ひきこもり男性(23歳)の経過
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ひきこもり男性(23歳)の経過

これは、中学2年の夏休み明けからの不登校に始まり、23歳の現在もひきこもりが続いているAさんの事例です。

 

 

 

 

 

「不登校(挫折体験)」

 

 

 

 

 

中学2年の一学期の終わりになって、学校に行きたくないと言いはじめたものの、そのときは何とか登校を続けました。しかし、夏休み明けに数日行ったきり、それ以降はぴたりと一日も登校しなくなりました。

 

 

 

 

 

どうして学校に行くのが嫌なのか、親や担任がいくら尋ねても理由は言いませんでした。両親もさっぱり訳が分からず、その学校のスクールカウンセラーに相談しました。

 

 

 

 

 

そこでは「どんな場合にも、登校刺激はよくない」というアドバイスがあり、両親はそれを忠実に守って、学校のことには一切触れずにそっとしておきました。

 

 

 

 

 

中学校の卒業を控え、学校から他の生徒のいない放課後に一日でもいいから来てほしいと求められました。中学3年の一年間は一日も登校することがなかったので、学校としてもこのまま卒業させるのはまずいと考えたのでしょうか。

 

 

 

 

 

そこで、言われたとおりに本人に登校を促してみました。しかし、本人は登校するどころか、逆に自分の部屋に閉じこもったまま出てこなくなりました。

 

 

 

 

 

びっくりして担任に連絡すると「無理に学校に来なくてもいいですから」という返事でした。無理にでも来るように言っておいて、ずいぶんと気楽なものだと親として腹立たしい思いでした。

 

 

 

 

 

スクールカウンセラーの先生には「だから刺激しないようにと言ったはずでしょう」と言われそうな気がして、相談できませんでした。

 

 

 

 

 

親としては、とんでもないことをしてしまったと後悔しました。食事は夜中に台所におりてきて食べたりしていたようです。

 

 

 

 

 

何とか話をしようと、トイレに向かう足音が聞こえたときに親も廊下に出たりもしましたが、気配を感じるとすぐに自分の部屋に戻ってしまいます。

 

 

 

 

 

自由にトイレにも行けないとなるとそれも心配です。家族全員が、家の中での行動を手控えるようになっていきました。その後、一週間ほどすると前のように居間に出てくるようになり、安心しました。

 

 

 

 

 

でも、そのときから本人の生活は完全に昼夜逆転となってしまったのです。

 

 

 

 

 

この事例にあるように、ひきこもりでは過去に不登校、いじめなどのエピソードを持つことが多く見られます。こうしたエピソードは、この年齢の子どもにとってみれば自らの存在にかかわるような、自らの存在を脅かすような重大事件です。

 

 

 

 

 

それに対処する有効な手段や方法が見つからないままにすくんでいる、そんな挫折体験を経験していることになります。

 

 

 

 

 

もちろん、これ以外のひきこもりもありますが、不登校、いじめを契機とした一群があるというのは明らかです。

 

 

 

 

 

「不安定さ」

 

 

 

 

 

そんな中で中学も卒業して一年が過ぎた頃、16歳の誕生日近くから、自分の部屋のベッドやパソコンなどを壊すようになりました。

 

 

 

 

 

それからは、何かあると家の中の物に当たるようになりました。理由は、食事が気に入らないとか、外がうるさいというときもあれば、一人で自分の部屋にいて何の前触れもなく荒れだすこともありました。

 

 

 

 

 

半年後には、家中の壁がボコボコの穴だらけになっていました。

 

 

 

 

 

ひきこもりというと、その語感から「どこか人里離れて引っ込んでじっとして出てこない」といったイメージがありますが、実際はそうではありません。

 

 

 

 

 

この例から分かるように、ひきこもりは不安定な経過をたどります。ひきこもりは、単なる隠居生活ではないのです。

 

 

 

 

 

「語り始め」

 

 

 

 

 

一年ほどそんな状態が続いたあと、母親に対して中学でのいじめの事実を初めて語りました。さらに、不登校のときの自分なりの思い、辛さ、苦しさなどをいっぺんに吐き出しました。

 

 

 

 

 

親にしてみると初めて聞く話で、驚くやら、悔しいやら、腹立たしいやら、混乱した思いです。当時は何度聞いてもそんなことがあったなどひと言も言わなかったのですから、思わず「なぜそのときに言ってくれなかったの」と言ってしまいました。

