人前で不登校を語る
関東自立就労支援センターでは、不登校の当事者の体験談を聞きたいというみなさんの要請に応えて、彼らのなかから希望者を募って、公衆の前で語ってもらう機会を作り出しています。
そのことによって、学びの機会を社会の中に押し広げようとしてきました。意外にも聴衆の前で話してみたいという若者たちは多いのです。
「語り隊」と称して数人がグループになり、父母や教育関係者、大学生たちの前で個人的な関係や学校論を語ります。
教師志望の学生や教育関係者に向かって語る機会を大切にしているのは、彼らの負の個人的な体験が教育の改善に生かされる機会になるというシチュエーションが必要だからです。
発表後にたずねると、「自分と同じようなつらい体験を子どもたちにさせてほしくない」と、アメリカの精神科医ジュディス・L・ハーマンが『心的外傷と回復』(みすず書房、1996年)で名づけた生存者使命といっていいのでしょうか、そのような思いを込めて語ったと答えてくれます。
いじめられた体験などに触れられることもありますが、不登校にいたったはっきりとした原因については語られることはあまりありません。
自分でも不登校の原因については、よくわからないという人は少なくありません。
むしろ、不登校以後の周囲の無理解や自分のなかの葛藤と苦悩の深さ、居場所との出会いなどが語られ、さらに今では不登校体験をそれも一つの体験であって、それはそれでよかったかもしれないと思えるようになったこと、それよりもその間学んだことをこれからに生かしたいということなどが、自分の経験に即して語られます。
語られるテーマはおおむね共通しているとしても、この語りにおいて「自分の言葉で自分の経験に基づいて語る」ことが必須です。
事前に居場所のスタッフやメンバーたちとすでに何度も対話を続けて「自分の物語」を語り、語り直しながら、発表の準備をしてきています。
そうでなければ、彼らの語りは一般化された「不登校の物語」となりがちで、それは決して聴衆の心を打つものにはなりません。
何よりも、その定型化した「不登校の物語」から生み出される「不登校の子どもは感受性の豊かな優れた子ども、学校を変える旗手」などという言説が、彼らを「あなたもそうあるべきだ」と強迫し支配することになりかねないからです。
さて、発表後の聴衆からの応答が決定的な意味をもつことになります。
「落ち着いてどうどうと話してくれたのには驚きました」「学校に行きたくても行けないというつらい体験にもかかわらず、自分たちよりも多くのことを学んでいるように感じました」などの感想や、あるいは「不登校の子どもたちの気持ちが理解できました」「不登校のイメージが一変しました」「あなたの勇気に感謝します。ありがとう」など、多くの聴衆からの共感的な応答を得て、居場所の外にも自分につながる他者が存在することを感じとることができます。
感想文を持ち帰りじっくりと読み返しながら、自分が認められ、愛され、深い共感を寄せられたことに心からの喜びを感じとり、少し自信が回復したように感じます。
ようやくつむぎ出すことができるようになった「不登校も一つのたいせつな体験であった」という過去へのとらえ直しを「新しい物語」として定着させるためには、「新しい物語」を共有してくれる人々の存在がどうしても必要になってきます。
臨床社会学者である野口裕二氏が『ナラティブの臨床社会学』(勁草書房、2005年)で、「新しい現実は誰かに何度も語られることではじめてそれは『社会的現実』となる。このとき、そのリアリティは、その『語り』を『理解し評価する』人々の存在によって支えられる」と書いていますが、彼らは居場所の外の人々に語りかけることによって自分たちもエンパワーされたのです。
自分が公衆の前で語ったことによって自分の個人的体験が生かされたように感じ、自分が社会的正義の側に少し足を踏み入れたような実感を持つことができ、自分の不登校体験という個人的な悲劇は普遍的な意味を獲得し、意味ある体験へと編み直されていきます。
こうして、居場所の若者たちが自尊や名誉の感情を回復しながらもう一度社会とのつながりを形成していく可能性が広がってくると、自分たちを排除しているかのように映っていた「普通」社会のイメージはやわらかく親和的なものへと再構築されていきます。
彼らが意外にも進んで聴衆の前に立とうとするのは、聴衆の前に立つことによって逃げ出すことなく自分自身とまっすぐに向き合い、長い間自分を苦しめてきた不安感情に整理をつけ、狭い自分の内面世界から新しい現実世界へと歩み出る決断のときを望んでいるからだと思われます。
同伴した他のメンバーたちも、いつか自分も発表者たちのように聴衆に向かって語りたいと思うようになっていきます。彼らにとって非常に貴重な体験となるこの活動は今後も引き続き、続けていきたいと考えています。
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