ひきこもりと高機能広汎性発達障害
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ひきこもりと高機能広汎性発達障害

症例   現在25歳、 男性

 

 

 

 

両親は結婚が遅く、患児は高齢出産でした。生育歴としては、妊娠中に妊娠中毒症がありましたが、それ以外に特記すべき問題はありませんでした。

 

 

 

 

周産期、39週3150グラムにて出生しました。仮死はありませんでしたが、強い黄疸のため交換輸血を受けました。

 

 

 

 

乳児期、特記すべき問題はなかったといいます。始歩12ヶ月でしたが、始語18ヶ月でパパ、ママ、ブー(車)、デン(電車)等の言語が見られ、1歳6ヶ月健診ではチェックを受けませんでした。

 

 

 

 

しかし、その後言葉の伸びは不良で、3歳を過ぎてようやく言葉を用いるようになったといいます。

 

 

 

 

親から平気で離れたり、目が合わないということはなかったといいますが、マイペースで興味のあるところに行ってしまい、指示のとおりは悪かったようです。

 

 

 

 

3歳頃からカレンダーや時計に興味を示し、数字が好きで、また車に熱中していました。

 

 

 

 

4歳にて保育園に通い始めましたが、集団行動がまったくできず、保育士のささいな注意にパニックを起こしました。

 

 

 

 

園の様子を見て驚いた両親は小児科を受診しましたが、特に問題はないと言われました。

 

 

 

 

しだいに保育園に通うことを患児は嫌うようになり、休みがちになりました。登園をしても友人から離れ、一人で時計の絵を描き、またカレンダー作りをしていました。

 

 

 

 

行事にはほとんど参加できませんでした。保育園の紹介で、児童相談所にしばらく通いましたが、社会性が遅れているといわれました。

 

 

 

 

しかし明確な診断は告げられず、母親の接し方の注意を受けたといいます。そでにこの保育園時代に、患児をからかったり、叩いたりする同級生がおり、このようないじめっ子の存在によって、ますます患児は園に行くことを嫌うようになりました。

 

 

 

 

結局、保育園をとおして約半分は登園しませんでした。患児は通常学級に進学しましたが、集団行動の問題は小学校に上がってからも続きました。

 

 

 

 

教師の指示にしたがわず、授業中に離席し、教室から出てしまうこともしばしばでした。

 

 

 

 

しかし一年生の担任は熱心に患児を説得し、患児も担任の先生の指示にはしだいに従うようになりました。

 

 

 

 

小学校入学後、患児は喘息発作を生じるようになり、一年生だけで30日あまり欠席しました。

 

 

 

 

しかし成績は悪くなく、特に漢字は好きでつねに満点を取っていました。小学校2年生になって、担任が厳しい先生にかわり、患児の行動を厳しく制限し、それに対して患児はパニックを頻発させるようになりました。

 

 

 

 

また、体育の時間にクラスで班に分かれて競争をしましたが、患児は人の批判はするものの自分はうまくできず、患児が加わるとその班はいつも負ける状況でした。

 

 

 

 

このような状況のため、患児は激しいいじめを受けるようになりました。担任はいじめへの対処をせず、患児の勝手な行動を皆が注意してくれていると両親には述べたといいます。

 

 

 

 

喘息発作もひどくなり、しだいに登校を渋るようになりました。小学校3年生の1学期は散発的な登校状況でしたが、2学期からは完全な不登校になりました。

 

 

 

 

学校からは担任が迎えに来ましたが、激しいパニックを生じるので、児童相談所へ紹介されました。

 

 

 

 

しかし患児は家から外へ出なくなり、母親のカウンセリングのみが行われました。

 

 

 

 

この状態で小学校6年生まで、患児は不登校のまま家で過ごすことになりました。家にいる間は安定しており、喘息発作も少なく、楽しく毎日を過ごしていたといいます。

 

 

 

 

しかし中学生になってもこの不登校状態が続くため、両親は当時不登校の入院治療を積極的に行っていたC病院小児科を患児を説得して受診しました。

 

 

 

 

ここにしばらく継続的に受診するなかで、普通の不登校とは異なる雰囲気に小児科医が気づき、児童精神科へ紹介をし、ここで初めて患児はアスペルガー障害の診断を受けました。

 

 

 

 

患児は、診断を告げられたときにはパニックになりました。しかし何度かに分けて治療者から説明を受けるうちに、徐々に自分のハンディキャップについて納得するようになりました。

 

 

 

 

同時に彼は、C病院への入院と、隣接する病弱養護学校への転校を決意しました。こうして中学2年生末、実に小学校3年生以来初めて、患児は学校教育への参加をはたしました。

 

 

 

 

しかし、なじみのない集団生活は彼にとっては「地獄のように辛く」、些細なことで頻回にパニックを生じ、喘息治療のために重視されている運動療法や体育の授業への参加を喘息が悪化するからと拒否を続けるなど、同級生や病棟のスタッフとのトラブルを繰り返しました。

 

 

 

 

このために、入院生活に苦痛を訴えるようになり、やがて自宅へ戻ってしまいました。

 

 

 

 

この入院および養護学校の体験は、患児にとって外傷体験となったようで、その後、この日々を恨みをこめて原稿用紙換算にて計100枚近い手記として、ことこまかに記述しています。

 

 

 

 

それから約10年間、彼はいわゆるひきこもり生活を続けています。10代後半の一時期、高機能広汎性発達障碍児・者の会に参加し同じハンディを持つ友人との交流がありましたが、この会のなかでもパニックを起こすことを繰り返しました。

