ひきこもりと対人恐怖と日本の社会
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ひきこもりと対人恐怖と日本の社会

ひきこもりやニートの人たちの中には、対人恐怖に苦しんでいる人が少なくありません。

 

 

 

 

森田療法を創始した森田正馬氏が名づけた対人恐怖には、たくさんの部分的恐怖が含まれています。

 

 

 

 

それらは大まかに2つのグループに分けられます。一つは大衆恐怖、会議恐怖、異性恐怖、長上恐怖などと呼ばれる恐怖で、DSM-IV(米国精神医学会『精神障害の診断・統計マニュアル第四版』)の他人の注視を浴びるかもしれない生活状況において自分が恥をかく恐怖という社会不安障害にほぼ相当し、特定する例の「会話を始めたり続けたりすること、小さいグループに参加すること、デートすること、目上の人に話をすること、パーティに参加すること」などの諸場面に関する恐怖といえます。

 

 

 

 

もうひとつは、赤面恐怖、目つき恐怖、視線恐怖、体臭恐怖、表情恐怖、思惑恐怖、その他の諸恐怖ですが、その訴えを本人の言うとおりありのままに詳しく聞くと、DSMの記載や、森田氏が主張し、教科書に書かれた対人恐怖の内容とは違う事柄に気づかされました。

 

 

 

 

それを、以前は対人恐怖定型例、のちに確信型対人恐怖(同・社会不安恐怖)と仮称して、訴えの性状や特徴、背景にある対人態度や性格傾向、生育史や家庭状況などを検討しました。

 

 

 

 

日本の社会ないし文化との関係が深いのは、この後者のタイプの対人恐怖だと思います。

 

 

 

 

ここでは対人恐怖の特徴を説明するにあたって、まず本人の語る言葉をそのまま記したいと思います(関東自立就労支援センターでの面接時に当事者が話してくれた言葉)。

 

 

 

 

20歳男性

 

 

 

 

「自分が赤くなっていると・・・・・電車の中でも、向かいに座った人がそわそわしたり、目を伏せたり、横を向いたり、ちょっと舌を鳴らしたり、席を立ったりします。

 

 

 

 

これもやはり自分が赤くなっているので、僕のことを『感じの悪い人だなあ』と思ってそうしていると感じてしまいます」(赤面恐怖)

 

 

 

 

19歳男性

 

 

 

 

「自分の目つきが悪いので、人が嫌がるのではないかと思ってしまいます。相手がビクッとする様子をしたり、ちょっと嫌な顔をしたり、黙って自分を見返したりします。

 

 

 

 

鏡を見るとどうも変な目です。目なんかないほうがいいと思ってしまいます(注:彼は実際には柔和でややもの悲しげな目つきの持ち主です)」(目つき恐怖)

 

 

 

 

39歳男性

 

 

 

 

「17歳の頃、電車通学のときにまわりにいた人たちの態度が気になりだしました。

 

 

 

 

鼻をクンクン鳴らしたり、咳払いをしたり、ひそひそ声で『いや~、くさいな』と言ったりします。

 

 

 

 

・・・・・家庭ではあまり感じませんが、妻が結婚12年間に一度もその臭いに気づかなかったというのは、妻の鼻が変だからだと思います」(体臭恐怖)

 

 

 

 

これらの訴えには、いくつかの共通点が見られます。

 

 

 

 

1、自分には周りに嫌悪感を与える欠点がある。

 

 

 

 

むかいの人が横を向いたり、ビクッとする様子や咳払いをしたりするのは、自分の赤面や体臭などがまわりの人たちに嫌な思いをさせるためで、「相手に嫌われる」ことが恐ろしいと悩みます。

 

 

 

 

このタイプの恐怖の持ち主も、赤面などが恥ずかしいといいます。

 

 

 

 

しかし前記の緊張型の恐怖のように、たとえば出席者の前で「自分が恥をかく」ことが恐ろしくて会議に出られない場合とは、恐怖の対象や性状が異なっています。

 

 

 

 

2、その欠点はまわりの人の表情や行動から直感的に感じ取られる。

 

 

 

 

緊張型のケースは、会議の場や異性・長上の前という生活場面に悩みますが、確信型の症例は、相手が目を伏せ、鼻を鳴らし、席を立つ動きによって直感的に知られる自分の欠点の存在に悩むのです。

 

 

 

 

3、その欠点に関する確信は強固です。

 

 

 

 

