家庭内暴力~プレッシャーに押しつぶされてしまった少年~
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家庭内暴力~プレッシャーに押しつぶされてしまった少年~

 

 

 

 

 

目つきは鋭い、視線はキョロキョロ落ち着きがない、これが20歳のA君のわたしの第一印象でした。

 

 

 

 

 

特にわたしが注目したのは、A君の目でした。A君は、雄大な富士山が望めるある地方都市の自宅から、関東自立就労支援センターのスタッフといっしょに東京にやってきました。

 

 

 

 

 

そのA君の目ですが、まさに獲物を狙う動物の目つきで、キョロキョロする視線は、獲物を探しているかのようでした。

 

 

 

 

 

その獲物を見つけたら、今すぐにでも暴れだしそうな目つきなのです。

 

 

 

 

 

しばらく話をしているうちに、その目が時折恐怖で怯え、不安そうな目を見せていたことも気になっていました。

 

 

 

 

 

東京駅から今日A君が泊まるホテルまでの約1時間、わたしは車内で彼と話して、彼のいろいろな面を見ることができました。

 

 

 

 

 

まず、この約1時間の間に分かったことは、とにかくよくしゃべるということです。

 

 

 

 

 

車内に入るなり、A君のほうからベラベラ話し始めたのです。それもほとんど一方的で会話をしているという感覚ではありませんでした。

 

 

 

 

 

この約1時間で分かったことは、端的に4つあげられました。「人の話を聞かない」「話はすべて質問形式」「会話につながりがない」「自分の考え、意見がない」というものでした。

 

 

 

 

 

具体的にどういうことかと言えば、彼は一生懸命話をするというかしゃべるのですが、自分中心で、こちらから話をしたり質問したことは一切無視し、そっぽを向いているか、下を向いていて話が終わるのを待っているという態度をとっています。

 

 

 

 

 

そして、彼が持ちかける会話はすべて質問形式で成り立っているのです。

 

 

 

 

 

たとえば「〇〇を知っていますか?」と彼が聞いてきてそれに対して答えると、また次の質問でまたそれに答えると次の質問といった具合で、一つの話題にまったくつながっていかないのです。

 

 

 

 

 

一つ一つ細切れで、話があっちこっちに飛びっぱなし状態なのです。

 

 

 

 

 

しかも話す内容に自分の考え、意見がまったく入っていません。「・・・・・と思います」「・・・・・と考えています」がないのです。

 

 

 

 

 

 

彼の話には、必ず「・・・・・と本に書いてあった」「・・・・・とテレビでやっていた」と付け加えるのです。

 

 

 

 

 

わたしはある注意点も見つけました。それは、必要以上に彼の話の内容に突っ込んで聞いてはいけない、ということです。

 

 

 

 

 

親に対する怒りを爆発させる

 

 

 

 

 

次の日の朝、A君は約束の時間どおりにホテルのロビーで待っていました。

 

 

 

 

 

わたしは彼が朝はしっかり起きられること、そして約束の時間も守れることに安心しました。

 

 

 

 

 

そして、関東自立就労支援センターに連れて行き、他のスタッフや支援を受けている子ども達と簡単な挨拶をして、1時間ほどわたしと話をした後にまたホテルに戻りました。

 

 

 

 

 

A君と別れてしばらくたった午後9時過ぎ、宿泊先のホテルから電話が入りました。

 

 

 

 

 

「あっ、彼が何かトラブルを起こしたのかな!?」と直感しました。そして、その直感は的中してしまいました。

 

 

 

 

 

ホテルの従業員の電話の内容によると、A君の部屋から、「何だよ!テメー!ぶっ殺すぞ!ウルセー!」等、怒鳴り声がすると隣の客から苦情がきたとのことでした。

 

 

 

 

 

わたしは早速ホテルへ直行しました。A君の部屋の近くまで行くと、まだその怒鳴り声は聞こえていました。

 

 

 

 

 

「ウルセー、テメエ!」「あの時、勉強しろって言いやがって、家に帰ったらぶっ殺すぞ!」

 

 

 

 

 

紛れもなくA君の声で、廊下まではっきり聞こえてきました。親に対する怒りの声です。

 