 

 

 

 

その後、彼は同年齢の友人との交流を避けるようになり、会からも退会してしまいました。

 

 

 

 

唯一、文通をしている友人がいましたが、やがて彼のほうから「身勝手な手紙を書く」と批判をして交流を断っています。

 

 

 

 

しかし病院の外来には規則正しく通い続け、ごく少量の抗精神病薬(対人的被害念慮の軽減の目的で処方)を定期的に服用しています。

 

 

 

 

自分の趣味の模型や音楽の店にはみずから通っていますが、気管支炎や喘息がストレス状況や季節の変わり目には必ず生じ、現在は、ストレスを完全に避けた生活となっています。

 

 

 

 

今後のことをみずから心配はしていますが、彼自身もまた家族も、先の見通しが立たない状況が続いています。

 

 

 

 

先に共通の問題として挙げた、診断の遅れ、学校教育における迫害体験、不登校、触法行為、そして併存症の存在はそれぞれへの対応がこのグループのひきこもり対策になります。

 

 

 

 

提示した症例にしても、幼児健診、保育園、小学校とさまざまな場面で診断を受ける可能性はあったのではないかと思われます。

 

 

 

 

特に何度も児童相談所に通っており、社会性の遅れに気づかれていながら、確定診断は中学生になって初めてなされています。

 

 

 

 

高機能広汎性発達障害が今日のように、広く知られるようになる以前とは言え、彼にかかわったいわゆる専門家の責任は非常に重いと思います。

 

 

 

 

もっと早くから正確な診断が下されていれば、彼の非社会的な行動がすっかり定着する前に、もっと積極的な介入を行うことが可能であったのではないかと考えられます。

 

 

 

 

発達障害において、最悪の対応はなんと言っても放置です。今日、発達障害の併存症として生じたひきこもりにおいて大きな問題は、子どものこころの専門家の圧倒的不足のために、高機能広汎性発達障害の児童、青年の治療はおろか、診断が可能な医師が、著しく限られていることです。

 

 

 

 

児童精神科の専門医は現在、子どもたちへの対応だけでパンク状態にあり、大人にまで手が回りません。

 

 

 

 

成人に至った症例の場合、正確な診断を受けることは全国的にきわめて困難な状況となっています。

 

 

 

 

症例にみるように、この診断の遅れと、学校でのいじめは密接に関連します。いじめが高機能広汎性発達障害の対人関係を歪めてしまうことに関しては、多くの証拠があります。

 

 

 

 

しかし迫害体験ということで言えば、いじめと同様に、子どもの虐待の問題も無視できないでしょう。

 

 

 

 

これも診断の遅れが関係します。不登校ですが、やはりひきこもりの準備状態としての遷延化した不登校という問題は高機能広汎性発達障害においても重要な臨床的要因であるといえます。

 

 

 

 

このグループの不登校への対応は、積極的な登校への働きかけが必要であることはこれまでにも指摘されてきました。

 

 

 

 

これは、このグループが社会的なハンディキャップを持っていることを考えれば、容易に了解できます。

 

 

 

 

迫害的ではなく、しかし社会的な学習が少しずつ可能である教育の場を小学校、中学校に用意することが、後年のひきこもりへの最大の予防となるでしょう。

 

 

 

 

このためには、通常学級にこだわることは無意味であるとわたしは考えます。彼らにとって登校し参加することが可能な学級が最良の教育の場であり、たとえ知的に正常であっても、通常学級においては参加が困難であり、障害児クラスあるいは養護学校であれば通うことができるのであれば、通える場を選択することが後年の不適応を減らす唯一の道です。

 

 

 

 

さて、触法問題については気が重いです。ですが、犯罪はもっとも明らかな治療、教育の失敗例であり、この問題を避けて通ることはできません。

 

 

 

 

わたしはこれまで、高機能広汎性発達障害の触法事例は例外的な存在であると述べてきました。

 

 

 

 

ですが、これだけ続けて毎年このグループの青年による重大事件がわが国において起きているとなると、無関係と強弁を続けることは不可能です。

 

 

 

 

高機能広汎性発達障害は生来の社会的なハンディキャップを持っているため、処遇を誤った場合に、犯罪というかたちで不適応が噴出する場合があることを認めざるを得ません。

 

 

 

 

この問題に関する継続的な研究の示すところによれば、触法グループの特徴は以下の3点、すなわち、診断の遅れによる誤った処遇、虐待・いじめなどの迫害体験、適応状態が非常に不良な現状です。

 

 

 

 

これらの問題はすべてひきこもりグループにも共通しており、ひきこもりと触法行為とがもっとも不良な併存症として重なり合うことが、この点からもうかがえます。

 

 

 

 

併存症は、青年期以降の症例に関しては、看過できない問題であり、特に統合失調症やうつ病の併発は、ひきこもりに直結する問題です。

 

 

 

 

このような場合には、言うまでもなく併存症への治療が優先されます。これに関連して、青年期成人期の精神科疾患と発達障害との関連について触れておきたいと思います。

 

 

 

 

高機能広汎性発達障害の登場によって、精神医学は従来の診断を見直すことが必要な状況となっています。

 

 

 

 

これまで成人における精神医学体系では、発達障害という観点から検討がなされていなかったからです。

 

 

 

 

特に人格障害に関しては、発達障害の視点を加えた包括的な再検討が必要であると考えます。

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