DSM-IVは「恐怖が過剰ないし不合理なことを認識している」という条件を設けています。

 

 

 

 

それは緊張型の対人恐怖には当てはまります。しかし確信型のケースは、相手の様子から知られる自分の欠点を過剰・不合理とは感じていません。

 

 

 

 

誰でも赤面する、あなたはそれを気にし過ぎているというのは、医師の意見であって、当事者自身の実感ではありません。

 

 

 

 

そのような説明をされると、患者の心は医師の無理解への失望と悲しみと怒りでいっぱいになってしまいます。

 

 

 

 

それでは前記のような悩みを持つ彼・彼女は、なぜこの恐怖にとりつかれるのでしょうか。

 

 

 

 

彼らの語りを聞くうちに、その背後に周囲の人たちへの過敏な気配りや思惑があることに気づかされます。

 

 

 

 

26歳男性

 

 

 

 

「会社で隣の係はにぎやかに騒いでいるのに、自分が係長をしている机ではみなシーンとしています。

 

 

 

 

これもみな自分のせいだと思うと、つい緊張してしまいます」(思惑恐怖)

 

 

 

 

29歳女性

 

 

 

 

「人に迷惑をかけたくないという気持ちは絶対です。何かひとつもらっても、何倍かにしてすぐ返すという気持ちが常にあります。

 

 

 

 

たとえ一文でも・・・。」

 

 

 

 

32歳男性

 

 

 

 

「ずうずうしい男になれません。仕事でも嫌な仕事は率先してやって、楽なのは他人にまわします。

 

 

 

 

すべてに自然に相手本位に考えます」このような他者志向的な生活態度は、程度や内容の違いはあっても、確信型の対人恐怖のケースに広く見出されます。

 

 

 

 

それが自己主張よりも相手の感情に配慮する日本社会の対人関係の特性に通じることは後に触れます。

 

 

 

 

DSM-IVの社交不安障害には、回避性パーソナリティ障害や大うつ病の共存が報告されています。

 

 

 

 

確信型のケースも、症状に悩み始めてからは、生活に支障をきたし、抑うつ的で人を避けて暮らすようになることが多いです。

 

 

 

 

しかし、病前の性格傾向を尋ねると、積極的、熱心、几帳面などと答えた人が最も多く、明るく活発という人も100例中36人で、内向的、引っ込み思案という24人よりも多く、全体としてまじめで元気な平均的日本人という印象がもたれました。

 

 

 

 

さらに幼少時の性格は、「陽気で活発、ガキ大将でヤンチャ坊主で・・・・」という男児、「天真爛漫で男の子をやっつけたり、野球をしたり・・・・」という女児や、それほどでなくとも明るく屈託のない子どもだったというケースが過半数で、おとなしくのんびりした子どものほか、「めそめそした駄々っ子で、幼稚園の頃から人と遊べなかった・・・・」などという子どもの話はあまり聞かれませんでした。

 

 

 

 

対人態度や性格傾向が、体質的要因とともに幼児期からの家庭環境の中で育まれることは言うまでもありません。

 

 

 

 

通常の面接場面で、自由に話された当事者たちの語りからは、次のような情報が得られました。

 

 

 

 

特に目立ったのは、「同胞5人の末子で、兄が夭折して姉ばかりが残った。父は・・・・忙しく、母は愛情だけの人。

 

 

 

 

・・・・・盲目的にかわいがられて、いつも母にくっついて歩き、何でも買ってもらった」などのように、相当に愛情過多と思われるケースが多く見られたことです。

 

 

 

 

他にも「母はやさしく、子どもに目がなく、大事にされた」など過保護な印象を受けるケースが多く、残りも「楽しい家庭で、貧困だけが玉にきず」というような安定して波乱のない家庭でした。

 

 

 

 

一方、解離性障害などに多い問題家庭や父母への陰性感情を強く訴えるケースはあまりみられませんでした。

 

 

 

 

詳細は書ききれませんが、全体として「愛情深く」、同時に一応きちんとした「しつけ」が保たれた家庭という印象がもたれたと言えます。

 

 

 

 

対人恐怖症は、日本だけに見られる特異な神経症と考えられていました。それは該当する報告例が諸外国にないことが主な理由でした。

 

 

 

 

一般に対人恐怖の人は、深刻に悩みながらも精神科に受診することが少ないです。

 

 

 

 

森田療法の知識・用語の普及した日本と違って、諸外国ではとくに受診者が少なかったため、報告がなかったものと思われます。

 

 

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