 

 

 

 

わたしはすぐ、彼を部屋の外に連れ出しました。彼の表情は殺気に溢れていました。

 

 

 

 

 

殺気だったこの鋭い目の先には、いったい何が見えているのでしょうか。初対面のときにわたしが感じた不安は、嫌な方向へ的中してしまいました。

 

 

 

 

 

彼の殺気は目だけではなく、体全体がいきり立っていて異様なオーラまでも発していたのです。

 

 

 

 

 

普通ならば、ここで一喝して、「大きい声を出して、何やってるんだよ!」と怒鳴りつけたいところですが、それは火に油を注ぐのと同じで、さらに彼を逆上させてしまうことになります。

 

 

 

 

 

まずは、興奮状態である彼の心の高ぶりを鎮めることが先決です。わたしは彼を連れてホテルの外に出て、話を聞きました。話のすべては両親に対する恨みでした。

 

 

 

 

 

「こんな俺にしたのは親のせいだ!」

 

 

 

 

 

「行きたくもない海外へ、一人で行かせやがって!」

 

 

 

 

 

「勉強しろ、勉強しろ、勉強しないなら仕事しろ、いちいちうるせーんだよ!」などと、同じようなことをしきりに言っていました。

 

 

 

 

 

わたしは、この状態で家に帰ると間違いなく家庭内で犯罪が起きると確信しました。

 

 

 

 

 

実は、彼がわたしのところに来る前まで、家庭内でいろんなことがすでに起こっていたのです。

 

 

 

 

 

父親の顔を見るたびに暴力を振るっていて、そのため、父親は家を飛び出してホテルで生活していたのです。

 

 

 

 

 

家の中はメチャクチャに荒らされていて、いろんなところが壊されていたのです。

 

 

 

 

 

次第に見えてきた3つの原因

 

 

 

 

 

なぜに、どうしてこれほどまでに荒れ狂ってしまったのでしょうか?

 

 

 

 

 

いろいろ話を聞いているうちに、原因らしきものが見えてきました。それは親に対する激しい怒り、海外での体験、勉強への強いこだわりの3つでした。

 

 

 

 

 

親に対する気持ち、これは憎しみ、大きな怒りを持っています。彼自身も今の自分がどうしようもなく、何とかしたいことは分かっていますが、どうしようもなくしたのは親のせいだと決めつけています。

 

 

 

 

 

とにかく父親に対しての反発の感情は特に強いものがあります。幼い頃から厳しくされて育ってきたらしく、「ああしろ!」「こうしろ!」「こうならなければいけない!」等の命令が嫌でたまらなかったと彼は言います。

 

 

 

 

 

それが幼児期から溜まっていて、ついに爆発してしまったようです。彼は人から何か言われたり、注意されることを非常に嫌います。

 

 

 

 

 

一方、母親に対しては、いわゆるマザコンです。母親がいなければまったく何もできません。

 

 

 

 

 

自分自身の身の周りのことも一人では何もできません。

 

 

 

 

 

特に激しいのは、母親と話をすることが習慣づいてしまっていることで、彼が考え悩んだことは何でも相談します。

 

 

 

 

 

その日見たこと、聞いたこと、思い出したこと、しかもその時間帯は関係ないのです。

 

 

 

 

 

夜中の2時、3時でも平気で寝ている母親を起こして話をします。それが夜になると興奮しがちに話をするといいます。

 

 

 

 

 

これを受けていた母親は非常に大変だったと思います。

 

 

 

 

 

もはや、彼は母親の声を聞かないと落ち着かないまでになってしまった状態でした。

 

 

 

 

 

父親に対する気持ちと母親に対する気持ちはまったく正反対で、なおかつどちらも強いものがあります。

 

 

 

 

 

海外での体験では、高校進学のためにアメリカへ留学していますが、その体験が恐怖となってしまったようです。

 

 

 

 

 

アメリカ留学はA君が希望したわけではなく、親が勝手に決めて強引に行かされたというのが実情のようです。

 

 

 

 

 

ましてや、マザコンの彼です。誰も知り合いがいないアメリカで、不安だらけで毎日が怖かったと話半分にしても彼の話しぶりから、その恐怖感がわたしにもヒシヒシと伝わってきました。