 

 

 

 

 

すると、「親のくせになぜちゃんとわかってくれなかったんだ」「親ならそういうことにちゃんと気づくべきだ」「気づかない親が悪い」と、一方的にまくし立てられてしまいます。

 

 

 

 

 

このように、とてつもなく辛い体験を語れるようになるのには、ある程度の時間の経過が必要です。ときにはすべてが過ぎ去るまで、とても語れないこともあります。

 

 

 

 

 

この場合は、学校というテーマが遠ざかるまでの時間が必要だったわけです。親にしてみれば、今になってから言われてもどうにもならないのですが、過去の辛い出来事を語れるようになるのはいいことです。

 

 

 

 

 

確かに過ぎ去った出来事を書き換えるわけにはいきませんが、語れるようになったときに、その癒しが求められているのです。

 

 

 

 

 

「不安定さの高まり」

 

 

 

 

 

これに続き、母親に対し、「おまえら(両親)のせいでこんなふうになったんだ」「どう責任を取るんだ」「俺に謝れ」と詰め寄ってくるようになりました。

 

 

 

 

 

「本当はいやだったのに、親に無理やりスイミングスクールに連れて行かれた」と、親の理不尽を突いてきます。親にしてみると、その当時は嫌がるそぶりなどなかったし、むしろ喜んで通っていたのになぜ今頃になってそんなことを言い出すのか、皆目見当がつきません。

 

 

 

 

 

「幼稚園のとき、家に帰って園からの連絡帳を『ハイ』って持っていったのに、あのとき俺のほうを振り向いてくれなかった」と言われるのですが、そのこと自体が思い出せません。

 

 

 

 

 

さらに、「妹にはそんなことをしなかった。妹には甘い」となじってきます。

 

 

 

 

 

親の子育てが悪かったと認め、あやまってもみるのですが、それで本人が納得するわけではありません。

 

 

 

 

 

「ちゃんと気づいてあげればよかったのに、気づかなかったお母さんが悪かったよ」「子育てもろくにできなくて、これじゃあ母親失格だね」「ごめんね」と言っても、「あやまればそれでいいと思っているのか」「それでごまかそうとしたってダメだぞ」と言われてしまいます。

 

 

 

 

 

でもそこで、「そんなこと言ったって・・・・・・」「お母さんなりに、ちゃんとやってきたつもりだよ」と反論でもしようものなら、ますます語気荒く親が悪いと繰り返すばかりです。

 

 

 

 

 

しかも、こうしたことを言い始めるのはたいてい真夜中過ぎの時間です。それから明け方の4時過ぎまで何時間もくどくどと続き、それにずっと付き合う母親はもうクタクタです。

 

 

 

 

 

疲れきってようやく本人の攻撃から解放されると、心底ほっとします。しかし、その反面で親として何が足りなかったのか、何がよくなかったのか、過去を悔やみ、悩み苦しみ、改めて自分を責めてしまいます。

 

 

 

 

 

ひきこもりの状態が長引くと、否応なしにその不安定さが高まってきます。

 

 

 

 

 

「家庭内暴力」

 

 

 

 

 

そして、母親に対する暴力が始まりました。最初はくどくど言う中で、こぶしを見せて威嚇してくる程度でしたが、それが小突いてきたりとだんだんエスカレートしてきました。

 

 

 

 

 

そのうち、母親が台所に立っているときに後ろから蹴りを入れてくるなど、明らかな身体的暴力となってきました。いかにもイライラしている様子のときもあり、そんなときはある程度身構えて防御することもできます。

 

 

 

 

 

しかし、そんな様子もないまま通りすがりに突然に暴力を振るうこともあり、そんなときは自分をかばうこともできず、しまいには肋骨にひびが入る怪我を負うまでになりました。

 

 

 

 

 

ひきこもりが長引くと、その不安定さがときに家庭内暴力として現れます。暴力の形態には器物損壊、身体的暴力などがあります。

 

 

 

 

 

器物損壊は、物を投げる、物を叩く、物を壊す、壁やドアに穴を空ける、床を踏み割る、ガラスを割るなどがあります。身体的暴力は、小突く、叩く、殴る、蹴るなど直接のもののほか、直接身体に触れずに威嚇してくるものも含まれます。

 

 

 

 

 

