも教師だったかもしれない」「そうだよ」親の弱音は、子どもの健気さに気づけるチャンスです。ですが、気落ちする母親に父親の決めつける一言が入って、また母親の感情は高ぶりました。

 

 

 

 

 

「あの子をもっと褒めてくれる先生がいれば、あの子だってきっと変わっていたわよ。あなたは認めていたわけじゃなくて、あきらめていただけでしょう。

 

 

 

 

 

自信をつけさせたくて、おけいこ事にも通わせたわよ。それが結果としては”何もできない子”になってしまった・・・・・。自分で自分の馬鹿さ加減を見る辛さが、あなたにはわかるの?教員でありながら、”教育ママ”になっている自分を見ていたのよ」

 

 

 

 

 

ところが父親のやるせなさが、いつしか母親の感情を鎮めていきました。「わたし、職員室から、あの子と同世代の子どもたちが笑いながら楽しそうに登校してくる姿を見るのが辛かった。動作が鈍くても元気に生きている子を見るのが辛かった。もしかしたら、今だって我慢しているだけで肯定なんかしてないのかもしれない」

 

 

 

 

 

そのときでした。「俺も一緒だ」父親のつぶやきが続きました。「あいつ、よくここまで来たな。来年は高校二年生だぞ。それに”おまえ”って対等に親に口答えするようになったんだもの。もう時間ですね。次回もよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

わたしは大柄な父親に引かれる様にして、相談室の玄関を出る母親の姿を見ながら、また一つ山を越えた夫婦の確かさを垣間見る思いでした。「ただいま、お父さん」わたしとの約束の時間を一時間も前にして、元気に高二の長女が帰宅しました。「ああ、夕食、食べちゃったよ」

 

 

 

 

 

わたしはこの日もまた約束を反故にされるのだろうと思って、先に夕食をとっていたのです。気分の悪い思いを娘にさせたなと思いつつ、「やっぱり、信じることなくして向き合う意味はない」と、あらためて自分に言い聞かせました。

 

 



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