 

 

 

 

 

彼が行った留学先は、全寮制の日本人学校で、そこにも彼を不安がらせる要因がありました。

 

 

 

 

 

寮内生活はかなりひどくすさんでいたといいます。寮内でのトラブルは日常茶飯事で、人の物と自分の物の区別もつかない子どもたちがたくさんいて、一日一日がサバイバルゲーム化していたことが、彼の話を通してよくわかりました。

 

 

 

 

 

このような生活にも彼は我慢しましたが、耐えられなくなって日本とアメリカの出入りを数回繰り返し、結局半年も続かず日本へ戻ってきました。

 

 

 

 

 

彼は、繰り返し繰り返しアメリカでの話をしてきました。それだけ相当つらかったのでしょう。

 

 

 

 

 

わたしは彼の心に溜まっているものを吐き出させるために、幾度となくその話を黙って聞き続けました。

 

 

 

 

 

この話をした後の彼は、顔がすっきりして穏やかな表情になるのです。

 

 

 

 

 

そして3つ目の勉強へのこだわりですが、勉強というのは大学のことです。彼は大学へのコンプレックスを非常に強く抱いていました。

 

 

 

 

 

その原因は家族と親戚にありました。両親は大学卒で彼の姉も大学卒で、親戚を見てもまた優秀な家系でした。

 

 

 

 

 

そのような環境で育った分、彼にかかるプレッシャーは相当大きかったようです。

 

 

 

 

 

わたしのところに来る前までは、何が何でも大学に入ることを目標にして、一日中勉強しなくてはならないという強烈なプレッシャーと焦りを感じ、それに耐えきれなくなって弾けてしまったのも要因の一つでした。

 

 

 

 

 

その後、紆余曲折を経て、彼は関東自立就労支援センターの寮に入り、他の寮生との交流をはじめて一から人間関係を学びなおしました。

 

 

 

 

 

そして2年が経過した頃、あれほどまでに目をギラギラさせて殺気立っていた彼の表情は、今ではまったく消えてなくなっていました。

 

 

 

 

 

会話もはじめは一方的に自分の話をするだけでしたが、みんなと溶け込んで話すように成長してきました。

 

 

 

 

 

また、何よりもわたしが驚いたのは、彼が関東自立就労支援センターの共同生活寮での生活を始めて以来、家に1回も帰らなかったということです。

 

 

 

 

 

母親がいないとまったく何もできなかった彼です。一人の生活がよくこんなに続いたものだと思います。

 

 

 

 

 

それは、彼のためにスタッフや他の寮生たちが交代で毎日彼と接点を持ち続けた成果でもありました。

 

 

 

 

 

話好きの彼でしたから、誰かが相手をしてあげれば平気で何時間も話し続けました。

 

 

 

 

 

それをスタッフや寮生たちが一生懸命聞いてあげることを徹底しました。話題のネタが尽きない彼もすごいですが、それを聞き続けたほうもよほどの我慢と根気が必要となります。

 

 

 

 

 

彼の心の硬くて冷たかった鉄の扉は、スタッフや他の寮生たちが暖かい愛情を持って来る日も来る日も対話を続けたことによって、人と人との心が通じて少しずつ開いていったのです。

 

 

 

 

 

そんなある日、彼はわたしに感謝の気持ちを表しました。

 

 

 

 

 

「いつも、僕のために来てくれてありがとうございます」と深く頭を下げたのです。

 

 

 

 

 

わたしの指導方針を変えずに、やり続けたことが実った瞬間でした。と同時に、A君の心の鉄の扉がなくなった瞬間でもありました。

 

 

 

 

 

関東自立就労支援センターの共同生活寮での約2年の生活、その間に両親に対しての感謝と反省の気持ちも芽生え、大学入学という目標、海外へ再チャレンジと明るく輝くやる気にあふれた目をしてA君は実家に戻りました。

 

 

 

 

 

 

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団体名
関東自立就労支援センター
理事長:
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住所
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TEL
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メール
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活動内容
・若年者の就労支援、
 学習 支援、生活訓練
・共同生活寮の運営
・教育相談の実施
・各種資格取得支援