こうした暴力の対象は、多くの場合、身近で比較的弱い存在である母親になります。しかし、ときには父親に向くこともあり、そうなるとたいがいは父子の間で互いに力でねじ伏せようと、力比べが始まります。

 

 

 

 

 

父親はひきこもりの本人との力比べでは負けないかもしれませんが、やはり親と子です。取っ組み合いのけんかになっても、最後のギリギリのところでは、父親のほうが手加減してしまいます。

 

 

 

 

 

力比べではどちらかが怪我をする危険があり、得策ではありません。この場合は、やる前から結果は分かりきっています。

 

 

 

 

 

つまり、本人と力比べをしても、それが父親でも母親でも、結果的に親のほうが怪我をするリスクを負うのです。

 

 

 

 

 

「家族関係の硬直化」

 

 

 

 

 

家庭内暴力は一年余りでなくなりました。何がきっかけで暴力が始まったのか分かりませんでしたが、それと同様に、どうして暴力がなくなったかも家族には分かりません。

 

 

 

 

 

それでも家族が物音を立てると、まるで警告のように壁や床をドンドンと鳴らします。再び以前のひきこもりの状態に戻らないようにと、家族は本人の言いなりで、腫れ物に触るようにして家中が本人中心の生活を続けています。

 

 

 

 

 

このような状態になってくると、本人を取り巻く家族関係がどんどんと硬直化していきます。そして、本人を含めた家族全体の緊張が緩むことはなく、現状を変えることが難しくなっていきます。

 

 

 

 

 

「病的?症状の出現」

 

 

 

 

 

22歳になって再び部屋に閉じこもるようになり、ほとんど部屋から出てこなくなってしまいました。中学の頃の一週間ほどの閉じこもりどころではなく、もう一年以上も親は口をきくことはおろか、本人の顔を見ることすらできないでいます。

 

 

 

 

 

部屋の中から壁越しに、大声で意味不明のことをわめき散らすのが聞こえてきます。早口で叫ぶように言うので、いっしょに暮らしている両親にもよく聞き取れません。

 

 

 

 

 

かろうじて「てめえらのせいだ!!」「てめえぶっ殺してやる!!」と言っているらしいという程度です。その「てめえ」というのは、両親を指しているのかもしれません。

 

 

 

 

 

あるいは幻覚などの病的症状があって、その幻覚上の相手を指しているのかもしれません。それは、両親にもわかりません。

 

 

 

 

 

ひきこもりは、ときに病的に見える行動を伴うことがあります。そして、実際に病気のこともあります。もともと病気の症状だった可能性もあります。

 

 

 

 

 

あるいは、経過していく中で、はじめのひきこもりの状況とは別に病気を発症するということも十分考えられることです。いろいろなケースがあるのですが、最終的には本人に会うまでなんとも言えません。

 

 

 

 

 

「初回面談」

 

 

 

 

 

この時点で母親が関東自立就労支援センターに相談に来られました。親はこれまで何もしてこなかったわけではありません。わたしと出会う前にも、中学の頃の最初に心配を感じたかなり早い時期から、複数の病院、クリニック、相談機関などに出向いたりもしてきました。

 

 

 

 

 

しかし、どれも本人が来ないことなどがネックとなって、十分な援助が受けられずに今日に至るまでに力を失っています。つまり、あるところでは「甘やかしすぎですね」「親がまず毅然とした態度を示さないと」「これはあなたがたの子育てのツケが回ってきたんですよ」などと、親の責任をとがめられ、心を傷つけられる体験をしています。

 

 

 

 

 

また別のあるところでは、「もう少し様子を見ましょう」とやんわり先送りされ、先の見えない不安がいっそう高まり、相談を続ける気力を失うということも体験しています。

 

 

 

 

 

それでもなお残った気力を振り絞って、これを最後にと相談に出向いた、そんな親と今われわれは出会うことになるのです。

 

 

 

 

 

ひきこもりの場合、はじめから本人が相談に来ることは少ないと言えます。この事例のように、不登校、いじめなどの強い挫折感がある場合は、特にそうです。

 

 

 

 

 

このようなケースでは、本人が相談に出向くようになる前に、いつも家族の相談が先行しているといえます。

 

 

 

 

 

しかし、少ないながら本人が最初の段階から相談に来ることもありますし、また専門家から直接の援助を受けることなく自ら動き出していくこともあります。

 

 

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